第31話 落第勇者
——魔王軍。
それは俺たちが異世界に召喚される事になった原因である。
魔王軍の目的は人類から世界を奪還すること。
どうやら遥か昔は魔族が異世界を支配していたらしいが、初代勇者が当時の魔王を倒したことによって世界は人類種が魔族に変わって支配することになったんだと。
そして長きに渡って何度も人類種と魔族は戦争を続けており、負けそうになると勇者を召喚して何とか侵攻を食い止めていたらしい。
しかし前代の勇者が魔王に倒されるというハプニングに見舞われ、人類はどんどん侵略されていった。
そこで、今度は沢山の勇者を召喚しようとなったらしく、めでたく俺たちが召喚されたというわけだ。
俺はずっとはた迷惑な話だなと聞いていたが、実際に魔族を見てその考えを一新しなければならなくなった。
——魔族は人類をおもちゃとしか思っていない。
魔族の兵士はどいつもこいつも人間を殺す時は醜い笑みを浮かべ、屈辱的な方法で心を殺した後に虐殺する。
俺は何人かの魔族を捉えて人間をどう思っているのか聞いてみたが、皆口を揃えて……
「人間たちは愉快なおもちゃ」
としか言わなかった。
その認識のせいで人類は何度も和平を申し込んだみたいだが、尽く跳ね除けられたらしい。
だがそんな頭のおかしな軍の幹部はもっと頭がおかしかった。
「———なぁ、ルドリート?」
俺は目の前でクツクツと愉快げに笑っている魔族に問いかける。
そんな魔王軍の中でも特に頭がおかしかったのが、今俺の目の前にいる人間から魔族であるヴァンパイアになったイカれた男。
金髪の長髪に端正な顔、ニヤリと三日月の様に歪んだ口元には鋭く伸びた犬歯が見えている。
今は俺の前だからか知らないが蝙蝠のような翼を広げていた。
「やぁ久し振りだね、サイカワハヤト君? 最後に君と会ったのは7年前かな? 見た感じあの頃よりもひ弱になっているじゃないか」
「……俺の前に2度と現れるなと言ったはずだが? 次現れたら容赦はしないと」
「勿論覚えているよ。でもあの頃は今の君よりも強かったし、何より後ろに戦神がいたじゃないか。でも今は君1人。君程度なら十分殺せるんだよ?」
そう言って再び笑い出すルドリート。
その仕草からは余裕が見て取れる。
相変わらずムカつく野郎だが、確かにあの時は師匠の力を借りて何とか撃退することまでしか出来なかった。
それに体つきもあの頃の方ががっしりとしていたし、基本の身体スペックが高かったのも事実。
「……モンスターを召喚しているのはお前だろ? 一体何のためにこの世界に来た? 異世界に居ればお前が魔王になれていただろうに」
「魔王……? ハハッ! 僕は魔王なんてものは興味ないのさ! 僕が此処に来た理由は唯一つ! ——おもちゃの壊れる姿が見たい!! だからモンスターを召喚した」
「……は?」
俺は言っている意味がよく分からず、間抜けな声を出してしまう。
そんな俺を嘲笑うかの様にルドリートは半笑いで答える。
「なんだ、分からないのかい? なら優しい僕が教えてあげよう。あちらの世界の人間は屈辱に耐性がついたのかあまり面白くなくなってね。——だから平和だと聞いていたこの世界に召喚魔法を改良して転移してきたのさ。この世界の人間なら捕まえるもの容易いし、いい声で絶望に染まりそうだからね?」
「……相変わらず屑だなお前。元人間のくせに人間で遊ぶなんてイカれてんじゃないのか?」
俺は愉快げにしているルドリートに殺気を込めながら睨む。
しかし奴はどこ吹く風で俺の殺気を受け流している。
「おおー怖い怖い。そんなに殺気を向けないでくれよ。——君の絶望した姿が見たくなるじゃないか」
ルドリートが全身から膨大な魔力を溢れさせながらクツクツと笑う。
そんな姿イラッと来るが、大体のことは分かった。
コイツは俺たちを召喚した魔法の使い方を何かしらで入手し、それに手を加えてこの世界に転移。
