第14話 領主の屋敷へ

「お嬢様、落ち着いてください」

「え? あ、申し訳ありません、アレン様。1人で舞い上がってしまって……」

「いえ、大丈夫ですよ」


 大丈夫だけど。これでまたお礼を断ったらさっきみたいな状態になるんだろうな。これはもう受け取ってしまった方が話がこじれなくて済むかもしれない。


「お嬢様、アレン殿に対するお礼の件ですが、やはり一度屋敷に戻ってからお決めになった方がよろしいのではないですか? アレン殿も今日はお疲れの様ですし」

「そうですね。アレン様、もし明日お時間があるようでしたら屋敷に来ていただきたいのですが、よろしいでしょうか? もちろんお迎えに来させていただきます」

「えっ?」


 ここにきて屋敷に招待だって? 確かにギルドでの事もあって疲れてはいるが、わざわざここに連れて来たのだから別に今話しても良いだろう。まさか何かあるんじゃないだろうな……。いや、考え過ぎか。


「別に構いませんが、俺なんかがお屋敷にお邪魔しても大丈夫なんですか?」

「もちろんです! むしろ是非!」

「では明日お邪魔させてもらいます」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 余計なことはせず金銭で解決しよう。その方が後腐れが無いし、面倒事も避けられるだろうからな。



 翌日。言われた通り、朝10時ごろに馬車が迎えに来た。


「アレン様ですね。お迎えに上がりました」

「はい、アレンです。よろしくお願いします」


 馬車は昨日行った冒険者ギルド前の大通りに出ると、一直線に町の中心に向かって行く。やはり領主の屋敷なので街の中心部に建っているのだろう。

 

 しばらくすると大きな壁と門が見えて来た。どちらもかなりの大きさだ、7,8メートルはあるだろうか。これを越えて侵入するのは手間がかかりそうだな。そんな予定無いけど。

 

 馬車が近づいて行くと門の横に立っていた兵士が巨大な鉄格子の門を素手で開け始める。

 おいおい、一体何キロあるんだって門なのに素手で開けるのかよと思ったが、よく見ればあの兵士達も普通の人間の体格じゃない。身長が2.5メートルぐらいで、筋肉がはちきれんばかりだ。


「でけぇ」

「あの2人は先祖に巨人族が居るらしいですからね。あれでも小さい方なんだそうですよ」

「巨人族……」


 巨人族というのはその名の通り、身長は大きい者で20メートル以上、小さくても15メートルはあるという人型の種族だ。

 俺たちが住む大陸では山間部や巨大樹の森などに住んでいて、現在ではあまり人間と交流していないと聞いている。だがまあ、こうして巨人の血を引く人間が居ることから考えると、昔は普通に交流があったんだろう。

 伝説ではこの世界のどこかに巨人族だけが住む島があるのだと言われているが、現在もあるのかどうかは不明だ。


「この辺りには少ないですが、巨人の血を引いている人間はわりといますよ。大きい人だと8メートルもある人も居ますからね」

「そ、そうなんですね」

「ええ、王都の騎士団副団長の方も確か巨人の血を引いていると聞いたことがあります。その方は剣で海を割ったことがあるそうですよ」

「海を割る!?」


 世の中にはとんでもない人間が居るもんだな、まさか海を割るなんて。しかもその人が副団長ってことはその上に団長が居るわけで。当然団長は副団長より強いだろう。団長は海どころか山でも切り飛ばすんだろうか。

 俺がいくらレベルを上げたところで、海を割ったり山を切り飛ばすなんて想像もできんし出来るとも思えんな……。もうこの事について考えるの止めよ。


 それにしても広い庭だ、門をくぐってから結構経っているのにまだ屋敷に着かない。目の前に屋敷は見えているが、見えてる屋敷の大きさ的にもう少し時間が掛かりそうだ。


「綺麗な庭だなぁ」

「毎日庭師が手入れしておりますからね。このお屋敷のお庭はお嬢様もお気に入りなんですよ」

「へー」


 綺麗に切りそろえられた植木と汚れの1つも無い噴水が常に手入れされているのをよく表している。こんな広い庭、どれだけの人員を使って手入れしているのか想像もつかない。


 屋敷の前に到着すると巨大な木製の扉が開け放たれた状態になっていて、扉まで続く石階段にはメイドさんたちがずらりと並んでいた。

 ちょうど馬車が横付けされた場所に立っていた初老の執事らしき人が、馬車の扉を開けてくれる。


「ようこそお越しくださいました。わたくしアレン様をご案内させていただきます、執事のアルフレッドと申します。どうぞよろしくお願い致します」

「アレンです。よろしくお願いします」

「ではご案内いたします」


 アルフレッドさんの後に続き広いエントランスに入ると、天井に輝く豪華なシャンデリアと両サイドに設置された2階へと続く階段が目に入る。

 右側の階段を上り、そのまままっすぐ伸びている奥への通路を歩いて行く間もそこら中なにもかもがキラキラと輝いていて目が痛い。

 

 それにしても屋敷を外から見た時も思ったが、建物の外見が巨大なぶん中もかなり広い。特にこの天井の高さ、10メートルぐらいはありそうだ。扉もどう見たって通常の人間サイズじゃない物がいくつも見える。


「こちらのお部屋になります。旦那様とお嬢様はただいまご支度をされておりますので、あちらのソファに座って少々お待ちください」

「あ、はい。分かりました」


 ん? 旦那様?

 ちょっと待てよ。今日会うのはお嬢様だけじゃないのか?


 てっきりお嬢様だけだと思っていたので少々焦っている。まさか領主様と会う事になるとは、こんな格好で失礼にならないだろうか。


 そんなことを考えていると、不意に部屋のドアが開く音がした。

 静かな部屋に「ガチャリ」という大きな音が響き渡る。回されたのは普通の人間サイズの扉ではなく巨大な方の扉のドアノブだ。

 無意識に何が出てくるんだと身構える。


「おお、すまんね。少々、遅れてしまった」

「もう! お父様のご支度が遅いからですよ!」

「ガハハ! めんごめんご!」


 部屋に入って来たのは昨日会ったオリヴィエ様と、そのオリヴィエ様がお父様と呼ぶ人物、つまり領主様だった。

 しかし、1つ不思議なことがある。

 どう見ても領主様身長5メートルぐらいあるんですけど! オリヴィエ様とサイズ感が全く合わないんですけど!


 ……もしかしてこれ夢かな?

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