第154話 SS:戸崎結衣には見えている


 それを考えた時、いともたやすく涙がこぼれた。

 今迄知らなかった感情が次から次へと浮かび上がっては、感じたことのない熱を伴って頬を伝う。


 表現するのは難しい。

 だけど意味は確実に理解している。



 天童龍誠は、戸崎結衣を見ていない。



 ただそれだけの事実が、彼女から気力を根こそぎ奪い取った。

 あの日に見た彼の姿は、それほどまでに分かりやすかった。


 戸崎結衣に向ける目と、他の二人に向ける目は明らかに異なっていた。

 きっと本人は気が付いていないけれど、それは態度や言動にも現れていた。


 付け入る隙なんて無い。

 入り込む余地なんて無い。


 とてもシンプルな事実が、戸崎結衣には誰よりもはっきりと見えている。


 まずは頭が真っ白になった。

 だんだん体に力が入らなくなった。


 最後に、考えた。

 自分がどうするべきか。


 どうするのが、最も――

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