第1話 落第勇者、S級異能者のチームに入る①
「――おにぃ、退院初日に遅刻とかありえないからね!!」
「分かったから叫ばないでくれって……周りの人が見てるだろ……」
「ならもっと早く起きればよかったじゃんっ!! 私も遅れそうなんだけど!?」
俺と遥は走りながら言い合い――というよりも俺への一方的なお説教と言ったほうがいいだろう――をしていた。
遥の声量が大きいせいで道行く人達のほぼ全員が此方を見てくるので恥ずかしいったらありゃしない。
しかし今回は完全に俺が悪いので何も言えないのだが。
いやこの世界のベッドが気持ち良すぎるのがいけないんだ。
異世界のベッドなんてどれも硬かったからこの世界のベッドで寝たら永遠に寝ていられる気がする。
だがこのままではぎりぎり間に合えわない気がするので、最終手段を使うことにした。
俺は【身体強化:Ⅰ】を発動。
この状態なら体への負担もほぼないし、外見も全く変わらないので大衆の前でも使える貴重な形態だ。
なお異能感知者には使っていなくともバレるらしいので強力な異能を使わなければ大丈夫だと代表からも聞いているので問題ない。
「よし、遥……学校まで飛ばすぞっ!!」
「――え……って何でお姫様抱っこ!? おにぃそんなに筋力あったっけ?」
「遠回しに酷いことを……まぁその話は後にして、取り敢えずしっかり掴まってろよ」
「ちょ――きゃああああ!」
俺は遥をお姫様抱っこした後に学校に向けて全力ダッシュ。
今の身体能力なら遥をお姫様抱っこしていても50m走で7秒台を記録できるほどの速度で走れるので十分間に合うだろう。
今までならそこまで速くは走れなかったのだが、入院中も殆ど痛みは残っていなかったので、暇な時間はずっと筋トレに励んでいた。
その御蔭で最近やっと筋肉が付き始めたのだ。
俺達は遅刻3分前にギリギリ学校に到着。
何とか間に合ったので一息つこうとした時、周りの人にめちゃくちゃ見られていることに気づくと共に遥が顔を真っ赤にしてボソボソと喋る。
「……おにぃ……もう降ろして……恥ずかしい……」
「あっ……すまん……」
俺は少し気まずくなりながらも降ろすと、遥は一目散に下駄箱へと向かっていった。
自分が目立つの恥ずかしいっていいながら自ら目立ちに行く俺ってもしかしてバカか?
「……相変わらずのシスコンだな!」
「お前に言われたくないぞ筋肉バカが」
暫しの間呆然としていた俺の隣にいつの間にか来ていた将吾に言い返す。
コイツの筋肉愛は俺の妹愛をも凌駕しそうな勢いなので1番人のことを言えないと思う。
「はぁ……後で謝っておくよ……俺達も行こうぜ」
「そうだな! ところで最近筋トレ始めただろ隼人!」
「ああその事には触れるなバカ!! お前に言ったら永遠に続くんだから!」
俺は将吾から逃げるようにして教室へと向かった。
その後で、『クラスで妹を守るために筋トレを始めた生粋のシスコン』と言う認識が広まってしまったのは言うまでもないだろう。
間違っていないのが更にムカつくが。
☆☆☆
―――放課後―――
俺は何度も遥に謝った後、清華と共に帰路についていた。
「……物凄い疲れる1日だったな……」
「全部隼人の自業自得ね」
「まぁそうなんだけどさ……幾らなんでもいじり過ぎだろ……」
学校も終わり下校中には俺は既に精根尽き果てていた。
あいつら……1日中俺をだしにしやがって……。
いつか全員に仕返ししてやる。
俺が心の中でそう誓っていると、隣りにいる清華がため息を吐く。
「どうしたんだ? ため息なんかついて」
「いえ……ただ少し寝不足なだけよ」
そう言う清華の目の下にはたしかに薄く隈がある。
そう言えば今日の授業中は何度か船を漕いでいたのを思い出す。
「何だ? 悪夢でも見たか? それとも恥ずかしい夢か?」
俺がいたずらっぽく言うと、清華は大声で否定する。
「恥ずかしい夢じゃないわよっ! ……ただ悪夢でもあって幸せな夢でもある……かしら?」
「何じゃそりゃ。悪夢なのにいい夢とか矛盾してるな」
「……そうね、その通りね。でもそう説明するしかないのよ」
そう言う清華は何処か何を考えているような、悲しそうな表情をしていた。
何故か俺が踏み込んではいけない気がしたので咄嗟に話題を変える。
「そう言えば今日は何で俺は組織に呼ばれたんだ?」
俺が今日清華と帰っているのは組織に呼び出しを食らったからだ。
特に悪いことはしてないので叱咤されることはないなずなのでイマイチ理由がわかっていない。
首を傾げている俺に清華が呆れたように言う。
「……覚えていないの? 入ったときに自分で言ったじゃない。『希望は優奈さんのチーム』って」
「あっ」
確かに言ったわ。
「もしかして……優奈さんのチームとの初顔合わせってこと?」
「そう言う事よ。――それじゃあ取り敢えず代表室に行きましょうか」
「よし、そういうことならさっさと行こうぜ」
早く行って優奈さんに挨拶しないと。
集合時間なんてないけど時間を守る男はモテるからな。
俺は駆け足気味に結界のある所まで行く。
そんな俺に清華が怒鳴るが、
「あっ――ちょっと待ちなさい! 先に代表室ですからね!」
「分かってるさ。子供じゃないんだから」
「……今の貴方は子供っぽいわよ……」
俺は清華の小言を無視して、結界の門を意気揚々とくぐって組織の中へと足を踏み入れた。
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