⑦
その日はうっかりして、教科書を忘れてしまった。
いつもならどうにかごまかすのだが、この日はあいにく教師に見つかり、隣の人に見せてもらうように言われる。
隣といえば、もちろん彼女。
「いいよ」
「……ありがとう」
机をくっつけ、彼女ともっと近い距離に。
会話をしたのは久々だった。ずっと、避けていたから。
気まずい空気が互いに流れる。当然か。
自分はそれだけの事をしたってことだ。
逃げるように窓の外を見ていると、不意に服を小さく引っ張られる。
「ごめんね……。似てるとか言って。嫌だったよね……私なんかと」
うつむきながら暗い顔の彼女。
胸に鋭い棘が刺さった気がした。
「これで最後にする。もう、話かけないよ。……本当に、ごめん」
今にも泣きそうな彼女の顔を見て、ようやく己のやったことを激しく後悔した。
なんで、彼女が謝っている。悪いのは全部、自分なのに。
彼女は孤立していても、関係なしに話しかけてくれた。
もっと笑った方が良いと励ましてくれた。
こんなにも優しいのに、それを拒否したのは、自分だ。
ならば取り返そう。これからの時間を、大切に過ごす為に。
彼女の優しさを無駄にしないように。
「……違う。悪いのは自分だ。優しい君に酷いことを言った。本当に、ごめん」
一度、深く刺さった棘は抜くのに時間がかかる。
ゆっくり、ゆっくりと、抜いていくしかない。
もう、後悔しないために。
「……こんなこと今更なんだけど、もしあの時の言葉を取り消せるのなら、俺と」
言葉を噛みしめる。彼女の瞳を見つめて、心からの本心を曝け出した。
「──友達になってくれ」
あぁ、そうか。自分は彼女に救われたんだ。
崩れていた天気はようやく回復の兆しを迎える。
長かった梅雨は開け、空は元の青空へと戻っていく。
雨が降ろうと、いつかは晴れる。
「喜んで」
その笑顔は、今日の青い空によく似合う、眩い輝きを放っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます