笹間くんに腹パン。

五倍子染

第1殴・プロローグ

僕には彼女がいる。

とてつもなく可愛い彼女がいる。

名前は科宮朋羽。

学校イチのマドンナと謳われるほど、満場一致の美少女。

頭脳明晰でテストは殆どが一桁。

運動も出来る。剣道で県三位に輝いていた。

友達も沢山いるし、誰にでも優しい。

完璧美少女そのまんま。


彼女とは中学が同じで、初めて見たときに一目惚れ。

この人、好き……って。

思いきって話しかけて、友達になれたときは本当に嬉しかった。

でも、友達だけじゃ嫌だ。

彼女と付き合いたい。結婚したい。そう思ったけど、彼女は僕にとれば高嶺の華。嫌われたくないし、告白する勇気がなかった。

結局、ちょっと仲のいい友達って関係のまま中学を卒業。

彼女が受けた超賢い高校に無理してギリギリ合格、彼女と同じ高校に入学した。

一緒に入学式に行ったのは一生の思い出。

何故って、校門前の桜の木ノ下、そこで僕は彼女に。

『しっ……科宮さんっ!ぼっ僕と!付き合ってくださいぃっ!』

告白したから。

そして、

『ーーいいですよ、よろしくおねがいします…!』

手をとって貰えたから。

三年越しに、桜が綺麗に見えたから。


それから一年がたつ。

二人で色んなところに行ったし、色んなことをした。

倦怠期なんてなかった。僕らに気まずいことはなかった。

ずっとずっと、笑顔で楽しかった。


そうして、今は春。

二人で歩く二度目の春、学校前の桜のアーチの下。

「ねぇ科宮さん。去年の今ごろ、覚えてる?」

「覚えてるよ。笹間くんと一緒に入学式行ったよね」

優しくてよく透き通る声色で、隣を歩く科宮さんが答える。

「よかった……じゃ、じゃあ……あの大きな桜の木、覚えてる!?」

少し先に見える、アーチの終点に構えた大きな大きな桜の木を指差しながら僕は言う。

対して科宮さんが、顔を少し赤らめる。

「もちろん!……だってたったの一年前だよ?……それに、あんなの……忘れるわけないじゃん……」

みるみる耳まで真っ赤に染まった科宮さん。デレデレなのも、彼女の可愛さの一つ。

吊られて僕も少し顔に熱が加わった。

二人何だか変な空気になって、キョドキョド進む。

アーチを潜り終えて、たどり着いた大きな桜の木の下、思わず二人立ち止まった。

顔をキョトンと見合わせて、笑いにかわる。

「まったく変わってないや……なんだかここだけ時間が止まってるみたい」

感慨深い景観に、ちょっと詩的に呟いた。

「そうだね……まるで私たちがここに立ってたあの時から、きっかり時が止まったみたい」

「科宮さんも、変わらず可愛いまんまだしね」

また科宮さんが真っ赤になる。

デレデレし過ぎて最早焦っている。

「そ、そんなことないっ!わっ私なんて全然……!」

謙虚なところも可愛さのまた一つ。

あたふた科宮さん。その肩を、僕はがっしと掴んで、

「へっ!?えっなに!?」

深く息を吸って、

「科宮さん。来年もこの桜、一緒に見ようね!」

大声で思いを伝えた。

それは殆ど二度目の告白と同じ。

割と大声出したから何かいろんな人に見られてる気がするけど、気にしないぞ!

いろんな方向を見ながら、また一段階赤面する科宮さん。デレの限界突破しそう。

だったら、追い討ち!

「科宮さん!大好き!!!」

今にも煙をあげて沸騰しそうに「んんんん……!」と唸る科宮さん。真っ赤なその顔は、もう恥ずかしさを通り越したのか笑っている。

僕はそのまま腕を後ろに回して、ハグを仕掛け……

「て……照れるじゃないですかぁぁっ……!!!」

「ぐびゅおふぅおぉっ!!!!」

科宮さんに強烈な腹パンを頂いた。

三メートル宙を舞ってノック。

地面にズササと不時着して、

「さ……さすが剣道部……関係ないけど……」

ちーん。

パタリと意識を失った。


落ち着きを取り戻し、ふと我にかえった科宮さんは、白目を向いて気絶する笹間を見て。

「ごめんなさい笹間くんっ!だっ、大丈夫っ!?」

またアワアワあたふたと慌て出す。


そう。僕の彼女は。

照れさせ過ぎると腹パンしてくる。


今年も腹筋が壊れそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る