12話 屋敷をゲット

 翌朝。

 シンヤとミレアはケビンに連れられ、街の中を歩いていた。


「……随分と賑やかなところなんだな」


 シンヤが呟く。


「はい。この大通りは、王都や帝都にも負けず劣らずの活気があります」


「そうなのか」


「この街はグラシア領の中でも、商業都市と呼ばれています。交易の中継地点として栄えているのです」


「なるほど」


 シンヤはあたりをキョロキョロと見回す。

 ダンジョン巡りの合間にミレアと歩いたことはあったが、改めて見るとやはり新鮮な光景であった。


「それでは、こちらに参りましょうか」


 ケビンに連れられて、屋敷の前に着いた。

 二階建てのなかなかに立派な家だ。


「ここか?」


「ええ。ここが一つ目ですな。やや敷地面積が控えめですが、大通りに近くいろいろと便利です。ただ、少々騒がしいかもしれません」


「ふむ。なるほど」


 シンヤはケビンに促されて中に入る。

 中は広々としていて、調度品もそれなりに高級そうなものが揃えられていた。

 寝室とリビングはどちらも十分な広さがあり、清潔で掃除が行き届いている。

 次に風呂場とトイレを見る。

 どちらも魔石を利用しており、日本のそれと比較しても遜色ないように思えた。


「いい家だな。本当にもらってもいいのか?」


「もちろんでございます。ただ、候補は後二つ用意してございます。全て案内致しますので、最も気に入ったものを選んで頂ければ幸いです」


「ありがとう。助かるよ」


 ケビンに案内され、シンヤは残りの候補地に向かった。

 二つ目の家は、三階建てになっていた。


「こちらは、敷地面積としては先ほどよりも少し広い程度です。ただ、三階建てですので居住スペースとしては大きな差がありますな。大通りからは外れますが、近くに衛兵の駐屯所がありますので治安は抜群でしょう」


「ほう……」


 シンヤが興味深そうに建物を見上げる。

 そして、中に入り各部屋を確認する。


「お気に召しましたか?」


「ああ。悪くない。ところで、この街の治安はどうなってるんだ?」


「全体的に良好ですよ。酔っぱらい同士の喧嘩やスリ程度なら日常茶飯事ですが、殺人などの凶悪犯罪はほとんど起きていません」


「そうか……。それはよかった。だが、そうなるとこの場所を選ぶメリットが薄れるんじゃないか?」


 シンヤの指摘に、ケビンは苦笑する。


「確かにその通りです。シンヤ様は抜群の戦闘能力をお持ちですし、なおさらかもしれません」


「そうだな。まぁ……その辺も含めて考えるか」


「はい。それがよろしいかと思います」


 三つめの家に着く。

 今度の家は、二階建ての家だった。

 敷地の広さは他と比べてかなり大きい。

 前の二つが家と呼ぶべき広さであることに対して、こちらは屋敷と言っても過言ではない広さだ。


「ここは大通りに面しておらず、駐屯所や冒険者ギルドなどからも距離があります。はっきり申しまして、街の中でも開発中の区域であり、僻地ですな。ですが、その代わり庭が広く取れます。また、裏には小さな林がありますので、鍛錬を行うことも可能です」


「ふむ……。悪くないな」


 シンヤはぐるりと家の中を見て回る。

 風呂やキッチン、トイレなども揃っている。

 魔石を利用した構造となっており、日本における生活感と極端な差はなさそうだ。


「どうでしょう? ご意見を聞かせて頂きたい」


「そうだな……。まずは立地条件がいいと思う。俺は静かで広い場所が好きなんだ」


 地球において魔法の鍛錬を行う際は、山奥や草原によく赴いていた。

 こちらの世界に来るきっかけとなった最後の鍛錬は、太平洋のど真ん中で行った。

 さすがに山奥や草原を日常の住処にすることはないものの、せめて大通りではなく閑静な住宅街を選びたいというのは当然の希望であった。


「ふむふむ」


「そして、裏に林があるというのもいい。鍛錬が捗りそうだ」


 本格的な鍛錬を行う場合は、地球でそうしていたように山奥や草原に赴くことになるだろう。

 しかし、日々のちょっとした精神統一や魔法の鍛錬程度であれば、この林でも十分に行えるように思えた。


「なるほど。では、ここが第一候補ということですね」


「ああ」


 シンヤの言葉に、ケビンは満足げな表情を浮かべた。


「ところで、ミレアはどう思う?」


「えっ?」


 急に話を振られたミレアは戸惑う。


「いや、俺一人で決めるのも良くないと思ってな」


「普通は奴隷になんて聞かナイ。だが……」


 ミレアは屋敷の中をキョロキョロと見回す。


「あたしも広いところは好きダ。あの林も自然を感じることができてイイ。悪くないところだと思うゾ」


「なるほど。そういうことなら決まりだな」


 シンヤは屋敷の外に出ると、ケビンに話しかける。


「ケビン。この家で頼む」


「かしこまりました。では、譲渡の処理を進めておきますので」


 こうして、シンヤたちは新たな住まいを手に入れたのであった。

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