I・LOVE・GAMEOVER

sunago

GAMEOVER LOVER


デバックルームという都市伝説をご存じかな。

正式名称は、今の文言から先頭の一文字抜いたものが正しいのだが如何せん海外産のミームは版権がどこにあるのかわからない。そのため少しばかり名称についてはぼやかせてもらった。こんな狭間の世界にまで借用問題が押し寄せてきたら、いよいよ人間ってものはクリーピーパスタを食うことすらままならない情報の飽食者だと認めならなくちゃならん。胃腑に詰めるのはIFトークに留めておきたいもんだ。



で、ここは話の枕に挙げた通り恐らくこの世であって三次元領域ではない、現実という生命の海に張り付いた、実態なき“もしも”の小部屋・・・なんだと思うよ。宗教や科学のひらめきを含有するような上等なものではなく、もっとも安価で俗的な部類の物だがね。うんと無駄で途方もない試行錯誤を繰り返すためだけの四畳半もない思考上の余剰空間だ。

えーと、ひのふの都合五つか。作り置きでも回せる出来栄えだし、今は空けちゃっていいだろう。案内してあげるからおいで。怖いところじゃないんだよ。



そこで止まりな。『ヘアセレクト』エリアにぶっつかるから・・・

見た通り、髪型と色とを選べるところだここは。好きなだけ右でも左でも手を振ってごらん。好みに合うものを探せることになってる筈だ。ふわっとした青みの銀髪がいい?ホント人気なんだねああいうのは。その分だと衣装エリアではファンシー系の服を選ぶんじゃないのかい。それで身長は小さめで、花の飾りがよく似合って、気性が大人しければ万々歳・・・ハハハ茶化すのじゃないよ。ただ君の運が良いのだか悪いのだか測りかねてるだけだ。



実を言うと、本物なのかホログラフィなのか、やってる当人からしたらわからないのさ。何度もやってるんだがこれという確証が持てない。僕ァこの一帯から出られないんで知らないけど、この桃色だか水色だかわからない部屋の外には髪やら体やらを培養して送り出しているエリアがあるのかもしれないね。どれだけ長いこと選ばれなくったって腐りも臭いもしないのだから生身な訳がないんだが、考えの元が違うんだよ。僕や君の方がとっくに肉の体とおさらばしてるんだ。そうしてここで人造少女を組み立て続けているのだよ。



イヤに呑み込みが早いと思ったら肝心の筋を一本外してたのか。

何万回やったってあの女の子たちとは遊べやしない。出来上がるが早いがニッコリ笑ってそこの天窓からスウッと出ていくんだ。そういう風になっている。あの子らにはあの子らの用事があるんだろうきっと。枠の淵からチラッとぬいぐるみらしき物が見えたから、生まれることが出来た子は早速自分の部屋でも与えられてるんじゃないのかね。持たせた傘やら扇子やらが役に立つといいんだが、陣取り合戦の合間にどう遊び歩くのだろうな。



さっき拵えたのが間違いなく運命の姿だから追いかける?冗談だろう君・・・

誰にも気兼ねなく好みの女を作り放題、見放題のここでなんだって一人に拘る必要がある。そんな我慢は“あちら側”の連中に任せたら宜しい。こっちは制限が要らんのだ。これぞ会心の作だと見上げたその瞬間、もっといい形の胸のパーツが流れてきたらそれを放置なんか出来ると言い切れるかね。猫耳、犬耳、兎耳のどれかでこの先一生一人に絞る義理がどこにある。季節に合わせた装束だってわんさと来る。君のお気に入りはとりあえず顔と髪型だけ覚えておけばよかろう。そのうち思いもがけない趣味に気付くかもしれないのだよ。



アッ、いかんいかん漸く都合がわかった。僕はとんでもないぶまをしたらしいな。こんな所に来るもんだから腹積もりが同じ手合いだと眼鏡を掛けたもんで却って二の足を踏んじまった。ウーンどうにも節回しに体の部品が多くて食傷だ。そういうものばかり見ているからかな。ほら台から降りなさい、僕にもここの仕組みは見当がつかないんだ。死んだ上に何かの間違いで電子分解までされたらいよいよ救われんぞ君は。説明が悪かったよ全く・・・

改めて誤解を解こう。君が転生したのは美少女ゲームの世界じゃない。だ。



何度か試した通り、ここは“単なるゲームの中”とは位相がズレている。作品に実装された通りなら、いくらもしないうちにデザインが枯渇する筈なのだからね。それが起こらないということは、“キャラセレ”の概念を永久永続に擦り倒せる別個の空間であることは間違いないよ。サ終しようが、ワールドが消えようが、「あなただけの萌えキャラが無限大!」の言葉だけを依り代に在り続ける無尽塚だ。それでも、どうせ人生がもう一度あるのならRPGやバトルが良い、立ち絵の墓守では生きている甲斐が無いと言うんだね。



そこのカーテンっぽく見える斜めのラインを目掛けて思いっきり体当たりし給え。前にこの世界に落ちてきて、「プログラミングの知識が無くても俺は胸を揺らす仕事に就けるんだ」って叫んですり抜けバグを成功させた奴が居たから。気分的に嫌?あんまり可愛い我儘ばっか言うと好きになっちまうぞこのやろう。さっさと行け。

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