第14話 だからっ、ストーカーに金と権力渡すなって言ってんでしょうが!

「グリム王国、第1王子フロイド・ウェルヘルム・ヤゴードの名において、近衛師団に命じる! 旅商人達からの数々の窃盗、及び誘拐罪並びに、それに伴う脅迫と暴行罪にて、この場にいる盗賊団、全員の身柄を捕獲せよ!」

「え……⁉ フ、フロイド王子……⁉」


 うそっ⁉ どういうこと⁉ と驚きで、思わず声がした方へ顔を向ける。


 すると開きっぱなしにシャッターのところに、やはり背中から光を受け、逆光の中に立つ、フロイド王子の姿が目についた。……いや、フロイド王子だけじゃない。その横には、ルイス王子とジェイアール王子の姿もある。


 そしてそんな彼らの周囲には、トーチと同じ制服に身を包んだ、この街の近衛師団と思われる人達の姿が――。


 予想外の出来事にか、モブ達が混乱したように動きを止める。トーチも彼ら同様に動きを止め、「フロイド様⁉」と突如現れた主の姿に目を見開いて声をあげる。

 その次の瞬間、近衛師団の人達が雪崩れるように倉庫内に飛び込んで来た。


「まずいっ!」「逃げろっ、撤退だっ!」とモブ盗賊団達が叫びながら、逃走を図ろうとする。

 が、どうやら近衛師団の方が、人数的にも実力的にも上だったようだ。次々と、逃げ惑うモブ盗賊団達が近衛師団の手によって捕獲されていく。


 その光景をあぜんと眺めていれば、「シーちゃん!」「シンデレラちゃん!」と右と左、両方からどすんっ、と重たい衝撃が与えられた。

 突然の衝撃に耐えきれず、「げうっ」と醜い声をあげながら後ろに倒れる。


「うわぁぁぁああああん! 無事でよかったよ、シーちゃあああああああん!」

「もぉおおお! バカバカバカバカ! 女の子が男に飛び蹴りとか、何無茶なことしてるのよ! 怪我でもしちゃってたら、どうするつもりだったよぉおおおおおお!」

「る、ルイス王子、ジェ、イアール王子……」


 ぎゅううううううううっ! と左右から全力の力加減で湿られる首に、「ぐぎゅう」と、再び醜い声が私の口からこぼれ落ちる。


 いや、あの、心配して貰えてるのは、その、わかったので、とりあえず、首から手を、離して貰えると、助か……、あ、やばい、なんか、すごい、きらきらする川が見え……、あ、あそこで手を振ってるのは前世で幼い頃に飼ってた黒蛇のコロと、今世のお父さんだ、あはは、お父さん、コロに首絞められてる、おーい、お父さん、おーい……。


「力加減をしろ、アホ共が」


 呆れた声音が聞こえたかと思った次の瞬間、「きゃっ」「わっ」と驚くジェイアール王子とルイス王子の声が聞こえた。と、同時に、共に首元の締め付けが消えた。


(た、助かった……っ)


 まじで窒息死するかと思った……。まさかここにきて、前半の窒息死フラグの再発するとは……。


 げほげほっ、とようやく取り入れられた酸素に、涙目になってせき込みながら起き上がる。そうして先の声がした方を見れば、2 人の首根っこを掴んでいるフロイド王子の姿が目の中に飛び込んで来た。

 どうやらフロイド王子が、彼らを私の首から取り外してくれたらしい。


「ちょっと、フロイド、何するのよっ」

「フーちゃん、乱暴だよー」

「やかましい。貴様らこそ、こいつを窒息死させるつもりか」


「まったく」と2人の首からフロイド王子が手を離す。自由の身になった2人が「うっ……」と言葉を詰まらせながら、申し訳なさそうに私の方を見てくる。


「あ、あの、その、全然気にしないで大丈夫ですよ!」


 むしろイケメンに心配して貰えて役得ってか、ショタむんのほんわかほっぺと、オネェオカンのふんわかいい香りに挟まれて、別の意味で天国行きだったといいますか、げ、げへ、げへへへへ……。


「というか、なんで皆さんがここに……」


 いや、おかげで助かりはしたんだけどもさ。でもそこが気になると言うか、それどころか私が飛び蹴りした事まで知ってるとか……、一体全体どういうこと。


 困惑しながら王子達を見回す。すると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、にやりと、フロイド王子が口の端を持ち上げた。


「お前が、捜索中だった盗賊団一味にからな。急ぎ近衛師団を集めて、助けにきてやったんだ」

「……捕まったのが、聞こえた?」


 ……なんだろう。その変な言い回し。

 ものすっっっっっっっごいっ、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


「制服の襟裏を見てみろ」と、トントンとフロイド王子が、己が着ている制服の襟を叩きながら言った。襟裏? と首をひねりながら、自身の襟を返してみる。


 と、目に飛び込んできたのは、何やら銀色の小さなボタンのようなもの。

 私の記憶が正しければ、この制服の襟に、そんなボタンはついていなかった筈だ。


(――いや、違う)


 これ、ボタンじゃない。

 このザラついた、網目状のものが何重にも絡んでできたような、固い金属の感触……。これは……!


