寒すぎる場所

第1話

　いくら暑い場所より、寒い場所の方がましだからっていっても。

　これはないんじゃないかな。

　俺はがたがたと震えながら彼女に文句を言おうとしたけど、寒すぎて歯の根があわず、言葉にならなかった。

　俺の彼女は寒い地方の出身だ。

　だから、都会に出てきて、しきりに暑い暑いと言っている。

　それがちょっと可哀そうだなって思ったから、今年の夏は彼女の故郷へ行ってそこで過ごす事にしたんだけど。

「こ、こここ、こんなに寒いなんて聞いてない！」

　異常気象とか、大雨で気温低下とかそういうものじゃない。

　もっとこう、根本的に違う。

「やっぱり暑い時は冷凍庫の中だよねっ」

　彼女の実家は氷製品や冷凍食品を扱うお店だった。

　だから、巨大な冷凍庫がある。

　子供の頃から彼女は、この冷凍庫の寒さを知っていたらしく、暑さを感じた時はわがままを言って涼ませてもらっていたらしい。

　それを聞いて思った。

　信じられないとかありえないとか、そういうのはいったん置いといて。

　何よりも優先すべき質問だ。

　後から考えたらそんな馬鹿な、と思うだろうけれど、今は本気で訪ねたい。

「普通の人間はまつげが凍るような場所で、ずっと平気ではいられないんだよぉ」

　まず最初に、彼女が雪女ではなく人間である事実を疑っていた。

　君、人外とかじゃないよね？