第22話 元諜報員は無双する ②




「「「「「『団長』!!!!」」」」」


 男の絶叫に、周囲に居たクズ共が声を上げる。俺は冷静にこの状況を見極めながら、『団長』と呼ばれた男を【鑑定】する。



※※※


キール・サンドロ [32]


『黒炎の方舟(アーク)』の頭目。


種族 『人間』

魔力 『S-』

魔法 『魔力感知(マナ・サーチ)』

   『捕縛(アレスト)』

   『身体強化(ボディ・ブースト)』


ギフト【黒炎】

ギフトスキル 『地獄炎(ヘル・フレア)』

       『黒炎乱舞(デス・パニック)』


スキル 『気配遮断』


※※※


 

(『黒炎の方舟(アーク)』か……)



 暗殺、強盗、強姦、殺人、誘拐、なんでもありの裏組織だ。莫大な金を支払えば、どんな依頼でも達成させる『何でも屋』で、王国から指名手配されている。


(確か、憲兵団が血眼になって探している組織だったはずだが……)


 俺が、直接『黒炎の方舟(アーク)』に関する任務を命じられた事はないが、『裏』ではよく聞く組織の1つだ。



(……噂通りのクズばかりだな)


 

 自分達の欲の限りを尽くしながらも、絶対に依頼を達成させる組織。その事実だけで依頼が後を立たないが、コイツらに関わって、後悔していないという話は一切聞かない。



 なぜ、ダンジョンにいるのか?

 なぜ、あのエルフを狙っているのか?



 疑問は多々あるが、そんな物を確認する気はない。



ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……



 だって、これは任務じゃないし、俺は物凄く気が立っていているから。


「お、おい。こ、これ……」

「ヤバいぞ? 団長が暴れたら、『冒険者』共が気づいちまう……」

「……バカッ! その前に巻き込まれて俺達……」


 ヒソヒソと話をしているが、団長の片腕がなくなっているのに、誰1人として『団長』に駆け寄る者も俺に声を荒げる者もいない。


 『クズ組織』の人間はこんなヤツらばかりだ。本当に『自分』の事しか考えない。自分さえ良ければそれでいいと思っているんだ。



(憲兵団に突き出してやる……)



 こんなクズ共を見ても『我慢』しなくていい。泳がせて、もっと『大きな所』を探る必要もない。懸命に感情を殺す必要はもうない。


 俺はもう『諜報員(スパイ)』じゃない。


 俺は経験したことの無い感情に包まれながら、ゆっくりと口を開いた。


「殺しはしない。これまでの悪行を後悔しながら、一生を監獄で過ごせよ……」


 すると、やっと大人しくなった『キール』が声を荒げる。


「何を言ってやがる!!?? お前、『魔力』がねぇだろ!! わかってんだぞ!? 貴様はクソみてぇなザコだってなッ!!」


「……」


「ギフトはなんだ? お前、ただで死ねると思うなよ!? ぶっ殺してやるからなッ!!」


「……ギフトを教えるはずがないだろ?」


 何を言っているんだ? とでも言いたがな俺の態度にキールは血管を浮き上がらせる。


「クソがぁあッ!!!! どうせ、『何か』を移動させるようなギフトだろ?! それがわかってれば、いくらでもやりようはあるんだよッ!!!!」


 キールはヨダレを撒き散らしながら、ベラベラと叫び続けている。俺はその間に、周囲のヤツらの観察を終え、誰一人として逃がさないプランを立てる。



「テメェが『殺して下さい』って泣き叫ぶような苦痛と絶望を教えてやる!! 後悔しても遅ぇからなッ!!」


「……俺が泣き叫ぶような事は一生ない」


「……クククッ。……こんなにイラつく野郎は初めてだ。【黒炎】に焼かれながら泣き叫べ!! 《地獄炎(ヘル・フレア)》!!」



ブワッ! ゴォオオオオオオ!!!



 キールが『黒炎』を創造すると、俺目掛けて飛ばしてくる。


(……『創造』できる事が至高だと思うなよ? それを使いこなす事こそが至高なんだ)


「《火炎操作》!」



ブォッ!! グッォオボォッワッ!!!!


