28、私を捕まえてごらん。



「さあ、始めましょうか」


 敵に囲まれているというのに余裕の笑みを浮かべながら、部屋の中央に立つ背の高い美女。


「門を閉めて!」

 

 幸い蹴破られた門はかんぬきが破壊されただけのようなので、まだその役割は果たせそうだ。

 とりあえず、これで救援はすぐには来ないだろ‥‥‥。


 此方の望んだ1対多数になってはいるが、戦闘の得意なラール達4人がいない。

 その上、此方の作戦でこの状況になった訳ではなく、完全に遊ばれている感じがしゃくにさわる。



「カイト、指示を!」


 木槍を構えるクラスメイトの声。

 俺達は木刀ではなく、皆んな木槍を装備していた。

 剣で槍に勝つには間合いの問題があるので相当大変らしい。

 戦闘能力の低い俺達が、少しでも戦えるように取った対策だ。

 槍先をマナ・グランドに向け、ぐるりと取り囲んでいる状態。


 ───この状況で負けたら、もうどうしようもない!


 そう、攻撃しないと始まらないんだ。



「よし、戦闘開始!」


 俺の声と共に後列の数名が、投げ網をマナ・グランドに向かって一斉に投げた。

 前列の人間は、木槍を構えて牽制したままである。

 これで簡単には躱せないだろ?


「捉えたら全員でかかれ!」


 少しでも動きを止められたらこっちのもの。

 普通に戦っても勝てないが、全員で押さえつけたら皿を割るくらい可能だろう。

 かなり卑怯だが、こうでもしないとコイツはどうしようも───



 シュパッ!

 


 一回転するように薙ぎ払われた剣閃。


「‥‥‥は?」


 目標に届く事なくズタズタになり床に落ちる投げ網。


 ───だから、なんで木刀で物が切れる?!


「そんなのじゃ私を捕まえられないわよ」


 相変わらず、余裕の笑みのマナ・グランド。

 ‥‥‥くそっ。


「まだだ、どんどん投げろ!」

 

 俺の指示で次々と投げられる網。


「‥‥‥こっちからもイクわよ」


 身を低くするマナ・グランド。

 

 ───させるか。


「槍隊、槍を突き出して前へ!」


 四方から迫ってくる槍先は、動きを鈍らせる効果がある筈だ。

 この囲みを崩されたら、此方はもう打つ手がないんだ。

 自由にさせてたまるか。


 

 ブンッ!



 凄い速さで振られた木刀。

 飛んできた投げ網は絡め取られ逆に弾き返された。

 投げ網に絡まり、もがく数名の槍隊。


「ぎゃ!」


 そして、何故か少し離れた場所にいる俺にも絡みついている投げ網。


 ───アイツ狙いやがったな!


 俺は基本的に指示しか出してないので、拘束されても何の支障もない‥‥‥。

 ‥‥‥遊ばれてる?


「囲いを緩めるな! 後衛は動けない人のカバー!」


「遅い」


 マナ・グランドは軽く床を蹴ると、いとも容易く囲みを抜け、槍を躱し、投げ網を躱し、次々と皿を割っていく。

 それはもう、まるでその辺の小石を拾うかのように軽々と‥‥‥。

 

 ───凄え‥‥‥。


 ウェンディ先輩が言っていたが、これはもう次元が違う。

 俺の考えた小手先の策なんかじゃ、そもそもどうしようもないレベルだったんだろうな‥‥‥。

 最早策も何もない俺は、マナ・グランドの舞を踊ってるような美しい動きに、ただただ目を奪われるだけだった。



「ごめんね、サラちゃん」



 パリンッ!



 囲んでいたクラスメートの最後の1人、サラを討ち取ったところで、マナ・グランドの動きはようやく止まった。

 どうやら正確に皿だけを割っていたようで、あれだけ大暴れされたのにも関わらず、誰一人痛がったり、怪我をしている人間はいない。

 

 ───これはもう認めるしかない。


 実力に差があり過ぎる。

 むしろこれだけ見せつけられると、潔く負けを受け入れられそうだ。


「さあ、討ち取られた人は非常扉から退出してね」


 先程までの暴れっぷりが嘘のように、ニコリと笑うマナ・グランド。

 基本的に討ち取られた人間は、その後の戦況の邪魔にならないよう、迅速に戦場から去らないといけない。

 その声に従うように砦に備え付けられている、非常口に向かうクラスメート達。

 サラだけが、退出間際に一瞬此方を振り向いてガッツポーズをしてきた。

 頑張れよって事だろう‥‥‥。

 事務クラスで生き残っているのは、少し離れた場所で未だ投げ網に絡まり床に転がっている俺だけだ。



 ‥‥‥無理だから。


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