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Nora
01話.[まあでもいいか]
「好きな子ができたからその子と仲良くするね」
「そうか、頑張ってくれ」
「ありがとう」
彼女は去りひとりになった。
とはいえ、できることはないから荷物をまとめて帰ろうとしたときのこと、
「
と急に名前を呼ばれて足を止める。
「最後に告白ぐらいしなよ」
「そんなことできるわけがないだろうっ」
「じゃあそういうのもやめなよ」
そうやって片付けたのであればいまの行為は矛盾と言う他ない。
はぁ、なんでたまたまそんなときに出くわしてしまったのかという話だ。
これから面倒くさい絡み方をされるということを考えるとそれだけで疲れた。
「なにが悪かったのだ? 私は確かに毎日あの子といたのだが……」
「いただけでしょ」
「アピール不足だったと言うのか?」
「それしかないでしょ」
まあ仮に彼女が一生懸命アピールをしていたとしても振り向いてくれていたかどうかは分からない、だからアピールしていなくてよかったのかもしれない。
アピールをしたうえで先程のようなことを言われたらやっていられないだろう。
「傷つきたくないなら恋なんてやめなよ、ましてや相手が同性ならなおさらだよ」
「私は同性が好きなのだ」
「ふーん、まあやりたいなら好きにすればいいけど」
私だったらしないというだけで押し付けたいわけではなかった。
押し付けようとしたところで面倒くさいことにしかならない、そして敵を作るぐらいなら諦めた方がいい。
ただ、これでも相手が友達となるとやり辛さというのが出てくるもので……。
「ゲームでもやって発散させるよ、それではな」
「じゃーね」
彼女、
私もいつまでも学校にいたところで仕方がないから学校をあとにする。
同性なら誰でもいいというわけではないからまたなにもできないまま終わるなんてことはないだろう。
そうしたら蕾の悲しそうな顔とかを見なくて済むからマシだ。
あれはなんとも言えなくなる、考えて発言をする必要が出てくるだけで嫌だった。
「びゅーん! 俺参上!」
「俺も参上!」
いきなり大声が聞こえてきたと思ったらふたりの弟が目の前に現れた。
「あんた達はいつでも元気だね」
「「姉ちゃんが暗いだけだ!」」
「じゃあ姉ちゃんの代わりにあんた達はいつでも元気でいてよ」
「「任せておけ!」」
悪い子達ではないけど声が大きくて話すときは微妙な気分になることも多い。
蕾もそうだ、先程みたいにいきなり大声を出してくることが多いから私の周りには鼓膜傷つけ隊が集まっているということになる。
「姉ちゃん、今日はらい姉、いないのか?」
「見れば分かるでしょ」
「最近来てくれないから来てほしいと言っておいて」
「明日ね」
鍵を開けて中へ、当たり前だけど他に誰もいないから静かな空間だった。
そしてそれをすぐに壊すのが私の弟ふたりだ、まあでもいいか。
こっちはやることをやるために部屋に移動、すぐに制服から着替えてベッドに寝転んだところで、
「姉ちゃんここが分からないんだけど」
いつものように広木がやって来た。
広人と違って勉強も真面目にやるからいいんだけど、物覚えが微妙に悪いという点だけはちょっと……という感じ。
「見せてみー……って、この前教えたばかりでしょ」
だから同じことを何回も教えることになる、けど、真剣な顔で「もう一回教えて」と言われてしまうと強気には出られない。
頑張ろうとできる子は好きだからだ、というか弟という時点で可愛くて仕方がないというものだ。
「はいはい、分かったからそこに座って」
クソババアとか言われるよりはいいか、姉ちゃん姉ちゃんって可愛げがある。
蕾もどうせやるならこれぐらいやっておけばなんて考えて捨てた。
私は恋なんかするべきではないと考えているから、無意味だからだ。
過去、誰かに好意を抱いて失敗をしたからとかではない、求めてくる人間がいないからとかそういうことでもない。
