第27話 その他の計画
「次にお話ししたいのは、南区の改造計画です」
「スラム街か……確かに国の改革をするならば避けては通れぬ場所だな。どのような計画なのだ?」
「私達が考えたのは、南区全てを畑に変えてしまおうというものです」
スラム街である南区を改造するという話では当たり前のように相槌を打っていた陛下と宰相様も、南区全てを畑にするという話を聞いて耳を疑うような仕草を見せる。
「南区全てを畑に……? 私の聞き間違いか?」
「いえ、本気で言っています」
「それは……確かに理想かもしれないけど、どうやって実行するんだい? 家を壊すのだって並大抵の労力じゃ無理だ。南区全ての家を取り壊すなんて考えたら、十年単位の計画になってしまうよ」
宰相様は極めて常識的なことを言っている。この国で非常識なのは……魔法陣魔法と俺だ。
「フィリップによると、魔法陣魔法を使えば短い期間で家を取り壊せるそうです」
「……それは本当か? どうやるんだ?」
俺は陛下のその質問を受け、方法を説明するために口を開いた。
「南区の住民を全員避難させ、私が攻撃魔法を使って家を壊していきます。そして家が瓦礫になったら、空間付与を施した魔道具に瓦礫を収納していきます。空間付与の魔道具にはさすがに家を丸ごと収納することはできないので、いくつかの瓦礫に分ける必要があるのです」
空間付与の魔道具にどの程度の大きさ、量を収納できるのかは製作者の実力によるけれど、俺が作ることができる最大の性能は、人よりも二回りほどの大きさまでは収納可能で、空間は公爵家の屋敷が三つ分程度だ。
「……まず、攻撃魔法とはなんだ?」
「その名の通り、攻撃力に特化した魔法です。主に魔物を倒す際に使うものですが、家を壊すときなどにも応用できます。今回は土属性を基本として固く鋭い岩を作り出し、それを家の支柱に当てることで最小限の労力で家を取り壊そうと思っています」
陛下と宰相様はその返答を聞いて、改めて魔法陣魔法の有用性を認識しているみたい。魔法陣魔法は日常生活を便利にしてくれる素晴らしいものだけど、やっぱり一番役に立つのは攻撃魔法だ。
「空間付与を施した魔道具の話は前に少し聞いたな。あの時は色々と衝撃の事実が多くて深く聞くことはしなかったが、具体的にどのようなものなのだ?」
「そうですね……魔鉱石に空間付与の魔法陣を刻むことで、ただの魔鉱石という物体でしかなかったものが、広い空間への入り口に変わるという感じです。その空間は私達がいる場所とはまた別の次元に存在しています」
この世界に今まで存在しなかったものを説明するのは難しい……やっぱり実物を見せて説明するのが一番楽なんだけど、今手元にないからな。
「とりあえず別の次元にたくさんのものを収納できて、また入り口である魔道具さえ持ち歩けば、どこででも取り出せると考えてください」
「フィリップ君、その魔道具はたくさん作ることも可能なのかい?」
宰相様はどのようなものか理解したのか、その使い道に意識が向いているようだ。
「はい。魔道具を作ることができる人が増えれば、後は材料さえあれば増産できます」
「それは素晴らしいね……物資の輸送に革命が起きるよ。例えば今までは大人数で三つの馬車で運んでいた物資が、その小さな魔道具を持った一人の人だけで運べるということだよね?」
「仰る通りです。そして私が作る魔道具でしたら、馬車三つ分ではなく屋敷三つ分程度の空間が付与できます」
「屋敷三つ分の空間が、手で持てるほどの小さな魔道具に付与できるのか……」
宰相様は驚愕に目を見開き、難しい顔をして黙り込んでしまった。屋敷三つ分となると、さすがにどのようなものなのか思い描きづらいのだろう。
空間付与の魔道具は本当に便利で、前の世界では一人一つ持つのが当たり前だった。この国でもそうなったら便利だよね。
……まあ俺の分は早々に確保するつもりだけど。魔法陣が複雑になって大変だけど、ちゃんと使用者制限も付けて俺しか取り出しできないようにする予定だ。
「フィリップ、その空間に人は入れるのか?」
「いえ、人や魔物など生きているものは基本的に収納不可です。しかし植物は収納可能です」
「そうか……ではその空間に魔物を収納して餓死させるという方法は取れないのだな」
すぐにそんな方法を思いつくなんて、やっぱり陛下は凄いな。着眼点が鋭い人だ。
「分かった。話を聞いた限りでは確かに実行可能な計画だろう。南区の改造改革も進めてくれ。撤去した瓦礫は街の外に捨てる場所を決めよう」
「かしこまりました。ありがとうございます」
これで清掃計画と南区改造計画が行える。上手くいけば平民街が綺麗になってスラム街がなくなって、畑が増えて食料生産量が増えるはずだ。……成功するように尽力しよう。
「では後いくつか、この二つの計画と並行して行いたいものがあります。一つ目は清掃計画が終わった後の話なのですが、水を作り出す魔道具を公共のものとして広場に設置したいです」
最初はそれぞれの家を魔道具を持った騎士が回ることも考えたけど、それだと全てを回るのは不可能だということで広場に設置することに決めたのだ。そうすれば欲しい人はいつでも広場に行って水を得ることができるし、騎士の見張りも交代要員を入れて数名で済む。
「それは反対する理由がないな。維持費などはどれほどかかるのだ?」
「基本的に魔道具は壊れない限り使い続けられますので、そこまで維持費はかからないと思います。水を出現させるのも、水が欲しい者が個々に魔力を込めれば良いので。フィリップによりますと、水を出現させるだけのような単純な魔道具を起動できないほど魔力がない者は、滅多にいないとのことです。もしそういう者がいた場合のみ、見張りの騎士達に魔力を込めさせれば良いかと」
前の世界でそこまで魔力量が少ない者は、何百万人に一人以下の確率だったので、この街に一人いるかいないか程度だと思う。
「分かった。ではその計画も進めてくれ」
「かしこまりました。それからもう一つ水に関してなのですが、フィリップが雨を降らせる魔道具も作ってくれるとのことですので、そちらは騎士達に畑を回ってもらい、畑の水不足解消に努めようと思っております」
陛下と宰相様がその提案にも二人同時に頷いてくれたことで、平民街に対する計画は全て実行することに決まった。あまり反対せずに、自由にやらせてもらえてありがたいな。
「とりあえず直近で平民街に対して行う政策はこれぐらいです。では次は王宮で行いたいことなのですが…………」
この後は俺が魔法陣魔法の授業をすること、そしてその授業を受ける者の人選について、さらにミルネリスを王宮の空いている一角で栽培すること、また魔道具や魔紙の材料を調達するために専属の冒険者を王家で雇うこと。
それらの予定を全て話して了承をもらい、今日の五人での話し合いは終わりとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます