第25話 落第勇者、文化祭を迎える

 ――2日後――


『それでは――文化祭スタートです!!』


 放送部の部長が元気な声で文化祭の始まりを告げる。

 その放送と共に学校に一斉に一般客が流れ込んできた――と言うのを自分たちのクラスで見ている。

 因みに俺たちのクラスでは男子は既に着替える人は着替え終わっており、準備万端だ。

 そして女子は空き教室で着替えており、男子諸君は今か今かと浮足立ちながら待っている。

 そんな緊迫の場面でのある時。


「……メイド服最高かよ……」

 

 ふとクラスの男子の誰かが言った言葉が男子全員の耳に入って来た。

 その瞬間に全員が教室の扉に顔を向けると……


「急だったから少し安いものだけどこれで我慢してもらいないかしら?」

「全然大丈夫だよ!? 私達からしたら十分豪華な服だから! ね、皆?」

「「「「「「「「うんうん!!」」」」」」」」


 そこには清華と紗奈を先頭としてメイド服に身を包んだ我がクラスの女子達が入ってきた。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」」


 あまりの素晴らしい光景に声を失う男子諸君。

 勿論その中に俺や光輝も含まれている。


「どうなってんだ……? 何時もより3倍可愛く見えるんだが?」

「それには同意するぞ将吾」


 将吾がこぼした言葉に異論がある奴などいないだろう。

 それ程までにメイド服は素晴らしかった。


 男子が口々に褒め倒すが、しかし悲しいかな。

 どの女子も有象無象の男子を素通りして光輝の元へ行ってしまう。

 そんな女子の姿に光輝以外の男子たたちは口々に言い訳を口に出す。


「いいし、俺分かってたもん。女子が俺に見向きもしないことなんて」

「ああ……所詮俺たちは光輝と言う神に群がるハエ……この程度のことは分かっていたじゃないか」

 

 と言いながらもめちゃくちゃテンション下がってんなお前ら……。


 こうして紗奈を含めた殆どの女子が光輝に感想を聞こうと向かっていった中、清華だけが俺のもとに来て少し羞恥に頬を染めながら聞いてきた。


「ど、どうかしら……? わ、私のメイド姿……」


 俺はそう言われて清華を注視する。

 膝上のスカートと言う本来のメイド服とは少し違ったイマドキ風のメイド服はよく似合っていた。

 そして頭につけているプリムは普段のクールな雰囲気を一変させて可愛らしさを演出していた。

 

「そ、そんなに見られると……は、恥ずかしいのだけれど……」


 更に頬を染める清華を見た、クラスの男子たちの殺気を感じてきたので注視するのを止めて感想を言う。


「うん、めっちゃ似合ってると思うぞ。これならこのクラスで1番指名されるかもな」

「そ、それって私が可愛いってこと……?」

「まぁ……そうだな。俺的には1番だな」

「ッ……! あ、ありがとう……じゅ、準備に行くわね!?」


 俺が珍しく素直に褒めてあげると、清華は小さな声で感謝を言った途端に女子たちの輪に逃げるように入っていった。

 よっぽど恥ずかしかったんだな。

 しかし大丈夫だ清華。

 今丁度、俺も羞恥が再び襲ってきたところだよ……ついでに今の自分の服装についても思い出してしまったよ……。

 俺は自身の来ている執事服に目を落として呟く。


「俺まで執事服にならないといけなかったのか……?」

「当たり前でしょ! このクラスのイケメンナンバーツー何だから!」

「そうそう! それに私達も見たかったし!」


 と言う事で着なくてはいけなくなった。

 まぁどうせオシャレな物も作れないからどの道着ないといけなかったんだけど。


「隼人……僕も一緒だからいいじゃないか」

「俺もな!」


 そう言って俺の肩に手を乗せてくるのは、同じく執事服に身を包んだ光輝と将吾である。

 2人ともめちゃくちゃ似合っており、光輝なんかは周りにキラキラのオーラが見えてきそうな程だ。

 しかし……


「2人と俺は違うんだよ……」

 

 主に精神年齢がな。


 俺は少しげんなりしながらよく意味が分からないと首を傾げている2人にそう答える。

 でも27にもなってコスプレをする俺の気持ちにもなって欲しい。

 これ程恥ずかしいことはないだろう。


 しかしそんな俺の気持ちとは裏腹に、クラスの女子の反応は上々だった。


「……やっぱり光輝君は眩しいね……」

「何か同じ人間じゃなくて神に見えるよ……」


 光輝はそのあまりの美しさに神格化されていた。

 それで俺の評価はと言うと……


「隼人君……物凄く似合っているわね」

「この中だったら1番親しみやすそう」

「私が客だったら多分隼人君を選ぶわ」


 何故か光輝よりも評価が高かった。

 なんでも、光輝は執事と言うより王子だから選びにくいらしく、将吾はムキムキ過ぎて怖いとのこと。

 これなら優奈さんが来ても俺を指名してくれるだろうか?


 俺がそんな事を考えていると、優奈さんからRainが来た。

 そこには『もう少しで学校に着きます』と言うメッセージだった。

 俺はそれを見て即座に光輝にお願いする。


「光輝、分かっているな? 絶対にこの女性には近づくなよ? お前には他に沢山の美少女がいるんだからそれで我慢してくれ。彼女だけは絶対にダメだからな?」

「勿論分かっているよ。彼女にだけは近づかないさ。何せ――親友の想い人だからね」


 俺の耳元でそう言った光輝の顔は、純粋に祝福してくれているようだった。

 コイツ……やっぱり良い奴だなぁ……。


 俺が親友の寛大な心にジーンと来ていると、遂にお客様第1号が来た。

 俺が1番扉から近かったので、お出迎えをする。


「いらっしゃいませ、お嬢様。今日は御一人でのご来店ですか――って優奈さん!?」

「は、はい。この前ぶりですね。か、格好いいですよ……隼人君……」


 俺は渾身の執事姿を演じようと思ったのだが、まさかの最初のお客様が優奈さんだった。

 

「お、おい隼人、この超絶美人と知り合いなのか……?」


 将吾がそんな事を聞いてきた。

 他のクラスメイトも俺たちに注目しており、男子たちは優奈さんの大人の美貌に見惚れている。

 女子たちも優奈さんの美貌にたじろいでいるくらいだ。

 ここは一発誰にも狙われないようにかましておくか。

 俺はクラスメイトに向けて優奈さんを紹介する。


「彼女は俺が一目惚れしてお友達からお付き合いを始めた三河優奈さんだ」

「ちょ、隼人君!?」


俺が自信満々にそう紹介すると、優奈さんは恥ずかしそうにあわあわしだした。


「あっ……ダ、ダメでしたか……? ですが俺は優奈さんを誰にも渡したくないんです。だって優奈さん美人ですし……」

「えっ、あっ、あぅ……ダメじゃ……ないですけど……。私達まだ、つ、付き合ってないですし……」

「大丈夫です。絶対に惚れさせてみせますから。経済面も問題ないので何時でも惚れてもらって大丈夫ですよ」

「っ~~~~!!」


 俺の言葉に手で顔を覆い、声にならない叫びを上げる優奈さん。

 そんな姿も大変可愛いらしい。


 そしてそんな俺たちのやり取りを見ていたクラスメイトたちは、一瞬だけポカンとしたかと思うと――


「「「「「「「「「「「「「「「えええええっ!? 何か甘々なんですけど!?」」」」」」」」」」」」」」」


 清華以外の皆は、お客様が目の前にいるのも忘れて大絶叫していた。

 それを聞いて更にあわあわとしていた優奈さんはとても可愛かったです。


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