骨皮王子と鶏ガラ令嬢に何を言われたとしても、豚は正義なのです。

江戸川ばた散歩

前編

「エイダ・マルマルスティーン! 貴様との婚約は破棄だ! いつもこのアリスを虐めて!」


 あら、私何か呼ばれてますわ。

 何でしょう。

 それより今日のこの料理、何って美味しいんでしょう。

 王宮のパーティはだからこそ逃せないことですのよ。

 特にこの豚肉のローストにアップルソースをかけたもの……

 下味がしっかりついた豚のもも肉の塊に、アップルソースの甘酸っぱさがえも言われぬコントラスト!

 思わずほっぺたに手を当ててしまいます。


「おい、聞いてるのか! マルマルスティーン侯爵令嬢エイダ!」


 あ、やっぱり私のことでしたのね。

 皿を持ったまま、私は第一王子サリュート殿下の方に向き直ります。

 一応、私この方の婚約者なので。


「何かおっしゃいましたか? 殿下。私は今この料理の素晴らしさを味わうのに夢中で」

「……くっ! お前の悪行を今ここで暴露してやろうと言うんだ!」

「悪行? そんなことしている暇がありましたら、新たな料理の開拓に時間を使うのが我が国の模範とされる行動ではないですの? 殿下は先ほどから何も召し上がっていらっしゃいませんではないですか」

「そんなこと、だと?!」


 楽しそうにテーブルを周りながら料理を口にする人々の間をかき分け、殿下と…… あら、何やらずいぶんと腰の細い少女がくっついてますね。

 何でしょう?


「お前はこのアリスを何かと虐めていたというではないか!」

「アリス? はて、その様な方の名前を聞いたことはございませんが。アリシアは伯爵令嬢、アイリーンは子爵令嬢、アリエンテは私と同じ侯爵令嬢ですが、アリスという簡素な名前の方は聞いたことが。それにその方の御容姿でしたら、私絶対忘れないと思うのですが」

「ひ、酷いですわ…… 私はカモナ男爵家の次女アリスです! 学校でエイダ様は私に何かと……」


 私は取り分けたローストをしっかり食べ尽くすと、側にあったパンチを掬いにガラスの器を取りに移動しようとしました。


「おいちょっと待て!」

「待てませんわ。だから殿下、ともかく今は美味しい料理を味わうのが一番ではないですか」

「何だと! 話を聞け!」


 殿下は私の腕を重そうに掴み上げます。


「く……っ! 何って重いんだ! このぶくぶくとした豚の様な女が!」


 は?

 その瞬間、周囲の空気が凍りました。

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