第11話 落第勇者、この世界の異変に気付く

 俺はあの後急いでゲーセンに戻ると、そこには既に宮園の姿は見当たらなかった。

 もしかしたらゲーセンの中かもと思い探してみるも中々見つからない。

 

「やっぱり待たせすぎたか……?」

「――何が?」

「うおっ!?」


 俺が【感知】を使って探そうとした瞬間に後ろから声をかけられる。

 また手が出そうになるも今回はギリギリの所で行動に移す前に止めることが出来た。

 俺は無駄に冷や汗をかきながらも振り返って話しかける。

 

「ど、何処に居たんだよ……」

「貴方が遅いから私もお手洗いに行っていたの」


 そう言って「貴方のせいだからね」と付け足す宮園。

 明らかに怒ってそうな雰囲気だ。

 その証拠に少し眉間に皺が寄っている。


「ご、ごめん……」

「別にいいわよ。さっさと材料と道具を買ってから帰りましょ」

「そうだな。なら手分けして買うか?」


 そう提案すると宮園は少し考える素振りをした後、


「もしそうしたら会えなくなるから却下ね。私スマホ今持ってないし」

「あ、はい」


 まさかのスマホを持っていないと言う衝撃的な事実と共に手分けして買う案は却下された。

 





☆☆☆







 あれから1時間以上掛けて材料やその他雑貨を買い揃えた俺達は、そのまま現地解散となった。

 なので今俺は1人で悲しく帰っている。

 

 本来なら遥と帰ろうと思ったのだが、買い出しがあったため泣く泣く断った。

 そのため――


「帰り方が分からない……」


 始めは地図アプリとかを使っていたのだが、異世界と違って細かいので思いっきり迷ってしまった。

 今はあてのない道を彷徨っている。

 27歳にもなって自分の家にすら帰れないとか自分で言うのも何だがヤバいな。

 そしてどうにかして帰らないといけないのだが、一体どうしようか……遥を呼ぶか?


「いや、それは止めておこう。もうあたりも真っ暗だしな」


 既に時刻は7時を過ぎており、秋ともなれば辺りは殆ど真っ暗だ。

 そんな中女の子を1人で歩かせるには危険すぎる。


「特に今日のことがあったら尚更な……」


 俺はほんの1時間程前のことを思い出す。

 

 異世界で見たゴブリンとは身体的な特徴は多少違ったが、戦闘の癖や習性は何も変わらなかった。

 逆にその不自然さが俺を不安に駆らせる。


 異世界から俺のように転移してきたのなら、その大元を探せば何とかなるかもしれない。

 しかし今回俺が相対した相手は10年間冒険者をしていた俺ですら知らないモンスター。

 勿論魔王軍にもあの様なゴブリンは一体も存在していなかった。


 偶々突然変異したゴブリンって線はないかな?

 もしそうなら同じく異世界転移の発動した場所を感知すれば済む話なんだけどなぁ。


 俺は限りなく小さな可能性に縋りたくなるが、それは現実的じゃないことは分かっている。

 それに――


「今は家族がいるんだ。家族だけは絶対に守らないとな。皆には迷惑をかけたし」


 俺が1ヶ月間昏睡していた時、遥は軽い鬱病になり学校を殆ど休んでいたらしい。

 母さんも気疲れして何度も寝込み、父さんも死んだように仕事に行っていたんだとか。

 

 これは全部俺が病院に居た時に、看護婦さんや俺も何度も会ったことのある遥の友達や父さんの会社の人がお見舞いに来てくれた時に教えてくれたのだが、その事を聞いた時は流石の俺も取り乱してしまった。

 まさかそこまで酷いとは思っていなかったからだ。

 愛されていた自覚はあったし心配してくれることも分かっていたが、俺は生き残ることに集中していたため殆ど家族のことを気にする時間はなかった。


 俺は何て薄情な奴なんだと心底自分に失望したよ。

 

 だからそんな状態になってでもこんな俺を心配してくれて、尚且退院した時には暖かく迎えてくれた家族は絶対に不幸にさせないと決めたのだ。

 それにはまだまだ知らないことが多すぎる。

 

「……取り敢えず調べないといけないよな……」


 俺は早く家に帰るために思いっきり空中へと駆けた。


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