第2話 攪拌
恭一は愛おしい気持ちのまま部屋を出てエレベーターが上がってくるのを待った。
1.2.3.4と切り替わる数字を見ながら、恭一は気持ちを抑えるのに必死だった。ドアのガラスに映る青年が微笑んでいる。喜びと幸せとを湛えた微笑みだ。
上がってきた住民は怪訝な顔で恭一を見た後、軽めの会釈して横を通り抜けようとした。しかしその拍子に腕がぶつかった。
左腕のじんわりとした痛みは鋭さを増し途端に恭一を包み込んだ。
エレベーターは空のまま降りていった。
閉まったドアのガラスに映る青年はガタガタと震えていた。
息が詰まる思いで恭一は部屋に戻ろうとした。しかし部屋が分からない。ずっと住んでいた家がふとした拍子に無くなってしまったのだ。
あの住民は不幸の使者だ。ここは現実ではない。早く逃げなければ夢と混ざっておかしくなってしまう。恭一は咄嗟に非常階段を駆け下りた。
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