(2)
「お疲れでしょう? ただでさえ仕事が多いのに、神罰による発熱のせいで満足に眠る事が出来ていないのですから」
眼帯が派手だからそちらに目が行きがちで分かりづらいが、よく見ると目の隈も濃いし顔色も良くない。もうじき満月がくる時分だから、きっと熱の方も夜毎高くなっていっている筈だ。それでは、余計に体力を消耗してしまう。
「……すまない」
「どうして秋満さまが謝罪する必要がありますか?」
「心春は術の方に集中しなければならないだろうに、余計な手間をかけてしまった」
「こんなの手間にはなりません。そもそも、術を使う為にも必要なものですから」
「そうなのか? でも、薬湯を煎じるのには時間がかかると聞くが」
「時間は掛かりますね……でも、それ以外にする事もありませんし」
何か彼の手伝いが出来れば良かったが、業務の方は門外漢でとても戦力にはなれそうになかった。なので、今は術の準備をしつつ空いた時間は地上の医療事情を勉強させてもらっている。似通っている部分もあれば違う部分もあって、なかなか面白い。
「……確か、解呪の術は新月の日に行うと言っていたな」
「ええ。月読様の力の影響が一番少ないですから」
「それなら、あと半月くらいか」
「そうなりますね」
急に現実を突きつけられて、少しだけ気持ちが沈んでしまう。医術の勉強が楽しくなってきているので猶更地上に残りたいとは思うが、このままここにいられるかは彼次第なのだ。離縁はしても居候はさせてくれるというのならばせめて傍にはいられるけれど、そうでないならば私はここから出ていかないといけない。
……それでも。
「あと半月で準備をしっかりと行って、必ずあなたの神罰を解いてみせますから」
私を必要としてくれたこの人と、約束したそれだけは。絶対に果たしてみせる。
「心春」
秋満さまの瞳がこちらを向いた。私は、あと何日この瞳を間近で見つめていられるのだろう。
「……宜しく頼む」
彼の口が言葉を紡いで、彼の頭がこちらへと垂れる。秋満さまは当主だから、そうそう頭なんて下げてはいけないだろうに。それでも、こうして律儀に接して下さる様は、私の恋慕を抜きにしたって評価されるべき部分だろう。当初の自分を棚に上げ、彼を誤解しないでほしいという思いと、私だけが知っていたいという思いが、それぞれ胸中を渦巻いている。
「はい」
複雑な胸中を抑え込みたかったのと、言葉を連ねるよりは一言はっきり返事をした方が伝わるかと思ったのとで、それだけを彼に告げる。再び視線が合った赤紫の瞳は、やはりとても美しかった。
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