 俺は自分に迫る【黒炎】を操作し、『黒炎の剣』に姿を変えると、


ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ………


 と一目散に逃げようとしたクズ共の太もも目掛けて、『黒炎の剣』を突き立てる。


「「「「ぐぁああああ!!!!」」」」


「あっ、アチィッ!! だ、団長!! は、早く消してくれぇええええ!」

「な、なんだよッ! やめてくれぇええ!」

「団長!! 死んじまう!! このままじゃ死んじまうよぉおおおお!!」


 

 キールは団員である仲間の声になど一切耳を貸さず、ただただ大きく目を見開き、俺を凝視しながらぶつぶつと『何か』を呟いている。


(……『詠唱』か。『黒炎』が通じないと見ると、物理で来るしかないよな?)


 俺は次のキールの行動を即座に判断し、ギフトを発動させる。


(《身体強化》……)


 キールはパッと『黒炎』を消すと、


「《身体強化(ボディ・ブースト)》!!」


 と叫びながら一気に俺に襲いかかってくる。


 魔法の『身体強化』とギフトの【身体強化】。


 魔力による物と『神力』による物。


 魔力量によって力の変動がある『身体強化』と普遍的な力を発揮する【身体強化】。



ガッ! ガッ!! ガッ!!! ガッ!!



 俺はキールの攻撃を完璧に受けながら、ひどく驚いている。


 【百面相】は『他者の容姿』になると、その者のギフトしか使えない。その場の状況に合わせ、上手く躱し続けながら戦闘した所で無傷では済まない。


 致命傷にならない攻撃が来た場合、それをあえてもらう事で相手の隙を生み出し、確実に無力化させる事の方が多かった。


 『自分の顔』で『戦闘』するのが、これほどまでに『楽』だとは思わなかった。戦闘がこれほど圧倒的な物になるとは思わなかった。


 これほどまでに、『俺が強い』とは知らなかった。


(片腕がない事も多少は関係があるか? まぁでも……、一切怪我をする気がしない)


 正直、キールはなかなかの強さだ。即座に接近戦に持ち込む判断力も悪くないし、魔力量の多さも常人よりは優れている。


 接近戦開始時で言えば、俺の【身体強化】よりもキールの『身体強化』の方がわずかに優れてはいた。


(だけど……、)


 キールの拳をパシッと受け止めると、【腕力強化】を発動させ、


ゴキッ!!!!


 とキールの手を握り潰した。


(……徐々に衰えて行く『魔法』では『ギフト』には勝てないッ!!)


 咄嗟に実験的な事を思いつき、あえて【身体強化】で対応したが、これまで培った『観察眼』と、いくつもの死地を潜り抜けてきた、そもそもの『身体の作り』の前ではキールの乱雑な格闘術など、何の問題にもならない。



「ぐぁああああ!! い、いでぇえええええええええ!」


 泣き叫ぶキールに苛立ちが募る。


(……今まで散々『弱者』をいたぶって来たんだろ? 逆の立場になったからって……)


 そう思いながらも、あまり気分の良い物ではない。俺は素早くキールの後ろに回り込み、首をトンッと叩き意識を奪った。



ドサッ……



 周りのクズ共は足を『黒炎』に焼かれ、立ち上がる事が出来ずにいる。「うぅ」「あぁ」などと、うめいている者が3人。残りの4人は、あまりの激痛に意識を失っているようだ。


(……ここからは憲兵団の仕事だな)


 12人の「黒炎の方舟(アーク)」をひとまとめにすると、出血死する事のないように簡易的な止血を行いながら、念のため【記憶消去】のギフトで俺に関する記憶だけを《消去(デリート)》した。


 痕跡は消したし、これでひとまず俺の情報が諜報(スパイ)ギルドに行くことはないだろう。


(あとは『試験官』に知らせるだけだ!)


 エルフに視線を移すと、未だポロポロと涙を流しながらも、仄かに頬を赤く染めている。


(……かなり怖い思いをしただろうし、このエルフも『試験官』に保護して貰えばいいか)


 などと思いながらも、途端に恥ずかしさが込み上がってきて、バクバクと心臓が音を立て始めた。



ーーーー

【あとがき】


次、エルフsideです!

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