第70話 崩壊都市アトランティス
右腕が……っ!!?
「ぐああああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
その瞬間、前世も含めた今までの人生で感じたことのない凄まじい痛みが俺を襲った。死んだときは意識が朦朧としていたからここまでの痛みは感じなかった。それでもあの時以上の痛みは無いと思っていたのに、腕がちぎれた痛みはそれ以上だった。
「アレン!?」
「アレン君!?」
アリスとアリーズが何か言ってるのが聞こえるが、痛みで勝手に口から出る悲鳴が遮って何を言ってるのか分からない。それに、痛みのせいでウォーターロードの制御が難しくなっている。
「ぐうううっっ!!」
といっても今ウォーターロードを消してしまえば誰も生き残れないのは間違いない。意識を保ったまま制御なしで使うしかないが、それでアトランティスまで辿り着けるかどうか……。
「あ、アリス。ウォーターロードの制御が、難しくなってる……。痛みで目も良く見えない」
「なに!?」
「すまん、2人でなんか方法考えてくれ」
「そんなこと言っても!」
今の俺は気絶しないように耐えるのが精いっぱいだ。何とか真っ直ぐアトランティスに行けるような方法があればいいんだが、もうライトロードを維持しておくだけの力さえない。当然うしろのNo.1の攻撃を避けるのも無理だ。
「ああ! ライトが!」
「いいえ、これで良いわ! これなら後ろからの攻撃がしずらくなる!」
しかしながら、ライトが無いという事は周りが一切見えないという事。つまり隣を泳いでいた筈の大型海魔獣が口を開けて迫って来ても分からないという事だ。
まさかあんな大きな生物が草食だとかそんな訳は無いので、目を開いてガン見された今、食おうとしてきてもおかしくはない。
ただ目印はある。アトランティスの光だ。あれさえ見失わず、かつ海魔獣もNo.1の攻撃も避けることが出来れば、何とか助かるかもしれない。それでも助かるかもしれないぐらいの希望しかないのが悲しいところだが。
「アリス、あなたはこの状況からアトランティスに行く方法を考えて。私はアレン君の応急処置をするわ」
「お、俺の事は」
「放ってなんて置けないわよ。出血多量で死んじゃってもいいなら別だけどね」
「す、すみません、お願いします」
なんだか段々痛みが無くなってきたような気がしたから大丈夫かと思っていたけど、アリーズが言うには血を流しすぎて感覚が無くなってきているかららしい。なんで考えつかなかったんだ。普通に考えて腕一本吹っ飛べばどれだけ血が出るかぐらい思いつきそうな物なのに……。
あ、そうか、痛みでまともに考えられなかったんだった。
「なあ、こういうのはどうだ?」
俺がアリーズに応急処置をしてもらっている間、アリスは言われた通りにこの状況からアトランティスへ行く方法を考えてくれていたらしい。ライトロードが無くなって光がアトランティスのものしかなくなってからも後ろからは攻撃が続けられている。さっきまでとは違って制度はかなり落ちているが、すべてが当たらないわけでもなく、こっちも何処から飛んでくるか分からない攻撃に対処するのはかなり困難だ。
一刻も早くこの状況から抜け出したい。俺の力を使う以外にそんな方法があるのなら、どんなものでも構わない。
「私の技でウォーターロードの後方に爆発を発生させ、その威力でアトランティスまで吹っ飛ぶのだ。どうだ、いい考えだろう?」
いやいや、え? そんなことすれば俺の意識はスッと飛ぶよ、マジで。そうなったら水圧で全員ペシャンコだよ? ぐっちゃぐちゃだよ?
「……いいかもしれないわね」
「ええっ!? いっ!!?」
「あ、こら! 興奮しない!」
「いやだって、アリスの作戦そのままやったら俺たち死ぬぞ」
「大丈夫よ。たぶんこの距離なら」
距離? ここからアトランティスまでってことか? 確かにもうエアドームの中にある建物の形まで分かるようになって来たけど、だとしてもだよ。
「私のエアドームを最大硬度まで上げれば30秒くらいはこの深度でも耐えられる。後はタイミングさえ合えば」
「あ、アトランティスを囲ってるエアドームまではギリギリ間に合うってことか」
勝負は一回。しかもアトランティスのエアドームに入り口からしか侵入できない魔法でも掛かっていれば弾かれて終わりだ。でも。
「なんにせよもうやるしかない」
「……だな」
「よし、じゃあ早速やるわよ。タイミングはウォーターロードの解除と爆発技を同時、その直後にエアドームを強化する。いい?」
「ああ」
「了解」
タイミングを一歩間違えばすぐにあの世行きだ。でももう時間が無い、タイミング合わせもぶっつけ本番でやるしか。
「3、2、1」
ウォーターロード解除!
「爆天!!」
今まで聞いたアリスの技の口上の中で一番短い技名を聞きながら、同時にウォーターロードが解除される。直後、一瞬にして押し迫って来た水を撥ね退けるように白みがかったエアドームが張りなおされた。
そしてオレンジ色の閃光が辺りを照らしたかと思うと、凄まじいほどの衝撃波が俺たちを襲う。ビリビリという謎の音を響かせるエアドームは、俺たちを中に入れたままウォーターロードのスピードよりいくらも速いまさに爆速でアトランティスへ向かって行く。
「ぶつかるぞ!」
迫りくるアトランティスのエアドーム。こちらの強度が高いエアドームは白っぽいのに向こうのはハッキリ中が見える驚きの透明度だ。とは言えこんな深海で水圧に耐えているのだから相当に硬い筈。
俺たちは衝突の凄まじい衝撃に対して身構えた。
「うおっ!?」
しかし、衝突すると思っていた俺たちとは裏腹に、アトランティスのエアドームは俺たちのエアドームをまるまるそのままスーッと中に通してしまった。何の感触も無くただ中に入った俺たちは、アリーズの作り出したエアドームの使用制限時間終了と同時にアトランティスの地面に尻もちをついた。そしてそこで見たものは。
「廃墟?」
黄金に輝く巨大な折れたトライデントと、ボロボロになった町の建造物の姿だった。
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