37、終わらせよう!



「少しいいですか?」


「カイト君、そんな普通に遊びに来ちゃ駄目だよ」


 授業が再開した初日の昼休み。

 俺は学園長室に訪れていた。

 もちろん会う約束などしていない。

 

「アルフレド様の真意を教えてください」


「真意?」


「この世界の情勢と、モスグリーン王国についてどうお考えなんですか?」


「君の口から、世界情勢について聞かれるとは思ってなかったよ。つい先日までまるで興味すらなさそうだったのに」


「これ、お返しします」


 貸してもらっていた本を、鞄から取り出し机の上に置いた。


「え、もう全部読んだのかい?」


「徹夜で記憶しました」


「‥‥‥凄いね」


「モスグリーン王国が、このままじゃ駄目だって事は理解しました」


「そうだね」


「アルフレド様は、モスグリーン王国をどうしたいと思ってるんですか?」


「‥‥‥一応言っておくけど、今の僕は第二王子だから、国をどうこうする権限は持ってないよ?」


「俺は学園の用務員になるつもりはありません。将来を保証するとか、いずれ決するとか言っといてなんですそれは? 俺はそんな人に付いて行く気はありませんからね」


「君が言いたい事はわかったよ。話が穏やかじゃないね」


「俺がアルフレド様を主君と認められるかどうか、見定めさせてください」


「なんだか主従関係がめちゃくちゃだな」


 ニコニコとアルフレド様。


「無礼な発言は今日で最後です。主君の前で偉そうにするつもりはありません。もし、たもとを分かったとしたら、もう話す事もないでしょうしね」


「別に2人だけの時なら、今後も普通に話してくれて構わないよ。君と腹を割って話すのは面白いからね。‥‥‥たが、他の者がいる時は別だ。造り物であったとしても、王には威厳が必要だろ?」


「‥‥‥王」


 王の威厳か‥‥‥。


「ところで、先に君が急にやる気になった理由を聞かせて欲しいな。今から話す内容が漏れたら、僕はあの世行きなんだ。それくらいいいだろ?」


「ウェンディ・ノースがこのままだと亡命しそうです。彼女はこの国を見限ったと言ってました」


「ほう」


「なんとかなりませんか?!」


「あの才能を持っていて経理官だもんね‥‥‥そりゃ国を出たくなるよ」


「違います! ウェンディ・ノースは自分の出世の為に出て行こうとしてるんじゃありません。もし戦乱が起こった時に、この国にこのまま留まっても、世界の為に何も出来ない自分が許せないんです!」


 そう、ウェンディ先輩だって、自分の生まれ育った国が嫌いなわけじゃないんだ。

 出来る事なら亡命なんてしたくない筈。

 そんな状況に追い込んだ国が悪い。


 


「‥‥‥そうやってね───」


 アルフレド様が語り出す。


「長い歴史の中で、この国は優秀な人材をことごとく潰してきたんだよ。馬鹿みたいだろ?」


 そう言うと、一冊のボロボロの古い本を渡してきた。

 特に題名などは書いていない。


「次はこれを読むといいよ。モスグリーン王国が建国当初に何を間違い、どんな罪を犯したのかがわかる文献だ」


 見れば貴重なモノだと一目でわかる。

 そして内容を考えれば、世に出回るモノじゃない。


「優秀な人間が怖かったんだろうね」


 怖い?


「戦乱中は良かったんだ、武力しか持たない者も活躍出来たからね。だが平和な世になると、彼らは居場所がなくなる事を恐れ暴挙に出た」


 本を指差してニコリと笑うアルフレド様。


「それは、僕のご先祖様‥‥‥初代グリーン王と英雄アレクに殺されたグレイ・ラットの日記なんだ。一冊しかないから大事に扱ってよ」


 ───殺された?!


 平和な世を手に入れる為に、一緒に戦った仲間じゃなかったのか?!


「最近サンブラック帝国の皇帝が変わってね‥‥‥なかなか優秀な人間のようで、モスグリーン王国に代わって主権を掌握しようとしてるみたいなんだ。もちろんウチの国のアホ共が許す訳もないから、世界情勢は荒れ放題」


 サンブラック帝国はスペクト条約機構で、モスグリーン王国に次いで発言権を持つ国。


「このままだと、本当にまた戦乱の世に逆戻りだ。そろそろモスグリーン王国は、この負の連鎖を誰かが終わらせないと‥‥‥いや、誰かじゃないな‥‥‥君が聞きたいのもコレだろう」


 負の遺産とは優秀な人間を排除したがる国策の事。



「僕が終わらせる」




 ニコニコしてないアルフレド様の目は真剣だった。

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