第24話 〜ジャングと国王〜 ①



ーーー王宮



 ジャングは王宮の『玉の間』で国王陛下『アレク・レイ・ガルボディア』の到着を待っていた。


(こんなタイミングの招集、『革命軍』の件に違いない!! クソッ! あのゴミクズのせいで……!!)


 ジャングは『王命』が一切、進捗していない事に焦燥感を抱きながらも、もう今更どうする事も出来ない状況に歯軋りをした。


(大臣共は出払っている。クソッ! あのゴミめ!! 今までの信用を全てゼロにしおって……)


 言い訳を考えようにも、カインに対する苛立ちばかりで、とてもじゃないが状況を整理する事ができない。


 ジャングの頭には、スゥー……っと消えたカインの最後の顔が頭から消えない。まるで憑き物が取れたかのような清々しい表情。


(チィッ!! 『自分』の顔で『笑いやがって』!!)



 ジャングはカインの【百面相】を生かすため、諜報機械(スパイマシーン)として機能するように、極限までカインの『自我』を殺して来た。


 様々な訓練を強制して来た中で、泣き叫ぶ事も笑顔を作る事すらも許さなかった。拷問や虐待は当たり前。『幸福』を知る事がないように育てた。


――自分自身の『幸福』を知る必要はない!! お前は『誰か』の幸せを演じるだけでいいんだ!! お前は『存在してはいけない』!! この世界でお前の存在を喜んでくれる者など1人もいない!!


 ジャングは幼いカインに散々言い聞かせて来た言葉を思い返した。


(育ててやった恩を仇で返しよって!! 私の労力を無駄にしよって!!)


 ジャングの苛立ちは日を追うごとに高まっていく。


 消える瞬間の、『カイン・アベル』本人の笑顔に、確実な「決別」を示されたからだ。


 ジャングは初めて見たのだ。自分の教え以外の事をするカインを……。カイン・アベルの笑顔を。



(クソが……)



 深い憤怒を表には出さず、近づいてくる『気配』を察知し、深く深く息を吐き出した。




※※※



「ジャング。なぜ招集したか、わかるか?」


 国王『アレク・レイ・ガルボディア』は少し緊張した面持ちのジャングに声をかけた。


(……? なぜこれほどまでに張り詰めた空気を纏っている……?)


 今回の招集は『革命軍調略』という、夢のような任務を成し遂げた事に対する褒賞を与える物であった。


 国王は明らかに萎縮しているジャングが不思議で仕方なかったのだ。


「……どの件でしょうか? 陛下……」


「なぜ、そのように畏(かしこ)まっておる?」


「い、いえ。そのような事はありません」


「まず、顔をあげよ。話しはそれからだ……」


 いつまで経っても顔を上げないジャングに国王は更に首を傾げる。


(……『何か』あったのか? ワシの【天眼】を発動させないようにしているんだな……? 『革命軍調略』を果たしたというのに、なぜそのような事を?)


 国王はジャングの対応を不思議がりながらも、そんな小事はどうでもよかった。


 『革命軍』の戦力は想定の5倍。それが王国内で決起したとすると、いくら大国だといっても被害は甚大な物になるはずだった。


 多くの国民が路頭に迷い、多くの『未来』が奪われる事になるところだったのだ。


 それを未然に防ぎ、その戦力を王国に付与するなどという偉業を達成したのだ。他国への牽制はもちろん、王国内の治安維持にも一役買っている。


 気分が高揚するのも仕方がない。今ほど『諜報(スパイ)ギルド』を組織してよかったと思った事はなかったのだ。


 未だに顔を上げないジャングを鼻で笑いながらも、国王は話しを進める。



「ジャング。今回の『革命軍調略』……。大義であった!! 話を聞いた時は『そんな非現実的な事が可能なのか?』と首を傾げたが、昨日『革命軍の指導者』と直接、話をした」


 ジャングがピクッと反応した事など、気にもとめず国王は言葉を連ねる。


「『革命軍』の要求は『貧困街の再生』、『奴隷制度の撤廃』を要求している。貧困街に関しては、ワシも動くつもりでいたし、奴隷制度もよくよく考えれば国民のためになっているわけではない……」


 国王は「ふっ」と小さく笑う。


「あれは貴族の悪癖だ……。いっその事『貴族制』を廃止するのも面白い! 『王は民のためにあれ!』。我が国に受け継がれる言葉の意味を改めて考えさせられた!! ジャングよ!! 『革命軍調略』を果たした諜報員『カイン・アベル』を連れて来い!!」


 ジャングはガバァッと顔をあげると、大きく目を見開く。


「大々的に爵位や褒賞を授与する事は難しいが、ワシが直接、内々に与える事は可能だ!! むしろ、王宮に引き上げたいとも思っている!! ワシの右腕として今後とも我が国のために力を借り受けたいのだ!!」


「へ、陛下ッ!! そ、それは、私は不要だと仰りたいのですか……!??!」


「……? 誰もそんな事は言っていないだろ? 『ギルドの方』は変わらず、お前に任せる。ただ、『調略』を完遂した『あの貧困街の子』をワシに預けろ。やはり、ワシの【天眼】は間違っていなかった!! お前もよく育てたッ!!」


 国王は興奮気味に話し続ける。


 国王の頭の中には、今から14年前、貧困街の視察に訪れた時に見つけた、幼い少年の姿があったのだ。


 貧困街の中でも、一切、瞳を曇らせる事なく、国王である自分に意見した少年。


――王様!! 僕と『契約』してよ!!


 まだ4歳だったボロボロの少年『カイン・アベル』の姿が頭には浮かんでいたのだ。



 国王は「ガッハッハ!!」と大きく笑い声をあげると、ジャングに視線を移す。


「ジャングよ。『あの子』はどこだ? これほどの偉業を成したんだ!! 今は、もちろん、休養中なのだろ?」


「……」


「それに、アヤツには今回してやられたんだ!! ハハハッ!! まさか『大臣』の姿で、ワシに直接、書状を届けるとはやってくれる!! 王宮に堂々と忍び込み、一切誰にも気付かれないとは、【百面相】は健在だなッ!!」


「……」


「その前の他国からの急襲を未然に把握できたのには多くの民が救われた!! その前は奴隷商の壊滅だったか? 未来ある子供達は国の宝だからなッ!! ガッハッハ!!」


 国王はしばらく、これまでのカインの任務に対しても、上機嫌で賞賛を連ねたが、未だ目を見開き口を開かないジャングの様子に首を傾げ、「ん?」と眉を顰めた。



ーーーーー

【あとがき】


まだ続きます!

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