付き合えていなくても一緒にいられるから私はそういう考えでいるだけだった。
「ありがとう姉ちゃん!」
「うん、ま、分からなかったらまた来な」
「じゃなくてここでする!」
「好きにすればいいよ」
相棒の広木がいなくても全く来ない広人は面白い。
ひとりでいるときはなにをしているのだろうか。
でも、移動したらひとりのときになにをしているかは分からないから意味がない。
「姉ちゃんは好きな子っている?」
「好きな子ができたの?」
「ううん、だけど友達が『好きな子ができた』って言ってきてさ、どうやったらそうなるんだろうって考えたんだけど分からなかった」
「ゆっくりでいいよ、というか、意識してもどうにもならないからね」
「そうなんだ」
そうだよ、意識して行動していたって大抵は蕾みたいになるのだ。
別に小学生の頃に失恋を経験する必要はない、失敗すると決まったわけではないけどいまはそういう風にしか考えられない。
だけどまあ完全にマイナス方向のことだから言わないようにしておいた。
「おはよう」
「うん」
翌日にも持ち込んでいないのではなく、頑張って隠しているだけか。
目も若干赤い感じがするから泣いたのかもしれない。
こういうときはあんまり一緒にいたくないから自分の席でゆっくりしよ、
「本か、どういう内容なのだ?」
う、とはできなかった。
どういう内容もなにも、私だって分からないから読んでいるわけだ。
知っていたらつまらない、そんな読書に意味はない。
「まあいい、それより相手をしてほしいのだが」
「いいよ」
「廊下に行かないか、ここは……ほら」
「分かった」
好きだった女の子も同じクラスだから気になるらしいって当たり前か。
「でも、本命と無理になった瞬間に来るようになるなんて面白いね」
「うっ」
短いときは一週間、長いときは一年間、今回は半年だったことになるけどその間は全く来ていなかった。
別に好きにしてくれればいいから冗談だと終わらせておく。
「いいんだよ、どうせ人間なんて利用したり利用されながら生きていくんだから」
「お、怒っているのか?」
「なんで? 別に怒ってなんかいないよ」
昨日もそうだったけど久しぶりすぎてどう接したらいいのか分からないというのもあった。
だから大人しく教室で本を読んでいた方がいい気がする、作られた世界に集中しておけばごちゃごちゃ考える必要はないからだ。
「愛花、広人と広木に会いたい」
「それなら今日来ればいいよ、昨日広人が気にしていたから」
「そうか、なら行きやすいな」
その言い方だとまるで私ひとりだと行きづらいみたいだ。
まあいい、じゃあ今日はそういうことにしよう。
それまでは怒られない程度に真面目にやればいい。
はぁ、学校に広人と広木がいてくれれば、あ、広木がいてくれればいいのに。
あの子は真面目にやるから教えながらできれば時間だって早く経過する。
いや、逆に広人を連れてきて真面目にやらせるというのもいいか。
ちょっと調子に乗ってしまうところがあるから周りの人間が高校生なら……ふふふという感じで。
「愛花、そろそろ行こう」
「ん?」
「わざと知らないふりをするな」
彼女にとっての本命が近づいてきてすぐに教室から出た。
どうせ目的地は一緒だから別れることになっても問題にはならない。
「酷いな、わざわざ別行動をしなくてもいいだろう?」
「あの子と話すと思っただけ」
「話すわけがないだろう」
そういう極端なやり方は絶対に自分に悪影響となる、自分で自分の首を絞めているようなものだ。
頭がいいのはそういうときには関係ないんだな、というか何度も同じことをしてなにをしているのかとツッコミたくなる。
「やはり怒っているのだろう? 半年前はもう少し愛花は優しかった」
「人は変わるんだよ」
怒っていないのに勝手に怒っていると決めつけられるのは面倒くさい。
これだったらこれまで通りでよかった、本当は楽だったことに終わってから気づくとは。
学んでいないのはこちらも同じか、なんか恥ずかしいよ。
「あー! らい姉だ!」
