ヨットの上で…(参)
@J2130
第1話 いつもと違う
真夏の日差しのきつい日。
江の島のヨットハーバーで僕らヨット部OBが470(ヨンナナマル)クラスのディンギーを乗ろうとしていた時。
若い、白いビキニの色白のお姉さまがヨットの艤装をする僕らの横をゆっくりと歩いてゆきました。大きい麦わら帽子にサングラス、腰にはパレオを巻いていましたね。
「なんだありゃ」
S先輩がしっかりと女性のクビレを目で追いながらつぶやき
「水着のおねえちゃんだ…」
同期の小杉さんが同じく言い、
「いい腰だね…」
後輩の遠山も眺めている。
「サングラスしてましたが、かわいかったですよ」
僕も続けました。
ヨットハーバーとはいえ、水着のお姉さまは珍しいです。まずいません。
ワイヤーや金具が突起したヨットは危険なので、水着なんかでは乗りません。
あと日焼けもするし、シャツも着ます。
ヨットハーバーでヨットに乗る人々は女性も含めて真っ黒で、おしゃれな姿はしていません。
水着で長くてきれいな足をだして歩いている人はいないのです。
見る分には非常に非常にいい光景ですが…。
「なんか会社のオーナーのクルーザーに招待されたおねえちゃんが勘違いして水着で歩いていんじゃないか…」
ヨットというとクルーザー、おしゃれ、セレブ、そんな感覚がありますからね。
でも実際ヨットは日に焼けるし、潮と汗まみれのスポーツなんです。クルーザーも何回か乗っていますが、レースに出るとけっこうハードです。
遊びのクルーザーならいいですね。でもハーバーで水着で歩くのはちょっと早い。船に乗って沖にでてからにして欲しいです。
ここでは僕らを楽しませるだけです。
でも、そういえば今日のハーバーは雰囲気が違う。
お姉さまが、水着のお姉さまは数人だけれど、気合の入ったお姉さまが多い。
確実にヨットマン、ヨットウーマンではないです。
見慣れない、いろいろな大学のヨットもたくさんいる。
あまり日に焼けていない男子大学生もいるし、このハーバーに慣れていないのか右往左往している。
それに、どの470もスナイプも恐ろしいほどキレイだ…。
いい船ばかり、なんなんだ…。
レースなんだろうけれど、僕らの大学時代のレースとは違うぞ。
「オス!」
応援団も来た。
え…、どうした…。
「栄えあるー、〇〇大学校歌ー 」
始めた…
集まる男子学生、お姉さま方。
太鼓がなり、応援団が大きな振りをつけて歌う。
「なんですか…、関東大会でもないでしょう…」
「なんだ…」
遠山と小杉さんがサングラスの目を人だかりに向けた。
S先輩も僕も同じくサングラスのまま見た。
当然、この4人の目はむさくるしい応援団ではなく、お姉さまをしっかり見ている。
誰とは言わないですが、もう少し近くで見ようとのことで、おっさん4人は人だかりに歩きだしました。
おかしい、大学のヨット部の船だけど、学生はみんなあまり黒くないし、ギラギラした感じがしない。
とにかく場違いの若いお姉さまが、きれいなお姉さまが不自然に多い。
「堀ちゃん…、S先輩、遠山…」
小杉さんが僕らに小声で呼びかけた。
「あの子、かわいいっすね、ピンクの水着の子…」
僕は思わずサングラスをはずす、ピンクかどうかわからないからね。
「小杉ってやっぱりスレンダー好きだよな…」
S先輩が言った。
実際、小杉さんの奥さんはスレンダーな人です。
そのためにここまで来たんじゃないんだが…。
応援団は校歌のあとにおなじみの応援歌を歌い出した。
真夏に学ランは暑いだろうな…。
「わかりましたよ、先輩…」
遠山が言った。
「この辺の船全部…」
数十艇の船がいる。どの船の横腹にも大学名が入っている。
「この船たちって、大学の船だけど…みんなある特定の学部というか大学ですね」
確かに白い船体に黒く大学名が入っているが…、ちょっと変だ。
大学名の次に何か書いてある船もある。
こんな感じだ。
「〇〇大医」
普通、学部までは書かない。
「あれ、駅伝で有名な御茶ノ水のJ大ですよ」
見れば誰もが知っている医大の名前だ。体育学部もあるが、古い医大だ。
見渡せば明らかにそうだ。
すべての船には東京、関東では知られた医大、もしくは総合大学の医学部もしくは歯学部の名前が入っている。
「医学系、歯学系の大学のヨットレースって聞いたことあるな…」
医療機器の販売会社に勤めているS先輩が言った。
「そんなもんあるんですね…」
こぎれいな船を見ながら僕もつぶやいた。
でもなんでこんなに若い女性がいるんだ…。
こうゆうことはS先輩だ、S先輩ならわかるだろう。
「Sさん、医科歯科系の大学のヨットレースはわかるのですが、なんでこんなにお姉さまがいるのですかね…」
先輩、近くの胸の大きいタンクトップのお姉さんを見ていた。
「堀ちゃん、あの場違いの女の子達はみんなおそらく医学生、歯学生の彼女だ…」
「みんなですか…」
「ああ、応援に来ているんだよ」
「はあ…応援に」
ライフジャケットを着けた男子学生の傍らに小柄な女の子がいた。
かわいいね。
ハーバーでサマードレスの女子なんて初めてみた。
薄い青色の服で、肩も出ている。
清楚でかわいい。
「将来のドクターの応援に来ているんだよ…」
ドクター…。
ああそうか…。
小ぎれいな船、あまり日に焼けていない学生、多くの女子。
勉強が忙しくて確かにヨット部とはいえ練習量も少ないよね。
だけど資金はあるからみんないい船なんだな。
女性も未来のドクター、院長先生の為にいろいろな意味でがんばって応援に来たんだ。
かわいいね、けなげだね。
「俺たちのレースの時なんて、部員以外誰も応援してくれなかったけれどね…」
誰も来ない。彼女もいなかったし…。
まあいいや、女子大生の水着見れたし。
僕らは自分達の船にもどり、艤装を終了させた。
思い思いに座りビールを飲み始めた。
海に向かうスロープは例の医科歯科系のヨットで入り乱れているので出艇はちょっとおさまってからにしようと決めていた。
このハーバーで乗りなれていない、体育会ほどは上手でない彼らといっしょに、同じくそれほど上手くない僕らが出艇して衝突でもしたら大変だからね。
S先輩が遠山に言った。
「遠山、あのパワーボートがかれらのジュリー艇(審判艇)、本部艇だろうからさ…」
見ると桟橋に名門、幼稚舎まである大学の名が入ったボートがあり、出艇の準備をしていた。
「どこの海面使うか訊いてきてくれるか…」
いくつかのレース用の海面がハーバーから指定されている。
A海面とかB海面とか。
だいたいわかるのだが、近づかないほうが賢明だからね。
「はい…」
遠山がさっと立ち上がり走って向かおうとしている。
「遠山、あとひとつ…」
立ち止まる遠山。
S先輩、ハーバーに立ち出艇していく医科歯科系のヨットに笑顔でかわいく手を振る水着や可憐な女性を見て付け加えた。
「来年の日程訊いておいてくれ」。
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