梨花と小夜の交換日記

こうすけ

第1話 出会い

 あたしの名前は釘崎梨花くぎさきりか、隣で本を読んでいるのは佐伯小夜さえきさよ

 あたしは屋上で喫煙している、そんなあたしに寄り添って本を読んでいるのが小夜。


 どうしてこうなったかは3ヶ月前に遡る。

 あたしが転校してきたときの話だ。


 あたしはと有ることが切っ掛けで県外の高校からこの長野県の高校にやって来たのだ。

 職員室に入ると小柄な女性の女教師が声をかけてくる。


「あなたが釘崎さんですか?私は篠原陽葵しのはらひまり、よろしくお願いしますね」

「あ、うん」

「どうしました?」


 見上げる陽葵先生にあたしは見下ろすように答える。


「いや、その……アタシの格好見て注意とかしないのかなって」

「金髪でポニーテールですね」

「だろ?」

「まあ、黒くしてくれるならそれに越したことはないですけど」

「むぅ…………」

「早くしないと始業のチャイムが鳴っちゃいますよ、行きましょう」


 マイペースな陽葵先生に付いていくように、1-3の教室に向かった。

 扉を開けるとざわざわしている雰囲気がピタリと止んだ。

 みんなすぐに席に着く。

 入口で立ち尽くしてるあたしにお構いなく陽葵先生は教壇に向かう。


「おはようございます」

 陽葵先生の声に挨拶が返ってくる。

 入口で立ち尽くしていると陽葵先生が声をかけてくる。


「釘崎さん、どうぞ入ってきてください」

「あ、はい」


 あたしは扉を閉めると中に入る。

 一呼吸すると教壇に向かい、丁寧に『釘宮梨花』と書く。


「あたし……わたしは釘宮梨花といいます」

「釘宮さんは、そうですね、東京の学校から転校してきました、みんな仲良くしてあげてね」


 はーいという声が教室に響く


「それじゃあ、大村さんの隣に空き席が有りますから座ってください」

「はい」


 席に着くと連絡事項を読み上げる先生のはなしを聞こうとしたとき小声で話しかけられる

 隣を見ると二つ結びの女の子が笑顔でこちらを見ていた。


「あ、初めまして、私は大村恵奈おおむらえなだよ」

「ああ、どうも」

「よろしくね、梨花ちゃん」

「うん、よろしく、恵奈」

「また後でね」


 昼休みになるとあたしは質問攻めから逃げるように恵奈と屋上に上がった。

 購買で買った焼きそばパン片手に屋上のドアを開けてベンチが空いてないか見回すと、瓶底眼鏡でザ・地味子の女の子が、隅っこでご飯を食べていた。


「地味ね」

「うん」


 これが、二人の第一印象だった。

 あたし達の後ろからやって来たギャルっぽい数人が三年生のその地味子のところにやって来ると、食べている地味子の後ろから蹴りを入れた。


「どーん!」

「きゃあっ!」


 地味子は派手に転び、お弁当の中身が散乱した。



「キャハハハ、陰キャが屋上で飯くってんじゃねーし。便所で食ってな」

「そうよ、地味なあんたには便所飯がお似合いだよ」


 転んで手をついた地味子の眼鏡が外れたとき、あたしはその地味子を可愛いと思ってしまったのだ。

 その瞬間あたしはすぐに行動を起こしていた。


「おい、先輩。寄って集って弱い者いじめして、あんた等のほうが陰キャじゃね?」

「ちょっと!梨花ちゃん、相手は3年だよ!」

「ばっか、三年だろうが、四年だろうがあんなの見過ごせるの!?」

「四年はいないからね!?」


 陰キャ呼ばわりされた上に、放置されて漫才を見せられているギャル達はご機嫌斜めだった。


「何?一年のくせに生意気言って、ちょっとシメたほうがよくね」

「やっちゃう!?」


 そんなことを言いながら、スマホを取り出してメッセージを送る。


 すぐに、ヤンキーの三年生が二人上がって来た。

 地味子はメガネを掛け直し、散らばったお弁当を黙々と片付けている。


「なんだ、こいつらが生意気な一年か?」

「なんだ女か」


 ヤンキーの先輩達がニヤニヤと笑いながら近づいてくるとあたしは身構える。


「きゃはは、こいつらにシメられな」

「いい気味」


 ギャル達が笑いながら見ていると、自然恵奈と顔を見合わせた


「どうやら勝ったと思っているようだね」

「そうね」


 にやりと恵奈が笑うと恵奈は、殴りかかってくるヤンキーの腕を掴んで、ダンスを踊るようにくるりと身体を回転させてそのまま背負い投げを放っていた。


「ぐぇっ!!」


 背中を強打したヤンキーは顔を青ざめさせて必死に息をしている。

 その間にあたしもヤンキーの腕を払ってボディブローを放つ。


「ぐぇ…………」


 もう一人のヤンキーもそのまま崩れ落ちた。


「お、覚えてなさいよ!」

「お、重いっ…………」


 ギャル達は倒れたヤンキーを連れて逃げ出していった。

 ざまあみろだ。

 恵奈とハイタッチをするとお弁当をかき集めた地味子先輩に向かって行く。


「はい、交換ね」

「…………え?」


 あたしは地味子先輩のお弁当をひったくると美味しそうに掻き込む。地味子先輩はきょとんとしている。

 そんな様子を恵奈は笑いながらサンドウィッチを食べている。


「美味しい、美味しいわねこれ」


 美味しいわけがない、砂と石でジャリジャリしている弁当を何とか飲み下すと次の一口を口に運ぶ。


「ああ、あたしは釘崎梨花、先輩は?」


 焼きそばパンを両手に持って心配そうな顔をしている先輩に向かって聞くと、先輩は


「あのっ、私…………佐伯小夜と言います…………」


 か細い声で答える。

 その答えに満足したあたしは小夜先輩に


「焼きそばパン食べないの?交換したんだから食べなよ」


 そんな言葉を掛けた。


「あっ、でも…………」

「良いんじゃないですか? あ、私は大村恵奈です」

「それじゃあお言葉に甘えて…………」


 はむはむと食べてる姿を眺めながら可愛い先輩などと思っていた。

 こうして、あたしと小夜先輩は屋上で昼食を共にするようになった。

 あたしは食後の煙草を吸おうとすると怖ず怖ずと小夜先輩に咎められて、その様子を笑って恵奈が眺めている。

 そんな奇妙な関係が出来上がったある日のことだった。



 小夜先輩が昼休みに屋上に上がってこなかったのだった。

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