第30話 元勇者はS級異能者と共に、A級モンスターと対峙する

 今回は三人称です。

 初めてのヒロインのみの回ですよ~。

 それではどうぞ!

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 時は戻って、隼人がゴブリンエンペラーを追いかけていた頃、学校では突然現れたモンスターを見た者達がパニックを起こしていた。

 

 それを教室から見ていた清華は、スフレパンケーキを作る手を止めて光輝の元へと行くと、


「少し私に休みをくれないかしら? あの人と話したいの」


 唐突に優奈を見ながらそんな事を宣う清華に光輝は一瞬不思議な顔をするが、すぐに何かを思い付いたかのように頷くと、笑顔で許可する。


「良いよ。彼女は隼人の想い人だから気になるんでしょ? 宮園さんって隼人の事好きそうだし」

「なっ!? ち、違うわよっ! そう言う事のために行くわけではないからね!?」


 清華は指摘されるとポッと顔を真っ赤にすると同時に結構な声量で言い訳をし出した。

 しかしその姿は周りから見ればツンデレにしか見えず、光輝以外の女子にも温かい目線で見られる。

 

「……後で隼人は吊し上げないといけないなぁ?」

「勝手に何処かに行ったし。お陰で隼人が居ない理由を1人1人に説明しなきゃいけないしな」

「くふふふふ……1度本気で痛い目を見てもらおうかな?」

「覚悟しておけよぉ隼人ぉ……」


 男子は此処には居ない隼人に憎悪を燃やしているが。

 光輝はそれに気付くと、恐ろしげに見ている清華を安心させる様に微笑む。


「大丈夫だよ。彼らには隼人を怒らないでくれる様に頼んでおくから」

「え、ええ、そうして貰えると助かるわ。も、もう行くわね?」

「うん、行ってらっしゃい」


 清華は光輝の見送りを背中に浴びながら、難しい顔をして耳に手を当てている優奈の座っている席に座る。


「優奈さん、此処に座りますね?」

「え? あ、清華さんですか。全然良いですよ」

「ありがとうございます。———それで本部からはどの様な指令を?」


 清華は声量を抑えて誰にも聞かれない様に注意する。

 優奈は何も言っていないのにそこまで読まれている事に少し驚いた様な顔をするが、直ぐにいつも通りの微笑を浮かべる。

 しかし声はいつもよりも低く、強者と言うのを思い出させる様な雰囲気を醸し出していた。


「……本部からは、いつも通りモンスターが出現したと。しかしいつもと違うのが、複数体出現したと言うのと、その強さが過去に見ないくらい強力だと言う事です」

「それはどの程度でしょうか? 優奈さんなら一体一で勝てますか?」


 こう聞く清華だが、内心では優奈が勝てると思っていた。

 しかしそれはしょうがない事で、優奈は組織のS級の中でも飛び抜けて強い。

 前回隼人がボコボコにした彩芽など、それこそ手も脚も出ないほどに強く、他の前S級と戦っても場合によっては勝てる程だ。


 それを知っている清華はそう結論付けていたが、優奈の返答は清華の予想を裏切る物だった。


「…………私だけでは厳しいでしょうね。一体は死力を尽くして何とか勝てるか勝てないかと言うくらいです」

「!? 優奈さんですら勝てると断言できないのですか!?」


 まさかの返答に驚愕する清華。

 しかし優奈はそれに申し訳なさそうな顔をするだけだった。


「ご期待に添える事が出来ずごめんなさい……」

「い、いえ、別に責めているわけでは……」

「ただ、そのモンスターは幸いな事に隼人君が相手をしてくれて居るそうです」


 清華はその言葉を聞き、前回見た隼人の実力を思い出してホッと安心した様に息を吐く。

 

「それなら良かったです。彼が負ける姿が想像出来ないですし」

「うーん……まぁそうですね。今は・・誰にも負けないでしょう。私の予想ですが」

「……今は……?」


 清華は優奈の曖昧な言い方に首を傾げる。

 しかし優奈もよく分かっていないと言う風に言葉を紡ぐ。


「何で言えば良いんでしょうかね……? 隼人君からは負けが積み重なって強くなったと言う感じがするんですよね」


 奇しくも優奈の予想は当たっている。

 隼人は勝ちよりも遥かに負けの方が多い。

 実際に師匠である『戦神』には何百、何千と挑んで来たが、今までに1度しか勝てた事がない。

 その他にもパトリシアには惨敗しているし、清華も含めて元勇者達は覚えていないだろうが、全員何十回と隼人に勝ち越している。

 光輝や清華に至っては1度も勝てた事がない。

 もう1度言うが、本人の記憶はないが。


「は、はぁ……? 少し難しそうな話なので、先に私達に受けた指令を教えてもらえませんか?」


 清華の言葉にあっと声を上げて思い出す優奈。


(お、覚えていなかったのね……。隼人君と話している時も感じるけれど、偶にポンコツになるわよねこの人)


 少し残念なものを見る様な目で見る清華に、優奈はコホンと1度咳をすると何もなかったかの様に話し始めた。


「私たちが受けた指令は、隼人君の家族の護衛です」

「(スルーするのね……)それで、どうして隼人の家族何ですか? 一般人は誰が守ると言うのですか?」


 清華の思うことは当たり前だ。

 今学校には何千人と人が集まっている。

 それなのにそれを見捨てて隼人の家族を守れと言われているのだ。


(そんなの幾ら何でもおかしいわ……)


 しかしそんな清華の心配も無用に終わる。


「それは安心してもらって大丈夫です。今、組織の動けるS級異能者全員がこちらに向かって来ていますから」

「そうですか……それならある程度は安心ですね」

「それでは私たちは隼人君のご家族を探すとしましょう」

「分かりました」


 優奈と清華は立ち上がり、清華がメイド服を着替えている間に優奈はお金を支払う。


「すいません、お支払いをしたいのですが……」

「お待たせしました、隼人のお嬢様。えっと……スフレパンケーキ1つですね、500円になります」

「はい、500円です。それと隼人君のお嬢様では無いのですが……」


 お金を受け取った執事——光輝は優奈の言葉を聞いて断言する。


「これは隼人の幼馴染である僕が断言します。必ず貴女は隼人に絆されるでしょう。何と言っても隼人は世界で1番頼りになる男ですから」


 優奈は目をぱちくりさせると、顔を綻ばせる。


「ふふっ、確かに隼人君に絆されるのは時間の問題かも知れませんね。彼は今まで出会った誰よりもカッコいいですから」


 優奈はそれだけ言うと、着替えて戻ってきた清華と共に隼人の家族を探して教室を出て行った。


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