リアル「異世界ハーレム」の世界

Phantom Cat

1

「やった! 採用だ!」


 電話を切った俺は、自分の部屋で、誰も見ていないのにもかかわらずガッツポーズを取る。


 これでようやく再就職のメドがついた……雇用保険が切れる前で助かった……


―――


 二ヶ月前、俺は新卒で入社以来三年勤めた会社を辞めた。よくある中小ITソリューションベンダー。学生時代から自宅サーバを立てて運用していた経験を買われ、俺は開発だけじゃなくインフラ回りの仕事まで任される羽目になり、超激務に見舞われた。果てしなく続くデスマーチとプルリクの嵐。コミット、プッシュ、レビュー、テスト、マージ……まさに社畜以外の何物でも無かった。てなわけで、見事に胃潰瘍になりかけ、ぶっ倒れた俺は退職を余儀なくされたのだ。


 そして、俺は自宅療養しつつ、次の仕事を探していた。そんなとき、俺の叔父さんが、思いもかけないところから仕事のクチを持ってきた。


 野村こども園。読んで字のごとく、子供を預かる施設である。俺が昨日面接に行ってきたのはそこだった。俺の家から自転車で十分通える距離だ。


 何でも、叔父さんの知り合いが園長で、最近自治体から「保育所等におけるICT化の推進」を目的とした補助金がついて、システムを導入したんだが、それを専門的に扱える人がいないので雇いたい、ということらしい。それで、もともとIT屋の俺に白羽の矢が立ったというわけだ。


 面接は滞りなく済んだ。面接官は二人、園長と理事長だった。園長は五十歳くらいの恰幅のいい女性で、人当たりはとても良さそうな人だった。理事長は結構なお年の男性だったが、はきはきと喋る印象だった。


 そして、本日、俺の携帯に園長から電話がかかってきて、採用が告げられたのだ。早速明日から来てくれ、と。とは言え、三ヶ月は試用期間で、正式な採用はそれが終わってからになるということだった。それでも無職よりは遥かにマシだ。俺は大喜びだった。

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