(3)
「……そのつもりだ」
「そう、ですか」
普通そうだろうと思う。目的がある婚姻なのだから、目的を果たせば解消するのが道理だろう。それなのに……それなのに、どうして、私は今こんなにも苦しくて悲しくて、泣き出したいくらいなのだろう。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、顔色が悪くなっていったように見えたから」
「ああ……大丈夫ですよ。詳しい事情を知らなかったので驚いてしまって」
「そうだったのか? そう言えば、月読命も治癒力に長けた一族の長に掛け合ったら了承してもらったと言っていたものな……その長は、今回の事情を心春へ説明していなかったのか」
不親切だなと眉を潜めている秋満さまへ向けて、こくりと頷いてみせた。あの人は私を追い出したかったのだから、言う筈がない……言われていれば、家財道具は置いていっただろうけど。
「わざと言わなかったんだと思います。あの神達は、私を厄介者扱いしていたから」
「厄介者? もしかして……心春が優秀だから妬んで」
「いいえ」
はっきりと否定すると、彼の赤紫の瞳が困惑を映した。そういう理由を先に思いつくなんて珍しい人だ。普通、何かやらかしたのかとか劣っているからとか、そう思う事の方が多いだろうに。
「私の父が……信仰を失って、邪神と成り果てたからです」
そう告げた瞬間、彼が息を飲む音が聞こえた。そんな事がと呟いた彼の声にも、困惑が滲んでいる。
「私は、優秀な神なんかじゃありません。能力的には一般的な方ですし、父は優秀な神でしたけれど……父を祭っていた神社の参拝者が減って、経営が出来なくなったからといって取り壊されてた関係で、絶望した父は堕ちました」
あの時の父は見ていられなかった。神界で暮らす神の中でも神社に祀られる神はそう多くない、そんな祀られる程の神であったのにと毎日嘆いて、嘆いて、心が壊れていって。
同じような目にあった別の神は、これも時代だと言って受け入れて心穏やかに過ごしていたから、あんなに思い詰めてしまったのは父の性格が理由だったのだろう。同じように、受け入れて欲しかったけれど。それは叶わぬ夢となった。
「私や母は、毎日そんな父を励まして、支えていました……いたつもりでした。けれど、神としての矜持を忘れ人間に逆恨みを始めた父の暴走に、巻き込まれてしまったんです」
「……そんな神が暴走したら、ただでは済まなかったのでは」
「ええ。私と母が二人がかりで対峙しても、到底敵う相手ではありません。父を止めようとした私は重傷を負い、そんな私を庇った母は更に深手を負いました」
だから、結局父は天照さまの側近であった月読様に討伐された。神界の中でも最強と謳われるお三方の一人が相手では、流石の父も敵わなかった。
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