その動機はおもちゃである人間の苦しむ姿が見たいから。
とことん屑な理由だ。
俺が黙っているのをビビっていると受け取ったのか、指差して嘲笑って来た。
「ハハハハハハハハ! どうしたんだい? まさか僕が怖いのかい? 昔みたいに戦神がいないからそれは当たり前か! だって勇者の落ちこぼれだもんね? 本当に可哀想な人間だよ」
はっ、何とでも言え。
確かに俺は落第勇者だ。
昔は目も当てられないほどに弱かった。
クラスメイトはチートを貰っているのに俺だけ貰えなかったからな。
その弱さは召喚されて即追放されるくらいだ。
だが俺は召喚されたどの人間、それこそ光輝や歴代の勇者よりも遥かに努力をした。
はじめの5年間は毎日死にかけていたくらいだ。
しかしその御蔭で俺は遂に強者と呼ばれるまでに強くなれた。
だから———
「———お前は1つ勘違いをしている」
「……ほう……? 一体どんな?」
ルドリートが興味深そうに聞いてくる。
「確かにこの世界は異世界に比べると圧倒的に平和だ。特に日本なんて戦争もしていないし夜道を歩いていて殺されたりすることも少ない」
本当に日本は異世界では考えられないほど平和だ。
異世界では毎日の様に、此方で言う殺人事件が何件も起こっていた。
それは時に国が主導している事もあった。
魔族と言う共通の敵が居るにも関わらず――だ。
しかし日本ではそんなこと滅多に起こらない。
あっても交通事故や火事が原因のことが多いし、夜道を歩いていていきなり刺されるなんてことはほぼない。
「ただこの世界でも俺たち人間は何度も苦悩し間違えながらも精一杯生きている」
「———だから人間で遊ぶのは辞めろと言いたいのかい? それは無理な話だね。そんな事僕が知ったこっちゃない。弱いから奪われる。弱けれな何も守れない!」
腕を大きく広げて仰々しく言うルドリート。
「それは君も例外じゃないんだぞ、サイカワハヤト君? どうしようか? 今から君を瀕死の状態にした後で、君の家族を君の目の前でゆっくりと殺していこうか。ちょっとずつ体を削ぎ落として——」
「——果たしてそんなことがお前に出来るかな?」
「———……何……?」
俺の言葉に笑みを消して真顔になるルドリートに改めて指摘する。
「確かに俺はお前の言う通り昔は落第勇者で物凄く弱かった。だがそれはあくまで昔の話だ。もう1度言おう。——お前は1つ勘違いしている」
俺は
体の周りには激しい白銀のオーラの奔流が巻き起こり、地面が大きな音を立てて揺れ出す。
「なっ——!? な、何だその力はッッ!? お前……力を隠していたのか!?」
驚きすぎて先程の余裕そうな口調の変わっているルドリート。
そんな奴に俺は告げる。
「お前の間違えは——俺があの頃と同じく弱い落第勇者だと思っていることだ」
自分の無能さに落ち込んでいたある時、俺は身体強化を使用していてふと思ったことがあった。
人間はどれだけ身体能力を強化しても最強種であるドラゴンには追いつけないのだろうか——と。
殆どの人間は不可能だと答えるだろう。
基本の身体能力が違いすぎると。
しかし俺はそうとは思わなかった。
ドラゴンだって俺と同じ生命体。
永遠に死なないわけではない。
それに実際ドラゴンを単独で倒す人間を何人か知っている。
なら俺でもドラゴンの様に強くなれるのではないだろうか?
俺はそう思い、何年間も毎日考え続け、遂に完成させた。
異世界で竜王だったドラゴンの種族は、身体能力が圧倒的に高く、気高く美しい――白銀竜種。
そんな竜王をモチーフにした、落第勇者である俺がドラゴンの様な身体能力を手に入れる方法。
その力の名は——
———【身体昇華:竜王】———
世界から音が消え、白銀の輝きに包まれた。
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