「広人、うるさいぞ」
「広木だってらい姉と会えて嬉しいだろ?」
「でも、久しぶりすぎてどう話せばいいか分からないから」
「あ、確かにそうだな」
広人の方が一応お兄ちゃんなのに広木の方がしっかりできている。
まあでも、ああしてちゃんと指摘してくれるのであればこれから直るだろう。
私よりも近い距離にずっといる存在だし、広木の言うことだったら広人も聞く。
「それに俺、姉ちゃんがいてくれればそれでいいから」
「なっ、俺だって……」
「別に広人はそのままでいいと思う」
「いやだから……」
そういうのもありがたいようなありがたくないようなという感じだった。
家族だからこそはっきり言ってくれればいい、そのかわり外ではしっかり気をつけて発言してくれればね。
でも、さすがに小学生だからそんなに上手くはできないか。
じゃあせめて女の子を泣かせないような男の子になってほしかった。
「らい姉はい! 俺が買ったジュースをやるよ!」
「ありがとう」
「蕾、私は部屋に行って着替えてくるから」
「ああ」
とことこ広木も付いてきた。
お姉ちゃん子でいてくれているということ? え、いいのだろうか。
姉らしいことをなにもできていないというわけではないけど、私が姉でよかったと言ってもらえるような人間でもない。
「なんでいまさららいさんは来たんだ?」
「広人と広木に会いたくなったんでしょ」
「姉ちゃんは嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないよ」
まあ、あまり時間が経過しない内にまた離れると思うけど。
なんとなく着替えてから部屋に入れて頭を撫でておいた。
「いつもありがとね」
「姉ちゃんがつまらさなそうな顔をしているのは嫌なんだ」
「でも、私は私だからこれから何回も見ることになるよ」
「らいさんじゃなくて急に消えたりしない他の人がいてくれればいいのに、俺は高校生じゃないから学校があるとなにもしてやれない……」
「そんなこと気にしなくていいの、あんたはあんたで楽しく過ごしな」
まさか弟にこんなことを言われるとはね。
面白すぎて笑いそうになったけど今日もあの顔だったから頑張って抑えた。
「寒い……」
どんどんと寒くなっていく、雪すら降りそうな感じだ。
いま心配なのは弟ふたりが風邪を引かないか、ということだった。
誰が相手でもそうだけど苦しそうな顔をしているところを見たくない。
でも、しつこく言っても多分聞いてくれないからそういうことにならないように願っておくことしかできない。
「はは、寒いのに敢えて出るなんて面白いことをする、昔から愛花はそういう人間だがな」
「蕾、次へと動かなくていいの?」
「当たり前だ、というかそんなにすぐに動き出せるわけがないだろう」
彼女も「よっこらっしょ」と言ってから横に座った。
なんか違和感しかない、こうしていられていても嬉しいとは感じられない。
半年間のそれで無自覚にダメージを受けていたとか……そういうことだろうか。
「しばらくはゆっくりするよ、たまに広人と広木に会ったりしてな」
「そっか」
いやでもまさか広木からあんなことを言われるなんてねえ、残念ながら彼女以外の友達はいないからどうにもならないけどね。
意識して行動しようとも考えられない、そんなことをするぐらいなら本を読んで過ごした方がいい。
「なあ、なんで小学生の頃にこんなことをしたのだ?」
「ちょ、なんか触り方がいやらしいんだけど……」
好きな人間ができたら同性なのをいいことにこうやって触りまくっているのかもしれない。
「茶化すな、捲ればすぐに分かることだ」
「なんでだろうね、あ、構ってほしかったのかもね」
昔から傷跡や血を見るとテンションが上がってしまうというのも影響している気がする――あ、もちろん自分限定の話だけど。
グロ画像とかそういうのは苦手だ、一度見てしまうと何回も思い出して寝られなくなるぐらいには苦手だった。
だけどそれが自分となると話は変わってきて、同じようなことを繰り返した。