「マ、マイクじゃないですか、これ……!」


 しかもこの小ささ、これ、俗にいう盗聴用のマイクなのでは……⁉


「ただの盗聴用ではない」と、ふんっ、と鼻を鳴らしながらフロイド王子が腕を組んだ。「半径5km以内の範囲でなら、盗聴相手の正確な位置まで把握する事が可能な機能がついた、優れものの逸品だ」と、胸を張りながら言葉を続ける。


「そ、そんなもの、一体どこで……! い、いや、というよりも、一体いつの間に、私につけて……!」

「ルイスの得意科目はなんだ」

「は⁉ え、なんですか急に! ルイス王子の得意科目って、そんなの機械工科学に、」


「決まって……」、と言ったところで、まさか! という考えが思い浮かぶ。


 バッ! と勢いよくルイス王子を見れば「えへへ~」と、照れたように笑いながら頭をかくルイス王子と目が合う。


「そうだ。これの制作者は、我が国一番の機械工科学者、ルイス・ウェルヘルム・ヤゴードだ。ちなみに、これを取り付けたのはジェイアールだからな。お前の化粧をする際に、隙を見てつけさせた」


 な、なんですと⁉ バッ! と今度はジェイアール王子の方を見る。と、「だってぇ~、シンデレラちゃんとトーチがどうなるか、気になっちゃって……」と、これまた照れ臭そうに頬に手をあてて自白するオネェの姿が目につく。


 な、なんてこと。こいつら全員グルだった⁉


 驚きで言葉を失う私に、フロイド王子が、「言っただろう?」と、フッ、小さく息を漏らしながら笑った。


「愛しい女の全てを知っておきたいと思うのは、男として当然のことだろう、とな」


 してやったりと、そう言わんばかりに、フロイド王子の口の端が持ちあげられた。


(ド、ドヤって言うことじゃねぇーーーーーーーーーーーーー!!!!)


 こ、ここここ、このストーカー王子共が! だからストーカーに権力と金持たせちゃいけねぇって、何回言ったらわかるわけよ、この世界は! まぁ今回はそのストーカー王子によって助けられたんで、なんとも言えないんですけどね⁉ ありがとうございます⁉ でももう2度とやんな! 


 油断も隙もどころか、プライベートすら持たせるつもりねぇな、こいつら……っ、とごくりと思わず生唾を飲む。本当にこれが私の推しルート発生の影響だとしたら、ちょっと怖すぎませんか、公式様。攻略対象全員病属性持ちとか、そんなの聞いてないんですけど⁉


「フロイド王子様、ルイス王子様、ジェイアール王子様。盗賊団の捕獲が完了致しました」と近衛師団の人と思われる人物が、こちらに駆け寄ってくる。「わかった。今、確認に向かう」とフロイド王子が、近衛師団の方へ向かう。


 と、そのあとに続くように、ルイス王子とジェイアール王子もそちらへ向かう。私もハッと我に返り、慌てて立ち上がるが「「シーちゃん/シンデレラちゃんは、そこで休んでて/ちょうだい」」と、二人に止められてしまう。


 そう声を揃えて止められてしまえば、こっちは頷くことしかできないわけで……。「は、はあ……」ぼうぜんと頷き返しながら、その場に座り留まる。


(なんか、色々ありすぎじゃない……?)


 私は、単純に推しとのデート(という名の買い出し)をしたかっただけの筈なんだけどなー……。「はぁー……」と思わず息をつく。

 なんだろ、この疲労感。攻略キャラの固有ルート一気攻略する為に、完徹した時だって、こんなに疲れた思い出ないんですけど……。


「シンデレラ様っ」と、どこからか、慌てたような声がかけられた。覚えのあるその声に「あ」と小さくこぼしながら、声がした方へ振り返る。


「トーチ」


 予想通りの人物――トーチが、場の後始末をしていく近衛師団の人達の間をぬって、こちらに駆けてくる姿が目につく。

 慌てたように駆け寄ってきたトーチを、あー、お櫛が乱れてる推しだー、レアスチルじゃーん、とぼんやりと考えながら見あげれば、その不安げに揺れる黒目と目が合った。


 と、


「っ、申し訳ございませんでしたっ!」


 次の瞬間、そう大声で叫びながら、トーチが勢いよく土下座をした。

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