第69話 希望の光
結果的に俺の作戦は上手くいった。半分はだが。
あの後、俺は流に逆らうようにウォーターロードを発動させて海へと向かって行った。アリーズのエアドームのおかげで俺とアリスの呼吸も問題なく、ウォーターロードの水流を細かく調整することによってエアドームに影響が無いようにしながら発動させるのが疲れるというその程度の事だけで済んだのは最高の結果だっただろう。
だが、問題は俺たちの後ろからついて来る奴らの存在だ。現在俺たちはトンネルで開けた穴を通り抜けて暗い深海に向かって移動している。それもこれも、後ろからNo.1が町長を掴んだ状態で追って来ているからだ。凄いスピードで追って来るものだから、それを振り切ろうとすると海面に出て行く余裕が全くない。そのせいでどんどん深海へと向かって行ってしまっていると言う訳だ。
No.8を進化へと送り込んだ時に分かった事だが、俺のウォーターロードは発動中の内部に水圧の影響を受けないらしい。だから逃げようと思えばいくらでも海の中を移動出来るしどんな水圧の中でも問題なく進めるのだが、どうも後ろのNo.1も魚人の限界活動水圧を越えて活動できるようで、ずっと追われてしまっている。
「何なのアイツ! こんな水深の深い場所で普通に活動できるなんておかしいわよ!」
「改造魚人だからだろ。奴は改造魚人の中でも別格らしいし、それぐらい出来る方が逆に自然なまである」
「それはそうだけど……ああ、もう!」
「ところでアレン、この後どうするつもりなんだ?」
と言われても、正直なところこの後のプランなんて全く無いとしか言えない。そもそも脱出時には奴らは高温の蒸気で蒸し焼きになって死んでしまっている予定だったのだ。それがあんなにピンピンしているなんて予想もしてなかった。
「逃げられないんだから、もう行くところまで行くしか無いだろ。飢え死にするまでの耐久レースだ」
「なら一つ提案があるわ」
「提案?」
「アトランティスに向かうのよ」
アトランティスに向かう。確かに町長がアトランティスに行くことが目的だとか何とか言っていたのでこのままアトランティスに向かって目的を達成させてやればいいのかもしれないが、そもそもそれがどこにあるのか分からない状況でどうやって探し出すと言うのか。アリーズの次の言葉を待つ。
「伝説ではアトランティスは超大型の海魔獣の巣の近くにあると言われているわ。そんな巨大な海魔獣ならこの深海で探し出すのは簡単なはずよ」
「だがこの深海でどうやって見つけるのだ? 真っ暗だぞ」
「それはあの光る道を作ればいいじゃない。目一杯道幅を広げてね」
アリーズの言っていることは良い案のように聞こえるが、海魔獣というのがどんな生物なのか俺たちは全く知らない。この暗い深海の中で突如光り輝く者が現れれば襲い掛かって来てもおかしくないだろう。それか逃げるか。とは言えこ他に何かプランが思い浮かぶわけでもないし、やはり一か八かやってみるしかないか。
「じゃあやるぞ、何か見つけたら教えてくれ」
「わかった」
巨大と言っても生物の大きさには限界がある。地球最大の生物であるシロナガスクジラよりは大きいかもしれないが、流石に何倍何十倍という事は無いだろう。
「ライトロード発動」
その瞬間、俺たちは光に包まれた。
「うわっ!?」
「眩しい!」
考えてみれば当たり前だ。ライトロードは道自体を光らせる能力、ならば水に囲まれるようになっているウォーターロードはその囲っている水自体が光る事になる。
「何か見えるか?」
「眩しすぎて何も見えないわ。少し光量を落とすことは出来ない?」
「やってみる」
今まで光量を落とすなんてことはやったことは無いが、意外と俺のスキルで使える能力は細かい調整が効いたりする。やろうと思えばできないことは無い筈だ。
集中するためにほんの少しだけ目を閉じる。どれくらいに落とそうか、いやそれより光る範囲を限定することは出来ないか。いつものように足元だけ、それからもっと辺りを見やすいように外向きに光を出して……。
「おお、見えるようになったぞ! 右側は壁か、ギリギリだったな」
「なに? そんな筈は無いぞ俺たちは真っ直ぐ沖の方に向かっているんだから」
町は海沿いの崖に沿って造られていたし、あの時海側に向かって穴を開けたのだから右側に壁があるなんてのはありえない。それとも海底に山でもあるのか?
