第58話 決着。No.8

 不死身のNo.8、コイツをどうにかするには凍らせるしかない。そう思った俺は、レンコンの刃先に氷の魔装を発生させ、刃先を地面につきたてていた。


 なぜ地面に刃先を向けたのかと言うと、これにはもちろん理由がある。

 まず1つ目はこの氷の魔装が対象に対してどれほどの効果を発揮するのかを見るため。そして、2つ目は近くの物を凍らせて辺りに冷気を充満させるためだ。


 来た時に見た通りこの辺りにはお客さんや職員が残して行ったものが散乱している。これらの物を凍らせて辺りを冷気で充満させればコイツの動きを少しは鈍らせてくれるはずだと考えたのだ。

 俺自身は冷気の魔装を使っていれば耐性が付くのでまともに動ける。その隙をついてコイツに一撃食らわせれば、後は氷漬けにしてエアドームの外の海に叩き落せばいい。


 ここは城前の中央広場で真ん中には噴水がある。そしてその噴水は四方から流れてくる海水路の水が魔法で淡水にされてから吹き出しているらしい。その吹き出した後の水および四方から集まった残りの海水は、噴水の下で集められて城と反対方向に延びる大きな幅の広い海水路に流れて行く。その海水は来た時と同じ様にドームの外へと流れ出るという循環になっているようだ。という事はこの流れの先にエアドームの外へと続く排水口があるという事になる。


「フーッ、フーッ」


 No.8の攻撃を『動く歩道』を使いながら避けているその間に、地面に突き立てたレンコンから発せられた冷気で周囲の物や地面が凍りついて行く。どうやら俺が思っていたよりも氷の魔装の力は強いらしい。地面まで凍らせれるという事は、さらにコイツの動きを阻害できるという事に他ならない。氷さまさまだ。


「どうした? さっきまでの勢いがなくなってるぞ」

「ハハッ、ハハハ」

『なに? 貴様一体なにをした!』

「ああなんだ、あんたまだ居たのか。それなら感謝を言っとかないとな。ありがとうマッドジジイ、あんたのおかげで何とかなりそうだ」

『なんだと!?』


 しかし、鈍ったと言っても奴の不死身の再生能力の前にはほんの少しの障害にしかならない。常に冷気を発生させておかなければすぐに元に戻ってしまう。

 地面に付き立てた刃先を引き上げて攻撃するタイミングがカギになって来るだろう。

 出来ればアイツの背後から手の届かない位置に槍を突き刺したい。というのも今度は雷の魔装で穴をあけた時と違って冷気を保つために常時槍を握っていなければならないからだ。


「だが、このままじゃ隙が小さすぎるな。地面を凍らせて滑らせようにも奴の足の形状では意味が無いようだし……」


 何か他に方法は無いか。アイツを足止めできる方法は。


 その時、なにかの時間になったのかパーク内に鐘の音が鳴り響いた。そして噴水が前にもまして勢い良く噴き出し始める。時刻を見れば夜の8時ちょうどだ。ということは夜のパレードが始まる時間帯の合図と言ったところだろうか。


「噴水か……。これだ!」


 噴水の水をうまく活用すればアイツの動きを止められるかもしれない。だがしかし、今は俺と噴水の間にアイツが居る。何とかしてあいつを突破し、噴水に近づかなくては。


 噴水がいつ終わってしまうか分からない以上、こうなったら一か八か突っ込むしかない。

 俺は『動く歩道』でアイツの真正面に突っ込んで行く。するとアイツは俺が来るのを見てニヤリと笑い、体をぶるりと振るわせると右腕を高く上げて構えた。迎え撃つつもりなのだ。


 確かに今までならこの速度で突っ込んでもアイツの反応速度が上なので返り討ちにされていただろう。だが今はほんの少しだが体が鈍っている。それに俺は戦うつもりはさらさら無い。


 仁王立ち状態で俺を待ち構えているNo.8。ここからアイツを避けるには上が一番よさそうに思えるが、それは悪手だ。鈍ってはいてもエアロードの速度ぐらいならアイツはついて来てしまうので、もし上を行けばまた撃ち落とされるだろう。ならばどうするか。それは……。


「下だ! フリーズ!」


 地面につき立てた槍を前へと切り上げながら、前方一直線上の地面を凍り付かせる。整えられた地面は綺麗な氷の道を作り出し、スケートが出来そうな状態になった。

 氷の道が作られた瞬間、その上をアイツに殴られる直前まで『動く歩道』で進んで行く。そしてもう少しで拳が当たるというところで『動く歩道』を解除し、身をかがめてスライディングすると、俺の体は本当にスレスレのところをすり抜けて行った。


