第22話 宿泊研修

学校の校門前には、大型の観光バスが二台停まっていた。


生徒たちは、眠そうな目をこすりながらも、どこか浮足立った雰囲気。

旅行前特有の高揚感が、肌にピリピリと伝わってくる。


『……なんだかんだ言って、みんな楽しみなんだな』


「……起実くんも、ちょっと楽しそう」


『そう見える?』


眠桐さんが、ふふっと笑う。


「……うん、なんとなく」


バス移動中

指定された席は、班ごとの並び。


起実の隣には、もちろん眠桐さん。

その後ろに陽斗と環が座っている。


バスがゆっくりと動き出すと、誰かがBluetoothで音楽を流し始めた。


眠桐さんは、静かに窓の外を眺めていたが──


「……ねえ、起実くん」


『ん?』


「……手、貸して」


『へっ!?』


「ちょっと……眠くて、支えが欲しいだけ」


言われるがままに手を差し出すと、眠桐さんはそっと自分の頭をそこに預けた。


「……おやすみ」


『お、おう……』


眠桐さんの髪が、指先にふわりとかかる。

ドキドキが、心臓にじわじわと広がっていく。


(……俺、やっぱり眠桐さんのこと──)


そのとき、後ろから小声のやり取りが聞こえた。


「……あれってもう付き合ってるんっすかね?」


「……いや、たぶんまだじゃない?」


(……陽斗と環!?)


気まずさに耳が熱くなる。


でも、不思議とイヤじゃない。

この距離が、今の“ふたり”のかたちなのかもしれない。


宿到着後

数時間の移動を経て、山の中腹にある研修施設へと到着する。


澄んだ空気と、ほんのり秋の香り。


『おー、思ったより綺麗なとこだな』


「……景色、すごいね」


「さっそく部屋割り確認してくださーい!」


引率の先生の指示のもと、それぞれが荷物を運び始める。


男子部屋は6人部屋。起実、陽斗、他クラスメイト4人。

女子は同じく別部屋に6人──当然、眠桐さんと環は一緒の部屋。


『布団敷くのとか自由なんだな。思ったより緩い』


「自由時間も長いみたいだしな。夜の肝試し、噂になってるぞ~?」


『マジかよ……』


「そっちも一緒に回るっスよー!起実先輩、ビビりっスか?」


『ビビってねぇよ!』


──こんなふうに、研修初日は和やかに始まっていった。

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