「確かに変だわ。ここまでの移動速度から考えてここが大体どの辺りかは分かる、たしか最大深度3000mぐらいはあるはずよ。間隔だけどまだここは水深1000mぐらいでしょうし、山や崖があるとしてももっと下だと思うわ」
「壁じゃないなら今見ているこれは一体何なんだ? 随分と変わった模様をしているが」
アリスの言う通りこの壁はかなり変わった模様をしている。グルグルの渦巻き模様が所狭しと並んでいて、素材のせいかこちらの光を反射してテラテラと光っているように見えた。自然にできた岩肌にしては整っていて綺麗だ。
いやいや、そんな事より海魔獣を探さなくては。右が壁なら左と前だけ注視していればいいのだから、寧ろラッキーだ。
「それで超大型の海魔獣とやらは見えたか?」
「いや、それどころか生き物の一匹も見えんな。本当に居るのか?」
「居るのは間違いないわよ別の港町では死体が打ち上げられたこともあるし、私も実際に見たわ。その時はもう骨だけだったけど」
「それ本物かよ? 適当にその辺の骨繋ぎ合わせて作ったんじゃないのか?」
「なっ!? そんなわけない! そんなわけないわ! 私は小さい頃からずっと海魔獣の図鑑を眺めて育ってきたんだから! あれは絶対に巨大海魔獣グレートエレファントランランだったわよ!」
え? グレート? まあいいや。
それにしてもこのまま超大型の海魔獣が見つからなければアトランティスにたどり着けない。かといって後ろのNo.1を振り切ることも出来ないし、どうしたものか……。
「おい見ろ、前の方で何か光ってるぞ」
「光ってる? こんな深海でか?」
アリスに言われて見てみると確かに遠くで微かに光を放つものがあった。こちらの光量が多すぎて今は見づらいが、もう少し近づけば何が光っているのか分かりそうだ。
これで近づいて行ったらデカいチョウチンアンコウの化け物だったとかやめてくれよ、あんなえぐい顔がいきなり現れたら俺は気絶してしまう。
「危ない!」
「うわっ!? な、なんだ!?」
「後ろからの攻撃よ! さっきから思ってたけどやっぱりアイツらと私たちの距離がだんだん縮まってる。それで攻撃が届く距離まで来たから仕掛けて来たんだわ!」
「マジかよ、これ以上のスピードは出せないぞ……!」
敵の攻撃が段々苛烈になって行く、水の魔装で作られた刃がエアドームを突き破って足や腕などに細かい傷がつくようになって来た。しかも何回かに一回は切断できそうなほどの強さで放ってきている。このままでは翻弄されるだけで何も出来ず終わりだ。
「デカいのが来る! 避けろ!」
今までで一番大きな水の刃だ。何とか避けることが出来たが、その水の刃は俺たちの右側にある壁に深々と傷をつけた。硬そうな印象の壁だったのに縦にスッパリと切れ目が入っている。
「どんな威力だよ。エアドームとウォーターロードの水流で弱まってるはずだろ」
「ちょっと待って、この傷!」
「傷がどうした?」
「おかしいわ、私たちはずっと動いている筈なのに壁の傷がずっとそこにある!」
そのとき俺たちは理解した。これは壁なんかじゃなく巨大な生物だったのだと。
水の刃で切り裂かれた痛みで開かれた瞼、それは俺たちがさっきまで壁だと思っていたものだった。目だ。巨大な目が俺たちをじっと見つめている。
「海魔獣だ!」
「嘘でしょ。目だけでこんなに大きいなんて……。私が見た骨なんかこれに比べたら子供だわ」
「待てよ。じゃああそこに見えている光は」
「アトランティスの光!」
「あそこまで辿り着きさえすれば!」
希望の光は既に目の前に見えていたのだ!
その瞬間、俺の腕がちぎれ飛んだ。
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