中学生になってからは馬鹿らしくなってやめたけど、それはいまでも消えずに残っている。
「これのせいで夏だろうが薄長袖を着る羽目になったのだぞ?」
「いや、私は元々日焼けをしたくなくて夏はずっと薄長袖だから」
「プールとか温泉にだって行きづらいだろう」
「元々行かないよ」
両親は忙しすぎるというわけではないけど同じ日に休めなくて遠出とかはできないままでいる。
私はそれでいい、ただ、弟ふたりのためにも行けた方がいいと考える自分もいる。
だからこそ友達のご両親が連れて行ってくれるということになったときは感謝しかなかった、あ、もちろん温泉ではなくプールだけどさ。
「そもそも蕾にだって言ったことなかった気がするんだけど」
「家で寝ているときに見えた、驚いてなにも言えなくなったが」
「え、いつの話?」
「中学一年生のいまみたいな冬のときの話だ、あの頃の私達はちゃんと毎日一緒にいただろう?」
それにしたって勝手に見るのは駄目だ。
冬なら長袖を着ているのは当たり前だ、今回みたいにいちいち捲らなければ見えるわけがない。
なんのためにそんなことをしたのかと言いたくなる。
「なんのために見たの」
「たまたま見えただけだ」
「はぁ、ま、後悔しているからもうこの話はしないで」
ちなみに広木はこのことを知っている、教えたわけではなくてたまたまお風呂に入っていたときに突撃してきたというだけのことだった。
もちろんそのときも見るのが目的ではなくて勉強で分からないところがあったからなんだけど、その後は困った。
離れようとしないし、すぐに大丈夫なのかと聞いてきたから。
「苛められているとかそういうことではなかっただろう? それなのにどうしてこんなことを……」
「いいよ、というかどうせもう消えないから」
薄っぺらいからか、なんか嬉しくないのは。
こっちにとっては唯一の友達だけど彼女にとってはそうではないからだ。
こんなことにもすぐに気付けなかったのは恥ずかしい。
「戻る、蕾もある程度のところで戻ってきなよ」
「待て待て、それなら私も戻るよ」
早く冬が終わってほしい。
冬が終わったら余計な心配をしなくて済む。
私がこんな感じだから弟ふたりには楽しく過ごしてほしかった。
遊んでもいいけど怪我をしないように抑えて遊んでほしい。
友達といたいのだとしても十七時までには必ず帰ってきてほしい。
またもう少し静かにしてと言わせてほしい。
あれはもう私にとっての日課みたいなものなのだ。
「あ、大高さん」
「あなたは……」
誰だ? しかも同じ学年ではない。
分かっているのはそれと髪が長い同性ということだけだった。
「同じクラスでも同じ学年でもないから分からないわよね、私は流川
「え、なんで……あ、なんでですか?」
「まあまあ、別にいいだろう?」
「は? なんで蕾がそんなことを言うの」
「か、顔が怖いぞ」
冗談じゃない、昔から一緒にいる彼女にだって薄っぺらさを感じて離れたくなっているぐらいなのに先輩と一緒になんかいられるか。
頭を下げて離れた、こういうときでも挨拶をしっかりしておくのは大切だ。
「蕾のせいなの?」
「違う、私はただ愛花に友達的存在が増えてくれたらいいと考えただけだ」
「余計なことしないで」
「愛花……」
正直に言うとあまり余裕というものがなかった。
だからこんなことにもいちいち感情を表に出して雰囲気を悪くする。
こういうことが増えるからひとりの方がいいのだ、そしてそれと同時に弟ふたりが学校にいなくてよかったと思う。
「蕾は早く女の子を探しなよ、あ、それこそさっきの人は?」
「女子なら誰でもいいわけではない」
「でも、関わってみたら変わるかもしれないでしょ、恋愛なんてそんなものじゃん」
「そうか、そうだな」
ん? なんかこの笑みは初めて見た。
だけど彼女からそうだなという言葉を引き出せて久しぶりに嬉しかった。
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