116作品目

09話.[したくないのだ]

「こんにちはー」

「ええ、こんにちは――あら、今日は広木君も来てくれたのね」

「はい」

　らいさんと遊んでいるとかそういうこともなく姉ちゃんは来てくれなかった。

　なんか背中が痛いとか言っていたけどだいじょうぶかな。

　でも、これは元々約束をしていたから守るしかなかった。

「今日もゲームをやらせてくれ！」

「ええ、ゆっくりやりなさい」

　あれか、勉強をするためにずっと座っていたからかもしれない。

　ご飯とかはちゃんと作ってくれていたけど、テストが近いときはあんまり相手をしてもらえないぐらいには集中していたからきっとそうだ。

「どうぞ」

「ありがとう……ございます」

「ふふ、どうして急に？」

「そろそろ中学生になるので」

「そう、広木君は先のことをちゃんと考えていて偉いわね」

　いや、やっぱり姉ちゃんにはらいさんが一番だ。

　それに姉ちゃんからこの人がどうしていてくれているのかを聞いたことがあるからなおさらそうなる。

　だけどらいさんが他を優先し続けていたらどうなっていたのだろうか。

「あの、らいさんが姉ちゃんと仲良くしていなかったらほまれさんはどうしていました？」

「んー、その場合は変わっていたかもしれないわね」

「姉ちゃんと仲良くしてくれましたか？」

「多分ね、私はあの子のこと嫌いではないから」

　自覚する前だったらそれもありだったのかな。

　ちがうか、どちらにしろ余計なことをしてしまったことになるから。

　期待外れなんて言うべきじゃなかった。

「広木君はやらなくていいの？」

「はい、広人のじゃまをしたくないので」

「それならご飯を作るから手伝ってちょうだい」

「分かりました」

　姉ちゃんとほとんど毎日しているから足手まといになることはない。

　あと、ここでいいところを見せられればこの人はこれからも姉ちゃんといてくれそうだからがんばるだけだ。

「お姉ちゃん大好きな広木君には悪いけれど、私は好きになるなら釆原さんの方がよかったわ」

「みんながみんな同じ人を好きになるわけじゃないですし」

「ええ」

　そこでなんでとか言ったりはしない。

「さ、始めましょうか」

「はい」

　この人が悪いわけではないけど家に帰って姉ちゃんと話したい。

　他人の家でも気にせずに楽しめる広人がうらやましい。

「驚いた、上手なのね」

「いつも姉ちゃんといっしょにやっているので」

「ふふ、ひとりではないというのは羨ましいわ」

「いればいいわけじゃないですよ、仲良くできないと」

「そうね、でも、いないと頑張ることもできないじゃない？」

　確かに……。

　なんかいやになったからこの話は終わらせてご飯作りに集中した。