1 - 第三章 「恋は決闘。もし右を見たり左を見たりしていたら敗北です。」…だそうです
第16話
休み明けの月曜日。
僕はゆっくりとした足取りで学校に向かった。
今朝は隣に哲太がいない。
道すがら、僕は一人、嫌悪と好奇の視線を浴びせられる。
ひそひそと僕を噂する声が聞こえてくるけど、誰も僕に話しかけようとしない。
この状況はきっとやつの望んだ結果なのだろう。
僕が周囲からの信頼を全てなくし、そして孤独になることを……。
「フッ……」
思わず吹き出してしまった。
皮肉にも、僕がしてきたことがこういう形で返ってくるとはね……。
だがもう僕は決して揺らがない。
次は僕のターンだ。
今回の一件を引き起こした黒幕を引きずり出し、真実を白日の下にさらしてやる!
* * *
そして迎えた放課後。
僕はある人物の元を訪れた。
「邪魔するよ」
ここは第二PC室。
果たして彼女はいつものようにそこにいた。
「友田……」
春原杏里は僕の顔を見るなりバツの悪い顔をした。
「やあ春原。ちょっと話したいことがあって」
「な、なに……」
「まあ色々と……。そこ、座っていいかな?」
「うん……」
僕は春原の近くの椅子に座り、彼女に向き合う。
やはり春原は僕と目を合わせようとせず、無心にキーボードを叩いている。
プログラミングというやつだろうか? なにかの英語や記号の羅列が恐ろしい勢いで入力されている。
「先週も会ったのに、こうして会うのはなんだか久しぶりな気がするんだ」
「そう……」
春原は僕に構わずタイピングを続ける。無視しているわけではない。
ただ努めて関わりを持たないように心がけている感じだ。
「覚えてる? 去年のことだけど——」
「世間話をしにきたの?」
「あ、いや。本題はべつにあるんだけど、その前に春原との思い出を語っておこうと思ってね」
「どうして?」
「これから僕は春原に嫌われちゃうかもしれないから……。心の整理をしておきたかったというか……」
「そう……」
春原は手を止め、大きくため息をついた。
「わたしたちに思い出なんてあった?」
「考えてみれば大した思い出なんてなかったかもだけど、それでも僕は春原との時間を大切にしてきたつもりだよ?」
「友田、止めて……」
春原は肩を震わせた。
「ほんとは全部わかってるんでしょ?」
「全部はわからない。どうしてもハマらないピースがあって、だからこうして春原に助けを求めにきたんだ」
「……」
「教えてくれるかい?」
僕は一向に目を合わせてくれない春原に構わず続ける。
「——どうしてアオハルデストロイヤーズなんて存在しないものを僕に教えたの?」
* * *
PC室を訪れたあと、僕は春原を連れて『恋愛相談室』にやってきた。
先客がすでにいて、中は異様な空気に包まれていた。
僕と春原が教室に入ると一斉に視線を向けられる。
「な、なぁ友田……なんで俺たちはここに集められたんだ?」
戸惑うように最初に口を開いたのは哲太。その後ろには一条くんと高橋さん、そして春原もいる。
「えっと友田くん、俺、部活あるんだけど……」
「わ、わたしも図書委員の仕事が……」
口々に聞こえてくる言葉にはどこか動揺が伺える。
まあ、きっと状況が状況なだけに仕方ないよね。
「もうそろそろみんな集まるから待ってて。そろそろ残りの人たちも来るからさ」
「残りの人たち? 俺たちのほかにまだ誰かくるのか?」
「うん。哲太は悪いけどみんなの分の椅子を用意してくれないかな?」
「お、おう……」
どこか気まずそうな哲太。昨日の件を気にしているんだろう。
いちおう誤解は解けたはずだけどわだかまりまでは解けていないか……。
——と、そのとき扉が開け放たれた。
「来てやったぞ友田! あーしを呼びだすとはいい度胸……っててててて哲太くんっ?」
「よ、よお安藤さん……」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは安藤さんだったが、哲太の姿を見た瞬間、顔が赤くなったり青くなったりしていた。
「昨日は、その……」
「分かってるって。誤解だったんだろ? その件は作太郎から聞いた」
哲太はそう言って笑ったが、どこかぎこちない二人。
そこでまた扉が開いた。
「遅くなってごめん!」
申し訳なさそうに顔を出したのは河合先輩。そしてその後ろには——
「え? どうして……? これ、なんなの? なんでこんなに人が集まってるの?」
——戸惑うように最後に入ってきたのは榎本さんだった。
「さて、これで全員集まったみたいだね。さあそれじゃあ始めようか——」
僕は静かにそう言うと、みんなの視線が僕に集まった。
* * *
「さて、みんなをここに集めた件だけど、ちょっとみんなに確認したいことがあってね」
「確認したいこと? なにを?」
高橋さんが控えめに口を開いた。
「僕を憎んでるかどうか」
「はぁ?」
不服そうな安藤さんに僕は向き合う。
「安藤さんは僕のこと嫌い?」
「はぁー? なんでいきなりそうなるんだよっ!」
「ごめんごめん、確認したまでだから。じゃあ高橋さんは僕のこと実は嫌いだったりする?」
「えっ? わ、わたし? わたしはべつに……」
「友田くん、いったいなにがしたいんだ?」
一条くんが身を乗り出してきたので、僕はまた笑顔を作る。
「あーごめんごめん! そんなつもりはなくて確認だから。一条くんは僕のこと嫌い?」
「い、いや、嫌いもなにもないけど……」
今度は河合先輩のほうを向いた。
「じゃあ次は河合先輩」
「えっ? わ、わたし?」
「僕のこと嫌いですか?」
「そんな! わたしからすればいい後輩としか……」
「ありがとうございます。じゃあ次は榎本さ——」
「おい作太郎!」
そこで哲太が口を挟んだ。
「たぶんこの中で俺が一番付き合い長いからはっきり言わせてもらうけど、今日のお前おかしいぞ? マジでなにがしたいんだよ?」
哲太は心配そうに僕に話しかけてきた。僕の気が触れたとでも思ったのだろう。
でも心配はいらない。僕はいたって冷静だ。
「哲太は僕のこと嫌い?」
「……そうなりかけてる。そうやって人を試すようなことをするヤツは好きにはなれんな」
「そうか……」
「はっきりとなにがしたいのか言えよ。それと、お前の気が済んだらこんな茶番に付き合わされてる俺たちにちゃんと謝れよ? わかったな?」
哲太の声に苛立ちが混じっている。訳がわからないって感じだ。
「わかった。じゃあもう少し具体的にみんなを集めた理由を言おうかな。僕が本当に確認したいことというのは——」
困惑、沈黙、苛立ち——様々な感情が入り混じる混沌とした状況の下、僕は深呼吸を一つしてはっきりとこう口にした。
「——この中に、僕のことをハメたやつがいる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます