第23話 宿泊研修 続

夕陽が斜めに差し込むころ、班別に分かれての自由行動が始まった。


起実たちの班は、川遊びを希望するメンバーが多く、少し下流の浅瀬へと移動していた。


「おー!冷たっ!」

「ちょ、環、それ掛けすぎ!」


陽斗と環が水を掛け合ってはしゃいでいる。


一方、起実はその光景を眺めつつ、浅瀬に足を浸けたままぼーっとしていた。


『……冷たいけど、気持ちいいな』


「……起実くん」


『眠桐さん、濡れなかった?』


「……うん、私は…こっちの方が好き」


そう言って、眠桐さんは水辺に座り、涼しげな風を顔に受けている。


「夕陽、きれいだね……」


『うん、なんか、ずっと見てられる』


静かな川のせせらぎ。遠くで響く友達の笑い声。

その隣にいる眠桐さんの横顔を、起実はふと見つめた。


──このまま、時間が止まってくれたらいいのに。


そんなことを、思ってしまった。




__________________________________



夜、完全に暗くなった山道を舞台に「班ごとの肝試し」が始まった。


「前に3人ずつで、後ろは5分空けて行きまーす!」


『俺ら、誰と一緒に行く?』


「起実くん……一緒に、行きたい……」


『もちろん。陽斗、環、先行っていいよ』


「マジで?じゃ、俺ら先行くか!」


「起実先輩〜ビビったら即報告で〜!」


──こうして、眠桐さんと二人だけで夜の山道へと足を踏み入れる。


薄暗いランタンを持って、木々の合間を進む。


『……さすがに静かだな。ちょっと怖いかも』


「……うん。でも、起実くんがいるから、平気……」


その言葉に、心臓が跳ねた。


(こんな雰囲気、ズルいだろ……)


と、その時──!


「ガサッ!」


『うわっ!?……って、猫か……』


「……きゃっ……」


びくっとした拍子に、眠桐さんが起実の腕をぎゅっと掴む。


『だ、大丈夫……?』


「……ごめん、びっくり、しちゃって……」


そのまま手を放さない彼女の手が、少し震えていた。


『……無理に行かなくても──』


「……起実くんと、いたいの」


小さな声だったけど、はっきりと聞こえた。


(……俺だって、離れたくない)


ぎゅっと彼女の手を握り返した。

『眠桐さん、後でさ内緒で静かに部屋抜け出そう、少し話したくて』

「…つ!うん…!」


──夜の闇の中で、確かに距離が、近づいていた。


これが、吊り橋効果____なんてな。そんわけないよな。

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