第128話 ティナの今後
ティナとカルファン伯爵夫妻が一通り挨拶を済ませたところで、父上がまた口を開いた。
「ティナを養子に迎えるということで良いか?」
「もちろんでございます」
「ありがとう。では手続きについてはこちらに任せて欲しい。署名などが必要な場合は声をかけるので、その時はよろしく頼む」
「かしこまりました。いつでもお呼び立て下さい。ティナが養子に入るのはいつ頃になるのでしょうか?」
いつ頃が良いのだろうか……まだこの辺の詳細は全然決まっていないのだ。カルフォン伯爵夫妻と顔合わせをしてから決めることになっていた。あまり気が合わないようなら、養子に入るのはできる限り遅くしたいと思ってたんだけど、この様子ならすぐにでも良い気がする。
「ティナはいつが良いのだ?」
父上がティナにそう聞いたことで、全員の視線がティナに集まった。
「……私が決めても良いのでしょうか?」
「ああ、君に関することだ、意見は聞きたいと思っている」
「ありがとうございます。私は……できる限り早い方が嬉しいです。フィリップ様に相応しい知識を身に付けるには、少しでも時間が惜しいですから」
そんなふうに思ってくれてるのか……俺は嬉しくて嬉しくて、ティナの手を握って笑いかけたいのを必死に我慢した。さすがにこの場でそんなことはできない。
「分かった。ではすぐにでも手続きを始めよう。数日以内には養子に入れるはずだ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「数日後ならば、早く部屋を整えなくてはいけないわね。あなたの部屋は決まっているのだけど、まだ細かいものは買い揃えていないのよ」
カルフォン伯爵夫人は嬉しそうな笑顔でそう言った。それに伯爵も同じような表情で頷く。
「そうだな、早く揃えなければ。……そうだ、どうせならティナにも選んで貰えば良いのではないか? ティナは時間があるだろうか?」
「……仕事を休まなければいけませんので、院長に話をしてからでないと確定はできないのですか、時間は作れると思います。即答できず、申し訳ございません」
「いや、気にしなくて良い。そういえば孤児院で働いているのだったな。養子に入った後も働き続けたいと聞いている。私も仕事を続けることには賛成だ、国の機関での仕事だからな」
伯爵も仕事を続けることを勧めてくれるのか! マジで良かった、ここの意識のすり合わせは大変かもしれないと思っていたのだ。やっぱり国の機関ってところが強いんだな。
「ありがとうございます……! 仕事を続けながら勉学にも励みますので、よろしくお願いいたします」
「無理はしすぎないようにね。体調を崩しては大変だわ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
「では数日以内でティナが休める日に、一緒に部屋を整えましょう」
カルフォン伯爵夫人のその言葉にティナは笑顔で頷き、二人はお互いに微笑みあった。もう既に二人の間には親密な空気が漂っている。
「では数日以内には養子に入る予定で頼む。婚約発表については早くとも数ヶ月先になるだろう。それまで明言は避けてほしい。またこれは先の話だが、結婚はフィリップが成人したと同時に行う予定だ。それも頭に入れておいてくれ」
「かしこまりました。心得ておきます」
そうして大切な話を終わらせた俺達は、お茶と果物を楽しみながら一時間ほど雑談を楽しんだ。そして穏やかな良い雰囲気のまま、顔合わせは終わりとなった。
カルフォン伯爵家と顔合わせをした次の日。俺は仕事を休み、孤児院を訪れていた。今日はティナの今後についてをダミエンに話す予定なのだ。
ダミエンはティナの上司であるので、俺との婚約について事前に話をする許可を得ている。まだダミエンにはティナが養子になることも話をしていないので、今日はそこから話をする予定だ。
ダミエンは驚くだろうか……俺とティナは思いを通じ合わせてからも今まで通りに接していたので、多分気づかれていないはずだ。
孤児院の前に馬車が止まると、子供達が一斉に迎えに出てきてくれた。ティナへの授業で何度も訪れているので、今では余所者感はなく身内のように接してもらえる。
「皆、出迎えありがとう」
「フィリップ様いらっしゃい! またティナ先生と授業なの?」
「ううん、今日はティナと一緒にダミエンに話があるんだ」
「そうなんだ。後で私にも読み書きを教えてね!」
「時間がある時にね」
ティナが学んでいるのを見て、子供達の何人かは自分も学びたいと俺に声をかけてきたのだ。俺は時間がなくて教えることが難しいので、基本的にはダミエンとティナが教えているけれど、俺もこうして孤児院を訪れた時にはたまに教えている。
「フィリップ様、お待ちしておりました」
子供達に促されて孤児院の中に入ると、少しだけ恥ずかしそうなティナに出迎えられた。そんな表情をされると俺も恥ずかしくなるな……
「ティナ、出迎えありがとう。ダミエンは時間をとれるかな?」
「はい。子供達が建物内を掃除している時なら大丈夫だそうです」
「それなら良かった」
そんな会話をしつついつも通り食堂に入ると、子供達と一緒に食堂のテーブルを綺麗にしているダミエンがいた。
「フィリップ様、ようこそお越しくださいました。もう少しお待ちいただけますか?」
「もちろん。時間ができた時で良いよ」
「ありがとうございます。あと数分で私も向かいますので、ティナの部屋にお願いいたします」
ティナの部屋……マジか、今まで入ったことないんだけど。俺は一気に緊張して、指先が少し震えた。ニルスがいるから二人きりにはならないけど、それでもティナの部屋というだけで緊張する。
「わ、分かったよ」
「フィリップ様、こちらです」
子供達にまたねと手を振りながら食堂を出て、ティナに案内されて部屋に向かった。ティナの部屋の中は……ティナらしくとても綺麗に整えられていた。
「狭い部屋ですが、すみません。子供達に邪魔されずに話せる場所が、私かダミエンの部屋しかなくて」
「全然大丈夫だよ。気にしないで」
「ありがとうございます。椅子に座ってお待ちください」
ティナに促されて椅子に腰掛けると、ニルスは俺の後ろに立って待機した。そしてティナは俺の隣の椅子に腰掛ける。
視界に入れようとしなくても、この狭い部屋の中でベッドが存在感を放っていて、どうしても見てしまう。ティナは毎日ここで寝てるのか……ダメだ、このままだと変なことを考えてしまう! ダミエン早く来て!
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