魔王を討伐しに行きますが、そんなことより私の恋心はどうにかなりますか?

雪月ゆき

第1話「パーティ結成!」

からんからんと酒場の扉を開ける。今日は王様に言われ、酒場に集合し魔王討伐のためにメンバーと合流してほしいとのことだった。

そんなわけで酒場にまで足を運んだわけです。辺りをキョロキョロと見渡してもそれらしき人物は居ない。

エールを一杯注文してから受け取り、それを持ち席に座る。勇者と賢者と商人が私のパーティ仲間になるらしい。見たらわかるだろうと思っていたのだけど……。


「見つからない……なぁ。」


其れらしき人は一向に現れない。


「あの……もしかしてシェナさんですか?」


「……? はい、そうですけど。」


「あぁ、よかった。僕エリックです。」


エリック、と名前を聞いた瞬間立ち上がり会釈をする。よろしくお願いします、と声をかけてエリックさんの顔を見る。


「あぁ! 賢者の! よかった時間通りに来てくださって!」


「そりゃぁ、来ますよ! 他の皆さんは……まだのようですね」


「そうね……まだ見てないですね。」


2人して再度席に座りながら、エリックさんも注文したエールを仰ぎながら私たちは少しの間談笑する。

此処の酒場は二階が宿泊施設となっているのだが、二階から物音がする。

それは、次第に大きくなり、最終的には。


どんがらがっしゃーん!


「!?」


「な、なんですか!?」


二階から人が降ってきた。


「あぁ……くそ……見誤った……。」


腰をさすりながら立ち上がるその人物はまるで勇者のような風貌をしていた。


「あのー……もしかして、フェンさんですか??」


そうエリックさんが声をかける。すると相手は目を真ん丸くさせ、「そうだぜ?」と言った。

やった! あとは商人さんだけね! そう思っていると酒場の扉が開かれる。

それからはやけにスローモーションに見えた。

白髪の少し長い髪を揺らし、サファイアの瞳を持つその男性。

その男性から目が離せない。とくんとくんと心臓が脈打つ。


「お待たせした! 魔王討伐部隊、商人のクラークだ! 待ち人は居るか!?」


鈴を鳴らすかのようなその声。そのすべてに、私は惚れてしまった。


「あぁ! こちらです! 私はエリック、こちらがフェンさん。そしてこちらがシェナさんです!」


宜しくお願いしますね! なんて言ったエリックさんの声なんて聞こえなかった。

私はクラークさんに恋してしまったんだ。そう痛感した。わかってしまった。

そして恋心を打ち明けられないことも。わかってしまったのだ。


「……。」


思わず黙り込んでしまう。何も会話が出来ない。


「シェナさん? シェナさんー? 大丈夫ですか?」


その声でハッと我に返る。「大丈夫よ!」と返しながら内心は全然大丈夫ではない。

これで全員そろったのだ……。


「じゃあ全員そろったことだし乾杯しませんか? 僕がおごりますよ。」


そう言いながらエリックさんは銀貨の入った袋を取り出す。皆席に座り、注文を始める。


「魔王討伐隊頑張りますよ~! えいえいおー!」


その声に合わせて私たちは音頭を取った。

波乱万丈の冒険は此処から始まったのだ……。

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