第7話 記憶の海
「このまま飛んで出られるんですか?」
上から出られるのなら、危険な思いをせずに上から入れば良かったのだ。
「なんや、何も知らんのか。
出る時は上から出られんで。
入る時は無理やけど。」
僕の服の中からツバメが質問に答えてくれる。
「ここはな、中心から外に向かってえぐい風が吹いとんねん。
せやから出るのは簡単。
風に乗ればええんや。」
どうやら入る時は危険な思いをするしかないらしい。
「一昔前には地中から中心目指そうとしたやつもおったで!
そいつ水をたっぷり蓄えてるこの森の木の根っこ傷つけたんや。
自分で掘った穴の中は水で溢れて逃げられんくなって、、、この先も聞く?」
「遠慮しておきます。」
幸せな結末が待っているとは思えなかったので、お断りしておいた。
「もうすぐえっぐい気流に乗るで!
振り落とされんようにしっかり捕まっとき!
この気流激しすぎてな〜、気絶するやつも居んねん!」
どうしてこのエセ関西弁ツバメは脅すようなことばかり言うのだろうか。
「もう、黙ってて、、、え!!??」
黙ってて下さい!と言おうとして、最後まで言えなかった。
ものすごい風の海に突然飲まれたのだ。
目を開けることもできない、息が出来てるのかもわからない。
激しい、激しい風の中で僕は気を失った。
記憶の海で溺れ、辿り着いたのは小学2年生の頃だった。
2年間歩き慣れた小学校から家までの道を歩いていると、一匹の猫がいた。
僕はゆらゆらと揺れる尻尾に目を奪われ、黒猫に着いて行った。
急に走り出した黒猫を見失ったその場所はどこだったっけ?
7年間生きてきた街の、僕の知らない道だった。
どっちから来たっけ?家はどっちだろう?
何度も何度も考えたが、7歳の僕にはどうすることも出来ず立ち尽くしていた。
ランドセルの肩紐をギュッと握る。
「あれ?奥田くん?」
聞き馴染みのある声が背後から聞こえた。
振り向くとクラスメイトの姿があった。
「、、、春日詩織さん?」
赤いランドセルを背負って立っていたのは、僕と同じクラス、2年2組の春日詩織。
長い髪はいつも綺麗に結われていて、明るい色や花柄の服をよく着ている子。
話したことはないけれど、クラスの中心で笑う彼女をいつもこっそり見ていた。
「やっぱり奥田くんだ!
こんなところでどうしたの?」
実は迷子になってしまった、なんて恥ずかしくて言えなかった。
でも迷っていることを伝えないと助けてもらえない。
春日詩織が去ってしまったら?
僕はもう誰にも見つけてもらえないんじゃないだろうか。
「奥田くん!大丈夫?どうしたの?」
色々な感情でごちゃごちゃになった僕は泣き出してしまった。
こぼれ落ちた涙をアスファルトが吸っていく。
僕の足元はアスファルトと涙で星空のようだった。
「これ!使って!」
そう言って詩織が差し出してくれたハンカチは何色だったっけ?
手を引かれ、見知った道に戻った僕はお礼を言えたのだろうか。
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