第17話 落第勇者、連行される(渋々)
俺たちが教室に着くと、案の定俺も宮園もクラスメイトたちに囲まれてしまった。
俺には勿論……
「おい! どうして隼人と清華さんが一緒に登校してきたんだ!?」
「いやそれは合っているが……」
「まさかお前……付き合ってるのか!?」
「それは違っ———」
「もしそうなら取り敢えずお話をしないとなぁ?」
「あははは、君は俺たちと同じ非リア充だと思っていたのに……裏切り許さん……」
「……我らが唯一の女神を奪って大罪者が……」
「そうだぞ! 彼女だけは光輝の毒牙に捕まらなかった貴重な美少女だったんだぞ!」
目に嫉妬と憎悪を宿らせた男子生徒たちは、俺にジリジリと近づいて来る。
何処から取り出したのか、テニスラケットや野球バット、メリケンサックを付けていた。
おい、テニスラケットや野球バットはまだしもメリケンサックはどう考えてもおかしいだろうが。
お前ら俺を殺す気か!?
「ちょ、待っ、は、話せば分かるっ!」
「「「「「「くたばれ裏切り者ッッ!!」」」」」」
「———チッ、全部お前のせいだぞッッ!! 宮園おおおお!!」
俺は脱兎の如く教室から逃げ出した。
☆☆☆
(三人称)
一方その頃、清華は隼人と同じくクラスメイトの女子に質問攻めに遭っていた。
「ねぇねぇ、隼人君とはどう言った関係?」
「もしかして私たちの知らない所で付き合ってたの!?」
「でも2人とも美男美女だし、一緒に登校して来た時は違和感なかったよね」
「確かに。でも隼人君って光輝君の隣にいるのに存在感があるくらいだから相当なイケメンだよね」
「うん。隼人君は普通に彼氏としてアリ。大切にしてくれそう」
(確かに隼人君が彼氏になったらどんな相手でも負けないわね。この世界で1番安全な場所なんじゃないのかしら?)
女子達の話を聞いていた清華は、隼人の強さを知っているため、心の中で女子達に同意する。
しかし隼人の後の報復が怖くなった清華は、誤解を訂正する事にした。
「私は隼人君とは付き合っていないわよ」
「嘘だ~なら何で一緒にいたのさ」
「そうそう。早く本当のことを言った方がいいよ!」
「そうだよ。その方が必ず楽だよ?」
「いや、本当に付き合ってないのよ……」
全く信じて貰えない事に辟易とする清華。
今時の女子は恋バナには異様な食い付きがあるのだ。
しかしここで諦めては本当に誤解されたままになるので、清華は最終手段を取る事にした。
「私たちは本当に付き合ってないわ。嘘だったら皆んなの課題を何でも1つやってあげてもいいわよ」
「ええ!? いいの!?」
「なら私の進路には必要ない科目をやってもらおっと」
「私も私も!」
「よし、皆んなで隼人君とか光輝君に聞き込みに行くわよ!」
そう言って清華から離れた女子軍は、光輝へと突撃していった。
そしてそれを見ていた清華は、
「……今度大義名分を用意しておかないと危ないわね……」
難しい顔をして改善策を考え始めた。
☆☆☆
「大変な目に遭った……」
「あはは……大丈夫かい?」
放課後、俺と光輝は珍しく一緒に帰っていた。
俺は既に疲労困憊で顔もやつれている様な気がする。
光輝はそんな俺に苦笑している。
「大丈夫な訳あるか……。朝は男子に追いかけ回されたかと思えば恐怖の質問攻めに遭い、やっと落ち着いたかと思えば今度は女子からしきりに付き合っていないのか聞かれて……」
「とうとう隼人も此方の世界に来たわけだね。ようこそ嫉妬と憎悪を向けられまくる世界へ」
そんな物騒な事を笑顔で言って来る光輝が1番怖い。
ただ仲間ができて嬉しいんだろうな。
だけど1つ言わせてもらいたい。
「大元の原因はお前だからな」
「ええっ!? それはどうして……?」
本気で分かっていなそうな光輝に優しく教えてやる。
「そもそもお前が学校の様々な美少女を惚れさせるのがいけないんだ。そのせいで他の男子が全く相手にされない」
「そ、それは……」
うんうん心当たりが大アリなんだろうな。
そんな光輝に少しばかり仕返しすべく、学校の男子を代表して言う。
「その中でも宮園だけが唯一光輝に惚れなかった美少女なわけだが……それが俺と登校してきたら?」
「……学校の全ての美少女に好きな人が出来るね……」
「ザッツライト、その通り。だからあんな目に俺が遭ったわけだ」
「…………僕はどうすれば……?」
「別に何もしなくていい。それが光輝だろ?」
「……まぁそうだね……」
コイツはとんでもない程のお人好しだからな。
何かと困っている奴を見過ごせないから、色々世話を焼くせいで女子にモテるのは勿論、何やかんや言いながらも男子からも人気がある。
「ただ早く誰か1人を決めて欲しいのはみんなの総意だろうがな」
「うっ……善処するよ……」
光輝の言葉にお互いに笑い出す。
俺たちの家はそんなに近くないので、俺は徒歩で光輝は電車通学だ。
そのため途中で別れる。
そんな俺の元へ1台の車が停まると、その中から宮園が出てきて……
「……ちょっとついて来てくれないかしら……?」
何処か気疲れした顔をしながらそう言ってきた。
どうやら例の組織からのお呼ばれのようで、何人もの黒服や私服の男女がリムジンから降りてくる。
感知をしてみると全員から微弱ながらスキルに似た気配を感知できた。
ふむ……この程度なら一瞬で片付けられるが――
「……分かった、ついて行くよ」
どうせその組織とやらについても知らないといけないと思っていたし、既に巻き込まれているのでどうせなら「ちゃんとモンスターみたいなの処理しろ」と文句でも言いに行こうとリムジンに乗った。
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『無能な悪役貴族様は元大罪人』
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