第26話 モンスター事件の犯人

 今回三人称です。

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 隼人が文化祭を楽しんでいた頃、『異端の集まり』では龍堂を始めとした代表室に居るS級異能者やそれに準ずるこの組織の最高戦力たちが、皆顔を顰めて偵察班の報告を聞いていた。


「……これは本当なのか?」


 龍堂が偵察班のリーダーを務める半蔵に問う。

 半蔵は【気配希薄化】と言う異能を所持しており、この組織随一の隠密行動の達人だ。

 更にこの組織の代表が今の龍童になった30年前からこの組織に勤めている大ベテランでもある。

 

 そんな半蔵を疑ってしまう程、この情報は信じる事の出来ないものだった。

 しかし半蔵の答えは変わらない。


「勿論本当の事です。私が今まで嘘をついたことがありましたか? それに証拠はこの動画や写真があります。偽物かどうかは調べればすぐに分かると思いますが?」

「ぐッ……それはそうだが……」


 一瞬で論破された龍童は頭を抱えて唸る。

 その姿は誰から見ても哀れに感じるほどの悲壮感に溢れていた。


「まさか隼人君の学校の文化祭でやらかそうとするなんて……」

「でもアイツのいる学校から絶対捕まえてくれるんだからいいじゃない」


 そうな楽観的な事を宣うのは、先日隼人にボロクソに負けたS級異能者——三越彩芽。

 だがそれは合っているが間違っているとも言える。

 その事を龍童が説明する。


「はぁ……彩芽君、確かに隼人君のいる学校だから他の学校よりは被害は出ないだろう。しかし学校は今何をしていると思う?」

「それは勿論文化祭——あっ……」


 そこで彩芽は自分の言っていた事の間違いに気付く。


「人が集まる……」

「その通りだ。今回の報告によれば、今まで出現していたモンスター達はある1人の男が元凶らしい」


 龍童は半蔵から貰った動画をスクリーンに流しながら話す。


「しかしその男の名前も正確な歳も出身も分かっておらず、何が目的なのか分からないが……」

「明らかに隼人君を狙っているな!」

「凄いな、これだけでよく分かったな。真也は脳筋だと思っていたんだが」

「酷いな!? これくらい分かるぜ!?」


 そう言って憤慨するのは彩芽と同じくS級異能者の風林真也かぜばやししんや

 彼の異能力は、名前にもある通り【風王】と言う風を操る最上級異能力である。

 そしてそんな彼の皆んなの評価は『戦闘以外脳筋』だ。

 戦闘では緻密な戦闘計画を立て、様々な小技で牽制したり火力で正面突破したりと多彩な戦闘をこなせるが、馬鹿なのである。

 

「全く……幾ら何でも俺を馬鹿にしすぎだぜ」

「……どの口が言うのか」

「お前は黙ってろ、戦闘馬鹿」

「…………あれはしょうがない」


 そう言ってふいっと目を逸らすのは、これまたS級異能者の朝桐朱奈あさきりしゅな

 普段はあまり感情の振れ幅が見られず無口だが、戦闘となると一変して狂ったように笑う戦闘狂だ。

 そんな彼女の異能は【炎姫】。

 効果は彩芽と非常に似ており、炎を操ると言うシンプルな能力だが、極度の戦闘狂で戦闘センスは隼人にも迫る勢いである。

 まだ隼人の方が何枚も上手だが。


「喧嘩をしている暇はないぞ。これからどれだけの一般人に被害が出ると思っているんだ。私たちの方針も早く決めないといけないのに」

「うっ……すいません……」

「私もごめん。今やる事じゃなかった」


 龍童の言葉にすぐさま謝る2人。

 強さで言えば龍童よりも何倍も上の2人だが、龍童の【カリスマ】と言う異能力と本人の性格も相まって異能者たちの忠誠度は高い。

 

 龍童は2人を注意した後、先程からずっと黙っていたとある男に話しかけた。


「それで、君はどう思う? 我が組織の頭脳」

「…………はぁ……何でこんな面倒な人を入れたんですか……」


 この組織の頭脳——神原宗介かみはらそうすけ隼人の写真を見ながら顔を顰める。

 宗介は頭が良すぎるため、人を小馬鹿にすることが多く自身の目しか信用しない。

 その為、隼人が入った時いなかった宗介は、隼人の本当の怖さを知らないのだ。

 そして怖さを知っている龍童や彩芽は宗介を恐ろしいものを見るかの様に見る。


「彼のことは散々私が言ったじゃない! 彼が入ると言ったら入れるしかないのよ!」

「今回は彩芽君の言う通りだ。彼は君の頭脳を持ってしても予想できない埒外の存在だ。そんな存在がウチに入ってくれるだけでも有り難い。それに優奈君に一目惚れしたらしく、裏切られる心配も少ないしな」

「あの時は驚いたわね。めちゃくちゃグイグイいってたわよ。その時の清華の顔も面白かったし」


 あの場にいた者たちは思い出してフッと笑うが、それを知らない者はキョトンとしている。

 しかし宗介だけはそのどちらの反応とも違った。


「はぁ!? 優奈さんにアプローチしたのか!? だから今優奈さんが居ないのか!? 組織最強をどうして行かせたんだ!? ……いや行かせていた方がいいな」


 一瞬ドンとテーブルを叩いて立ち上がるほど興奮するが、すぐに冷静になったのかまたもや大きなため息をつき、疲れた様に背もたれに身を預ける宗介。

 そんな宗介を見ていた彩芽は、

 

「もしかして……妬いてるの? だって優奈さんに告白して振られているものね?」


 古傷を抉るかのようにそう言うと、ニヤッと悪い笑みを浮かべる。

 その言葉に宗介は顔を赤く染めながら言い返す。

 

「う、五月蝿い! どうせその隼人って奴も振られるさ! 彼女は今まで何百回と告白されて全部断っているんだからな!」

「んーでも私から見たら優奈さん満更じゃなさそうなのよね。もうRainも交換しているみたいだし、今回の文化祭も彼に誘われたから行くみたいよ? 何でも私に『ぶ、文化祭に何着ていけばいいかな!? 変なの着て行って彼に幻滅されたくないし……』って悩んでいたくらいよ?」

「な、なっ……そんな馬鹿な……」


 優奈の声真似をしながら暴露する彩芽と、その言葉を聞いて呆然とする宗介だったが、流石組織の頭脳と言ったところか。

 直ぐに気分を落ち着かせると一瞬にして真面目な顔になる。


「く、詳しくは後で聞くとして——それで僕の考えですが、彼が狙われているのは確定でしょう。実際に彼が昏睡から覚めた日と、新種が初めて出現した日は同日です」

「ふむ……だが何故わざわざ文化祭の日を狙うんだ?」


 そこが分からないと頭を捻る龍童だが、宗介は何でもないかの様に答える。


「多分確かめたいのでしょう。彼が守れるのかどうかを。自分の大切な人を」







☆☆☆






「見せて貰うぞ。お前が果たして本当に守れるのかどうかをな」


 隼人の学校が見える山に陣取る1人の男がそうほくそ笑むが、一瞬にして憤怒に染まる。




「憎き元特級冒険者――【人外】……ッッ!!」




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