第四章 交易発展編
第136話 領地改革
俺がフィリップになってから三年以上が経過した。俺は十三歳となり、どんどん成長して今ではティナの身長を超えている。まだ成長期真っ只中で日々身長が伸びているので、最終的には高身長が期待できるだろう。
父上は結構背が高いから期待してはいたんけど、予想以上に成長してるよな……十歳の時から背を伸ばすために頑張ってた甲斐があった。
「フィリップ様、大事なお話とは何でしょうか?」
今俺がいるのはカルフォン伯爵家の応接室だ。目の前にはティナがいて、机の上には花の香りのする美味しいお茶と、カボで甘味をつけたクッキーが置かれている。
今では高位貴族なら、お茶と軽食を楽しむぐらいの余裕はあるのだ。三年前に滅亡しそうになってた国だとは思えないよな……本当に頑張った。
「実はさ、今度ライストナー公爵領に行くことになったんだ」
「公爵領に。それはどの程度の期間なのでしょうか?」
「まだ正確には決まってないんだけど、短くても一ヶ月はかかるかなぁ」
今回俺が公爵領に行くのは、公爵家の嫡男としてというよりも、王宮からの官使として行く。いつも森を探索している皆と共に領地へ行き、王都周辺にはない作物や魔物を見つけて、それをその領地で栽培してもらうのだ。
そしてその作物と王都で作られている作物で交易をするように整えて、国全体が豊かになることを目指す。
探索して栽培計画を立てて交易ができるように整えて、そこまでするのはかなりの時間がかかるだろう。
「一ヶ月は長いですね……」
「うん。もっと長くなるかもしれないから、ティナには話をしておこうと思って」
「途中で王都に戻られたりはしないのですか?」
「基本的には戻らない予定だよ。でも一つ考えてることがあって、転移板を作ろうかなと思ってるんだ」
転移板とは、一枚の大きな魔鉱石に転移の魔法陣を刻んだもののことで、二つ作って初めて使えるようになる魔道具だ。二つが対になるように魔法陣に印をつけ、大量の魔力を消費する代わりに、片方の転移板の上に乗っているものをもう片方の転移板に移動させることができる。これは物だけでなく、人間など生物も移動可能なのだ。
かなり便利で、これがあるだけで国の発展速度が格段に上がるから作ろうと思ってたんだけど、転移板にできるような大きな魔鉱石がなくて後回しになっていた。
ちょうどこの前大きな魔鉱石が採掘されて、二つの転移板を作れる準備は整っているので、満を持して作ろうと思う。かなり難易度が高い魔道具作成だけど……なんとか成功させられるはずだ。俺もこの三年でかなりたくさんの魔道具を作って、腕を磨いたから。
「遂に転移板を作ることができるのですね! フィリップ様に何度か詳細を聞きましたが、国にとって有益なものとなることは間違いないと思います」
「そうなってくれたら嬉しいよ。争いの種にならないようにだけ気をつけないと」
転移板は敵に渡ってしまったらかなり危険な物なので、その扱いはことさら慎重にする必要がある。とりあえず俺が最初に作る転移板は、公爵家の王都邸と領地にある屋敷の一室に設置して、そのどちらにも護衛兼見張りを置く予定だ。
「転移板が作れたら王都と領地を頻繁に行き来できるだろうから、ティナにも会いにくるね」
「ありがとうございます。お土産話を楽しみにしていますね」
「もちろん。新しい作物が見つかったらそれも優先して届けるから楽しみにしてて」
「まあ、それは素敵ですね。養父様と養母様の分もできればお願いいたします」
「それはもちろん」
ティナは俺がすぐに頷いたのを見て、嬉しそうに頬を緩めた。ティナとカルフォン伯爵夫妻の関係は良好で、本当の親子のように打ち解けている。ティナは以前より毎日が楽しそうで、本当に良かったなとここにくるたびに思う。
ちなみにティナは孤児院の仕事は続けている。しかし他にもやるべきことがあるので勤務日は以前より減らし、孤児院には別の職員も雇っている。そしてティナはその空いた時間で様々な勉強と、治癒のヘルプをしてくれているのだ。
治癒院で働く治癒師は二人増えて全部で四人になってるけど、その四人で足りない場合のみティナが呼ばれることになっている。正式な治癒師ではないので基本的には顔を明かさないように、普通の患者対応はせずに騎士団の怪我を治癒するのがほとんどだ。
「私も別の街に行ってみたいですね……」
「本当? じゃあ許可が降りて転移板も成功したら、公爵領を案内しようか?」
「良いのですか!?」
「多分大丈夫じゃないかな……ファビアン様に聞いてみてになるけど。後はカルフォン伯爵夫妻にも」
俺のその言葉を聞いて、ティナは瞳を輝かせて少し身を乗り出した。
「私が養父様と養母様にはお話をしておきます。フィリップ様は王太子殿下へ話をお願いいたします」
「了解。そんなに公爵領に行ってみたいの?」
「はい! 王都の外には出たことがありませんから、とても気になります。こことはまた違った植物があったりするのですよね?」
「気候が少しは違うからあると思うよ。ムギと似た主食になるイネや、砂糖の原料であるテンカって植物を特に探したいと思ってるんだ。まあその二つじゃなくても、なんでも新しい作物は嬉しいんだけどさ」
イネやテンカはどんなに探しても王都周辺にはなかったからな……今でも冒険者や騎士達が頻繁に森に出入りしてるけど、見つかったという報告は来ていない。
もう王都周辺にあって見つかっていないという可能性はかなり低いと思うので、見つけられるとすればそれぞれの領地の森だ。まだ王都以外はそこまで発展していなく、森の探索までは手が回ってないところも多いらしいから。
「砂糖とはフィリップ様がいつも欲しいと仰っているものですね」
「そうなんだよ。あれがあればこのクッキーがもっと美味しくなるんだ。後はイネもかなり欲しいよ」
ムギがあって、パンやパスタなど美味しいものはたくさん増えたからこれ以上は贅沢かもしれないけど、やっぱりたまにはコメを食べたくなるのだ。トマトパスタも美味しいけど、トマトリゾットも食べたい。
「それらの植物が見つかると良いですね」
「うん。頑張って探してくるよ」
「良い報告をお待ちしています」
そうして俺はティナに出立の報告をして、カルフォン伯爵夫妻にも挨拶をして屋敷を後にした。ティナと過ごす時間は穏やかで楽しくて、屋敷を出た馬車の中で俺は頬を緩めていた。
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