2人の生徒会長
ソラノ ヒナ
第1話
私はいつもの装備に身を包み、鏡の前に立つ。
真ん中分けの三つ編みおさげ。これはカツラだ。敵の興味を削ぐためのもの、らしい。
これは学園長からの指示である。私の本当の髪型は短めのボブだ。
ハイウエストのワンピースの制服。その色はくすんだブルー。まるで私の心そのものだ。しかしこの色こそが、敵の興奮を静める、らしい。
だからだろう。私が落ち込み続けるのは。
そして最後に、ゴーグル型の
それほどまでに瞳というものは、敵に好意を寄せられる、恐ろしい力を秘めている、らしい。
これは敵も同じ考えのようで、あちらはゴーグル型のサングラスだ。
ひと通りチェックを終えれば、ローズガーデン女学園の高等部生徒会長・
思春期の恋愛は、大人の人生にも大きな影響を与える。だから恋愛禁止。隣の学園の男は全て敵だ! か。
学園長が
それを考えても、私にはわからない。だから気持ちを切り替え、敵が待つ中央聖堂へ向かう。
私が在学するローズガーデン女学園と、敵が在学する英雄育成学園は隣同士に存在する。そのちょうど真ん中に建てられたのが中央聖堂だ。
昔この場所は、生徒達の交流の場であった、らしい。
今では戦場という名の、会議の場になってしまったが。
***
「今月の問題行動については以上だ」
馬鹿みたいに長いテーブルの向こう側に座る敵の、マイクを使用した報告が終わる。恐ろしく冷たい声が教会をモチーフにした中央聖堂に響き渡るのは、いまだに慣れない。
この男が敵のリーダー、英雄育成学園の高等部生徒会長だ。名前は知らない。
七三分けのゴーグル型のサングラス。背は低め。それぐらいしかわからない。
名前とは、呼び合うだけで特別な存在だと脳が勘違いしてしまう事があり、間違いに発展しやすい、らしい。だからお互い、自己紹介はしていない。
全ての助言は学園長からだが、この学園に在学しているのであれば、この考えに染まらなければならない。
けれど、私はもう、うんざりなんだ。
「確かに、受け取った証拠品はわたくし達の学園指定のハンカチーフ。これから微かに香るのは、香水ですわね。これがあなた方の勉学の妨げになった事はお詫びしますわ。しかし、先に『君への愛は真実だ』と、わざわざ小さな葉っぱに文字を彫ったものを、壁の上から大量に投下した者への処分はどうされますの?」
敵との対話は話し方を変えるようにと、学園長から言われている。万が一にも素性がバレたら狙われてしまうかもしれない、らしい。
ここでの会話は、両学園長も機械を通して聞いている。よっぽど顔を合わせるのが嫌なようだ。それに、外には警備員もいる。
だから今この場には、私達しかいない。
顕微鏡を使わないと読めない文字を書くなんて、素晴らしい情熱だ。それほどまでに、両学園の生徒が想い合っている。
あれだな。お互い全寮制だが、秘密の抜け穴を使っているに違いない。それから出た先の、向こうの学園の壁にも同じような抜け穴を見つけた時、諸先輩方の功績を褒め称えたものだ。
処分などと口にはしているが、心の中では大絶賛。よくやった、恋する少年少女達よ!
そんな私の熱をうばうのは、やはり恐ろしく冷たい声。けれどなぜかあの子を思い出す。私が好きになってしまった、誰にも言えない、可愛い女の子の事を。
きっと、与えられる緊張感が似ているからかもしれない。
「処分については、自分が監視につき、行動を制限させてもらう。不審な行動と判断した場合、退学だ」
そんな!
言葉やハンカチのやり取りだけで退学なんて!
青春とは、心で感じる全てを謳歌するもの。
私はそう思っている。
それに情報化社会の世の中で、恋愛の素晴らしさはいくらでも知れる。それを無理やり禁止する事自体、無意味だ。
だからこそ、このおかしな学園生活に終止符を打つため、私は生徒会長になったのだ。
「……わかりましたわ。お互い、全ての生徒がよき学園生活を送れるよう、努力を重ねましょう」
「あぁ。ではまた」
いつからだろうか。男は席を立つ時、不思議な動作をするようになった。
少し指を曲げた手に手を重ねようとして、止めている。
でもそれは一瞬で、男はさっさと歩き出した。
間違った青春に閉じ込められているなんて考えるのは、私だけなのだろうか?
もしかしたらあなたも、なんて、考えるだけ無駄か。
私の考えに1番理解を示してくれるのは彼だろうなんて、そんな都合のいい奇跡が起きるはずがない。
だから私は再度、奇跡をつかみ取る覚悟をした。
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