第4話 結婚の報告

俺はけっこう大人だし

結婚式にはそれなりに列席してきた

大学からの友人や

会社の先輩

同僚


後輩は・・・まだないな


でも

この年齢にもなると

それなりに常識みたいなものだって身についてきて

こんな俺だって

こんな急な結婚式の誘いが普通ではない事はわかる


いや

もう少し若くたって

分かるよな・・・


普通

そういうのって・・・


【俺が描く普通】


20代半ばを過ぎたら

仕事にプライベート

色々と忙しい

だから

学生の頃の様には会えない

お互い忙しいから、気が付くと二年くらいは会っていない

連絡を取り合うのだって久しぶりだった

少し寂しくもなっていたが

そんなもんだろ


奴からメール


“久しぶり!

元気か?

今度、飲み行かない?”


突然だ

しかも

簡潔な文面

あいつらしいな


俺は思う


・・・何か俺に話でもあるのか?


もう大人だ

野暮なことはメールなんかでは聞かない


“オーケー

俺は早めに連絡くれたら週末ならいつでもいいよ”


簡単な返信の後

直ぐに返信


もう週半ばだというのに

今週、土曜という意外に早めの予定が組まれる


そんなに早く伝えたいことがあるんだな・・・


と、俺はなんとなく予想はつきながら

にやけ顔で

了解のスタンプを送った


土曜日

俺は待ち合わせの時間通り

あいつの指定した店に入ると

既に待っている


そして

既にあいつの持っているビールジョッキの中身は半分

もう飲んでる

久々なんだから少し待てよ!


「よっ!」


軽い挨拶

昨日も会ってたみたいに

極々、自然なやつだ

嬉しくなる


「早いな

いつ来たんだよ」


そう言って

奴のジョッキに目をやると

奴は照れくさいのか?

何も言わづ

頬を赤くして少し笑う


俺も同じものを注文し

冷えたおしぼりで手をふく


久々に会った奴は

ちゃんと社会人しているように見える

しっかり大人に見える

仕事終わりなのかな?

スーツ姿


焼き肉の匂い・・・つくぞ


そういう所に気が回らない所

変わらないよな・・・

だから

モテるんだよ


俺は休みだから

私服姿


俺、私服が未だに子供だから

ミスマッチな二人の雰囲気に

店の女性店員も不思議そうに見ているようにも見える


この状態で俺とこいつを比べんなよ!

俺だって仕事しているときは負けてねーし!!


そんな妄想に突っ込みながら心を靄つかせる俺は

自意識過剰かな?


店員さん忙しいんだから

いちいち見てねーよな


ちょっと含み笑いする


「何だよ?」


俺がそんなだから

不思議そうに俺の顔を見るこいつの笑顔は以前となんら変わらないな

俺も変わってないかな?

自覚はないけど

お互いに大人になってるから

せめて

笑顔だけ・・・笑顔だけは

変わりたくないな


男二人

懐かしい話を肴に

肉を頬張りながらビールを飲む


奴がトイレに二回立った

そして

戻った時


さっきまでの緩んだ顔から

少し緊張気味な表情に切り替わった

そして

俺の向かいに正座して

背筋を伸ばす


大きく深呼吸


俺も

なんとなく

緊張がうつったように

胡坐から

正座に座り直し

奴を見る


「律・・・俺さ

結婚する」


奴の顔は強張っている


俺もその緊張した表情に

少し引っ張られそうになったけど

いつものように


ケラケラケラケラッ


っと、少し大きめの声で笑い


「何だよ

この世の終わりみたいな顔

めっちゃ嬉しい事じゃん!!

おめでとう」


すぐに返す

すると

やつの顔にはまた笑顔が戻って

ホッとした表情になる


「そうだよな・・・嬉しい事なのに

どうしてこんなに緊張してんだろうな・・・お前に話すだけなにさ

お前だからかな・・・

緊張した~」


その顔は

今まで見てきた顔の中で一番

緩々で何とも言えない気の抜けた笑顔で

さっきまでの緊張感は

あっけなく消え去った


俺たちは笑った

同じ感情で

同じ顔で


そしてそれから

俺たちは

奴の結婚相手がどんな女性か

どういう風に知り合って

どんなところに魅かれて

どういういきさつでプロポーズしたのかを色々とのろけ交じりの話を聞き

数時間

あっという間に過ぎて


帰る


店を出るときに

奴に聞く


「お前さ

相手の家族より緊張したって言ってたけど

何で?」


俺がそう尋ねると


「そりゃそうだろ

お前・・・親友じゃん

親友には誰よりも認めてもらいたいだろ!普通

・・・だからだよ・・・」


“なんだよそれ”


酒のせいか?よく分からない言い分で

だけど、俺も嬉しくて


笑う


「そっか」


少し名残惜しい

だって

次に会うのは奴の結婚式だろう


「招待状送る」


「ああ、待ってる」


「一番に送るから

スピーチ考えとけよ」


「えっ?俺、スピーチ?」


「親友代表だろ

おまえは」


その言葉を聞いて

俺はにんまりと笑って


「後悔するなよ~」


と、冗談交じりの脅しをかけて

手を振る


そして

俺たちは久々の再会を終える


親友の結婚

何よりも嬉しい

今までのどの結婚式より楽しみで

俺は千鳥足で家までフラフラとフワフワした気持ちで歩く

この幸せが自分のものの様で

きっと顔は緩み続けていただろう


【俺が描く普通(完)】


っと

いう風になるのが

こう言う事の普通だと俺は思っていた

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