「あっぶねえ。けどこれで」


 今度はすぐ目の前に噴水の石で出来た段差が現れるが、アイツを躱すことが出来たのならもう問題は無い。

 俺は足元にエアロードを作り出してヒョイと段差を飛び越えると、勢いよく上に撃ちあがっている噴水の1本に向かってレンコンの刃先の腹を添えた。後は刃先の腹で噴水の方向を変え、それをアイツに当たるように合わせるだけだ。


「ほらお魚さん水浴びさせてやるよ! そんでフリーズ!」


 こちらに向かって来ていたNo.8の体に吹き付ける噴水の水。それを氷の魔装で瞬間冷凍すると、一気に体表面を氷で覆われたNo.8はその勢いのまま前のめりにこけて、余分に作られていた氷の中に突っ込んだ。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。噴水の水で凍り付いた状態のレンコンを無理やり剥がし、エアロードで飛び上がってアイツの真上まで行く。そしてちょうど到着したところでエアロードを解除し、自由落下状態で一気に奴の背中にレンコンを突き刺した。


「てめえの相手はもう飽きた。さっさと沈めてやる」


 突き刺したNo.8を瞬間冷却してガチガチの氷で固めたので、これでコイツはもう動けない。だがこのまま海水路に流してしまうと暖かい水流ですぐに氷が解けて復活してしまうので、海水路を辿りながら『動く歩道』で端まで持って行く。


 しばらく行くとやがて水路の端が見えて来た。どういう原理かは知らないが、海水で充満した海に水路の水が流れ出している。

 ちなみに聞いた話だとこのテーマパークは水深300メートルぐらいの位置に存在しているらしい。そしてこの中央の海水路の先は崖のようになっており、その先には水深の深い暗闇の世界が広がっているのが見える。

 

 いくら魚人だと言っても生きられる水深というのは決まっているものだ。

 かつてこの場所に町が出来る前、魚人たちはかなり水深の深い深海近くのエアドームの中んで生活していたという話だが、それはその場所が特殊な環境だった為に生きられていたのだと聞いたことがある。

 実際魚人の生息できる水深は最大でも500メートルほどであり、それ以上となると水圧に耐えられないそうなので、いくら改造されていると言ってもこの暗闇の深海の中に落としてしまえば二度と戻っては来られないだろう。

 魔法が使えれば別だろうが、コイツにそんな頭があるとは思えないしな。


 ただ1つここからNo.8を叩き落すのに問題がある、それはコイツが氷で包まれているという事だ。実は氷と言うのは水に浮いてしまうという性質がある。つまりこのまま叩き落しても途中で海面の方へと浮かび上がってしまうのだ。そうなると氷が解けたNo.8はそのまま泳いでこちらに戻って来てしまうので、それでは意味が無い。


 そこで俺のスキル『ロード』のレベル3追加オプションが役に立ってくる。

 実は先日得た追加オプションは『トンネル』だけでは無かった。そのもう1つの能力の名前は『ウォーターロード』、能力はそのまま水の道を作るという物だ。

 俺はこの能力を何の使い道も無いゴミ能力だと思っていた。人間は水の中で呼吸できないのだから、あっても意味が無いだろう?

 それが今こんな所で役に立つとは思いもしなかったよ。

 

『ウォーターロード』は中に水流が発生していて、その水流は速いもの遅いものまで自由自在に調節できる。ただし、速いと言っても時速100kmとかそこまでは出ないので、普通の魚人でも抜け出そうと思えば簡単に抜け出せるだろう。


 ただし、凍ってさえいなければね。


「もう戻ってくんなよNo.8! 落ちろッ!!!」


 レンコンを無理やり引き抜いて、No.8を水路に落とす。そして、そのまま水路に対して『ウォーターロード』を上書きし、同時に魔装で水を低温に保ちながら果ての暗闇に向かって流して行く、するとあっという間にNo.8は崖の淵辺りまで辿り着いた。後は海底に向けて水流を落とし込むだけだ。


「道が作れなくなるまで押し込んでやる!」


 そこから数十分の間、俺は『ウォーターロード』を作り続けた。その結果どこまで行ったのかはもうわからないが、これだけは言える。

 

 奴に会う事はもう二度と無いだろう。

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