(4)
「父を討伐したその後で、月読様は私と母を救おうとして下さいました。けれど、どちらもあと数刻で消滅する……助ける手立てが、ほぼないと。そんな状況でした」
「それなら、どうして心春は助かったんだ?」
「母が最期の力を振り絞って、私を治してくれたんです。母も龍神だったので……それを見ていたから、月読様は私たち龍神の一族が、治癒に長けていると思われたのでしょう」
その瞬間は、未だ鮮明に覚えている。目の前が真っ暗になってきて、このまま自分は消えてしまうのか、それは怖い、嫌だ……そう思っていたら、母さんの優しい声が聞こえてきた。
『大丈夫よ。心春だけは、絶対に助けるから』
その言葉を合図に、温かな神力が体に流れてきた。流れていくままだった血も無事に止まって、ほっと一息ついて……何とか体を起こせるまでに回復したけれど。母さんの方は、助からなかった。
「その一件で、私は両親共に失いました。そして、邪神の娘だと言われるようになって、一族の他の神もそれ以外の神もほとんどが私を除け者にするようになって……変わらずに接して面倒を見てくれていたのは、母の母……祖母とその友神くらいでした」
とつとつと語りながら、そうっと秋満さまの様子を伺った。彼は、とても真剣な表情を浮かべてこちらを見つめている。綺麗だな、と。何のてらいもなく思った。
「……では、俺はそのお祖母様と心春を引き離してしまったのか」
「数年前から祖母の家を出て一人暮らしを始めたので、その辺りは気にされなくて大丈夫ですよ」
「そうか、それなら良いんだが」
本当にこの人は優しいと思う。見た目との差がありすぎた。これでは、変に誤解されないとも限らない……そんな心配をする権利、私には無いのに。
「私が話しておきたいとお伝えしたのは、この事です。秋満さまの神罰を解呪出来るだけの優秀な神を……というお話だったのに、蓋を開けてみたら能力普通の邪神の娘だったなんて、あまりにも申し訳なくて」
気が咎めたから先に謝っておきたかったんだ、と告げた瞬間。彼の表情が怒りに満ちた。ああ、そんな人ではないと思いたかったけれど、やはり怒ってしまったか。
「本当に、嫁いできたのが私のような者で申し訳ありません。せめて解呪は出来るように頑張りますが……出来なかった際は、遠慮なく追い出してもらって構いま」
「何を言っている」
私が言い終わらないうちに、秋満さまが口を開いた。怒るのは無理もない……と思うけれど、それにしては放たれた言葉が不自然だ。
「昨晩、心春は俺を救ってくれた。普通などではないだろう」
「……神界の中では、一族の中では普通ですよ」
「龍神の一族は元々平均が高いのだろう。それならば、神界全体で見れば心春は上位層に入るのではないか」
「それは……そういう考え方も出来るかもしれませんが……でも……」
「もう一度言うが、心春は俺を救ってくれた。救える力があった。だから、俺は心春で不足とは思わない」
「……秋満さま」
「解呪出来た後どうするか、は一旦保留にしよう。神界に帰りづらいと言うのならば地上で過ごせるように計らうし、戻ると言うのならばそれでも構わない。勝手な事を言って申し訳ないが……まずは俺の神罰を解呪する、という事に力を貸して頂けないだろうか」
曇りのない赤紫が、私の心を貫いた。私で良いと言ってくれた、私の力を貸して欲しいと言ってくれた。それが、その事が、涙が出るくらい嬉しくて。
「分かりました。私にも神としての矜持があります、貴方の神罰を無事に解呪できるよう、全身全霊で取り組ませて頂きますね」
初めて芽生えた、彼への微かな感情には蓋をして。解呪に協力する旨だけを彼に約束した。
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