突然の鍵

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 突然、世界中に鍵が降ってきた。


 意味が分からないだろ。


 雨でも雪でも、雹でも、雷でもなく鍵だぜ。


 俺は目を疑ったし、他の人間だって目を疑ったはずだ。


 いや、世界中の人が目を疑ったはず。


 普通そんな物振ってこないしな。


 でも、ぼうっと見つめているわけにはいかない。


 鍵だから。


 放っておくわけにもいかないのだ。


 雨みたいに流れていくわけでもないし、消えないしな。


 排水溝とかつまったら、大変だ。


 だから、皆おっかなびっくり掃除をしながら、触ったりして、色々調べたさ。


 でも、それはただの鍵だったらしい。


 特に光ったり、熱かったり、仕掛けがあったりするわけじゃない。


 一体何がどうなったら、ただの鍵が空から降ってくるんだよ。


 その鍵は、数日間存在した後、跡形もなくきっぱりと消えてしまったらしい。


 俺も一応拾ってみたみたけど、三日後にはなくなっていたな。


 それと同時に、世界中で自分の鍵を紛失する事件が相次いだそうだ。


 何か関係あるんかね。


 世界には不思議な事があるって聞いた事があるけど、これ以上不思議な事なんて他にあるもんかね?







 その日、鍵の精霊は慌てふためいていた。


 鍵をつかさどるその存在は、世界中の鍵を秘密裡に管理しているものだ。


 部屋の鍵、引き出しの鍵、秘密の日記の鍵。


 世界に存在するあらゆる鍵は、この鍵の妖精が秘密裡に管理し「仕事をするように~」とお願いしている。


 だから、今世界中で存在している鍵は、何かを開けたり、閉じたりしてくれるのだ。


 しかし、ある日うっかりしてしまった。


 ざっと数千年ほど、仕事中に眠ってなんていなかったのだけど、ついうとうとしてしまったのだ。


 それで、寝ぼけて変な仕事を与えてしまった。


 頭が働いていない状態で何を言ったのか分からないが、その結果、無数の鍵が突然空から降る事になってしまった。


 慌てて「本来いる場所にもどるように~」と命じたけれど、人間達は騒ぎになっていた。


 はぁ、このままだと精霊の主に怒られてしまう。


 主のいる精霊神殿の扉をしめる鍵も、仕事してくれればいいのに。


 けれど、その鍵ときたら「僕は特別ですから」っていう事聞いてくれないんだもん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

突然の鍵 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