11、人はソレを師弟関係って言うのよ!




 パチッ!



 コツッ!



 俺達以外誰も居ない屋上に響く、か細い小さな音。

 ウェンディ先輩と俺の『王様ゲーム』の駒を置く音だ。


「フフフ、なかなかわかって来たじゃないか」


「‥‥‥そうですか? 全然勝てないですし、自分ではイマイチ実感がないんですけど‥‥‥」


 俺は相変わらず一度も勝ててない。


「昨日とはまるで打ち筋が違う。兵が生き生きとしてるぞ」


「‥‥‥本当ですか?」


「昨日も言ったが、大事に扱われていないと兵は応えてくれないからね‥‥‥これで詰みかな」



 コツッ!



「‥‥‥負けました」


「いい戦闘だった。君はやはり筋がいい」


 まるで歯が立たないのですが‥‥‥。


「こんなに完膚なきまでに叩きのめされてるのにですか?」


「フフフ、君が読んだ『グレイの兵法』は将にとっての心構えが書かれているだけだからね。現段階で君に負けたら、私のプライドがボロボロだよ」


「‥‥‥はぁ」


「君が兵法を学ぶ上で適正がある事は理解できた。今日はかなりの収穫だったよ」


「‥‥‥それは褒められてると思っても良いんでしょうか?」


「私からの最高の賛辞だ」


「ありがとうございます!」


 普通に嬉しかった。

 学園の教師に褒められるより、この人に認められる方が遥かに嬉しい。

 どうやら自分で思ってる以上に俺はウェンディ・ノースを尊敬してるようだ。


「そこでだ、私の部屋に自由に入る権利を君にあげよう」


「‥‥‥はい?」


 ‥‥‥これは、まさか?

 来たのか?

 人生初のモテ期?!


「安心したまえ、艶っぽい話じゃない」


 ‥‥‥はい、モテ期とか考えた自分を撲殺したい。


「‥‥‥それは俺にとって何のメリットが?」


「フフフ、私の部屋にはね、この国で手に入るありとあらゆる兵法の書が所蔵してある。私が不在の時でも構わないから、好きなのを持って行くがいい」


「本当ですか? やった!」


「この有り難さが、君なら理解できると思ったよ」


「やばいです、とんでもなくありがたいです!」


 そう、ここモスグリーン王国では、どういうわけか兵法に関する書物が一般人には全く手に入らない。

 俺はこの学園に入学する前から、街中の書店を探し回ったが『初心者の兵法』なる謎の本しか置いてなかった。


「前にも話したが、この国の重役達はどうしても私達文官の地位を下げて、国のまつりごとから遠ざけたいんだよ。ちょっとした国同士の小競り合いでも、私達には活躍して欲しくないのだろうな」


「‥‥‥なんか、難しい話ですね」


「この国は腐りきってるんだ、国が勃興ぼっこうした当初からね」


「‥‥‥はぁ」


 空を見ながら遠い目をするウェンディ先輩。

 この人は、その辺の空じゃなく、もっともっと遥か遠く、俺なんかじゃ到底見えない何かを見てる気がした。


「まあ、バウディ君はまだ勉強中の身だ。まずは学べ! 私も出来るだけフォローしよう」


「ありがとうございます!」


 そうだな、俺はまだまだヒヨッコだ。

 いずれこの人と対等に話せる日が来るかもしれない。

 その日まで頑張ろう。


「そこでだ、私の部屋に入って私の全てを君に曝け出すわけなんだから、私にも見返りが欲しい」


 ‥‥‥これは、やはりモテ期?


「‥‥‥なんでしょう?」


「私が欲する時に、また対戦して欲しい。この『王様ゲーム』以外にも、色々と私が考案した遊びがある。それに付き合ってくれ」


「もちろんです、こちらこそ是非お願いします!」


 はい、再びモテ期? とか思った俺はやっぱり死んだ方がいいかもしれない。


「うん。じゃあそろそろ教室に戻ろう。どうでもいい授業とは言え、学園自体は卒業してる方がいいからな、君も私も」


「そうですね」


 また昼休みの時間を大きく超えて対戦していた俺達。

 ウェンディ先輩が立ち上がり、屋上の出口に向かったので俺も後に続く。


「あ、そうだ」


「‥‥‥どうしました?」


 階段を降り出した時に、ふと此方を振り向くウェンディ先輩。


「君に一つ言っておかねばいけない事があったんだ」


「はい」


「腰巾着とか言ってすまなかった」


 俺の方を見上げた後、頭を下げるウェンディ先輩。


「‥‥‥急にどうしました?」


「完全に私の失言だった。君は腰巾着ではない。マナ・グランドに甘える事なく、しっかりと自分の足で立っていた。本当に申し訳ない」


「気にしてないんで、頭を上げてください」


「そうか、ありがとう」


「俺とマナの関係なんて、誰が見てもそういう風にしか見えませんから」


 アイツは国の英雄に向けて一直線に走ってるんだ。

 俺なんてただの腰巾着で間違いない。


「私には男女の色事はよくわからないが、今日見た感じだと、マナ・グランドの方が君を求めているように思えたぞ」


「‥‥‥まあ、俺達にも色々あるんです」


 そう色々と‥‥‥。


「うん。私が考えても理解できないだろうから捨て置くが、あの様子だとかなりバウディ君に執着している。大事にすることだな」


「はい、もちろんです」


 可愛い幼女姿の凄い人は、俺の方を向きニコリと笑った後、トントンと階段を駆け降りて行った。



 俺はこの人とは男女を超えた、関係になれそうな気がした。

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