第15話 報酬と夢の話

 夢じゃなかった。


「ガハハ! 私が領主のエウガスだ。君が娘を救ってくれたと言うアレン君かね?」

「は、はい、そうです。申し訳ありません、こんな格好で」

「よいよい、私は恰好など気にせんよ」


 大口を開けて「ガハハ」と笑うこの人が、この辺り一帯の領主『エウガス・ポティート』様らしい。

 俺のような町に住んでもいない一般庶民はまずお目にかかる事が無いので、領主様が巨人族の血を引いた5メートルの身長を持つ巨漢だとは全く想像もしていなかった。

 むしろオリヴィエ様の容姿から細身でシュっとした頭の良いダンディーなおじさまを想像していたので、まるでヴァイキングのようなむさいオッサンが出て来て混乱している。


「今日は娘を助けてくれたことへの礼と、報酬について話したい」

「はい」

「私としては報酬には金品をと思っておったのだが、娘からの話と提案で1つ考え直してな。聞けばアレン君は冒険者ギルドで不当な扱いを受け、ギルドに所属することが出来なくなったという話だったが、間違いないかね?」

「はい、契約の段階で書類に偽りの内容を書いたと言われて調べもされず憲兵に突き出されそうになりましたので、所属を断念しました」

「ふむ、娘からある程度の話は聞いておるが、念のため詳細を語ってくれんか?」

「承知しました。まず……」


 俺は領主様に冒険者ギルドであったことを説明していく。レベルの事、職員の女に虚偽報告は違反だと言われ弁明したが調べようともしなかった事、ギルド長が騒ぎを聞きつけて来たが同じように調べもせず虚偽だと言われ、憲兵に突き出すと言われた事。何もかも全て話した。


「なるほど。確認だが、アレン君のレベルは本当に202なのだね?」

「はい。調べてもらえば分かります」

「では調べさせてもらおう。アルフレッド、レベル測定器をここに」

「すぐにお持ちいたします」


 執事のアルフレッドは1度部屋から出て行くと、すぐに装置を持って戻って来た。おそらく予め用意してあったんだろう。改めてオリヴィエ様の『予知者』のスキルの凄さが分かるな。


 さっそくレベル測定器を使うのだが、この装置でレベルを測るのは非常に簡単な操作ですむ。まず、ディスプレイをタッチして操作パネルを開く、すると検査用に血液を採取する受け皿が装置に現れるので、そこに血をたらした後、ディスプレイに表示されている検査開始のボタンを押せば完了だ。

 やけに近代的と言うか元の世界のタブレットに近いように見えるが、これは別にこの世界の人間が作った物ではなく、大昔のある時代から神によってもたらされた神器なのだそうだ。


 教会の偉い人が大聖堂で祈ると、翌日祭壇に現れるという何とも不思議で神秘的な装置。これの仕組みを解明しようとした学者が昔いたらしいが、そいつは天罰を受けて消滅したんだとさ。おお怖っ。


「測定完了しました。レベルはアレン様の言う通り202と出ております」

「うむ、確かに202だな。アレン君、我が町のギルドの者が済まなかった。この事は私からギルド本部に報告して処分してもらう事にするよ」


 そう言われても今更もうどうでもいいと思っていたので頷くことしか出来ない。

 それより問題はこの後だ。さっさとお金を受け取ってこの屋敷からおさらばしたい。

 いや待て、そう言えばさっき領主様が金品ではなく他の事にするみたいなことを言っていたような気が……。


「アレン君、それで報酬なんだがね。さっきも言った通り娘の提案を聞いて考え直したんだ。ギルドに所属出来なくなったなら働き口が必要ではないか? そこでだ、我が伯爵家で雇われるというのはどうだろうか」


 ほら、いやな予感は当たるもんだ、伯爵家で雇われるだって? 冗談じゃない! そんな事になればこの町から離れられなくなってしまうではないか。これじゃあ報酬じゃなくて苦行だよ!


 何とか断れないか。いや、もう提案されてた時点で無理か。 

 もうこうなったら条件を付けよう。じゃないとやってられない。


「雇われるのは構いませんが、1つ条件があります」

「ほう、条件とな」

「私はスキルの関係上、より遠くに行くことを目的として冒険者という職業を選びました。冒険者になれなくなった今となっては運び屋でもしようと考えておりましたが、もし伯爵家で雇われるという事であれば、そのような遠出をする依頼を受ける便利屋のような扱いにしてほしいのです」

「お父様、私からもお願いいたしますわ! アレン様のスキルは本当に凄いのです。アレン様がそうしたいとおっしゃるのであれば、そのようにして差し上げてください!」

「ふむ……」


 オリヴィエ様、ナイス! しかし、領主様は何やら考え込んでいる様子だ。少しだけ場に緊張が走る。


 ここでその条件は駄目だと言われても俺はどちらにしろ断れない。ポティート領にはもちろん俺の村も含まれているから、母さんたちに影響が出ないとも限らないからだ。

 ここまで話してみての感想としては領主様はそんな事をするような人とは思えないが、貴族相手に油断するのは愚の骨頂。何も起きないように対処しておかなくては。


「聞くが、アレン君のスキルはどんなものなのかね?」

「俺のスキルは『ロード』と言ってただ道を作るだけのスキルです。スキルの内容としてはこんなものですが、俺にはこのスキルを使って成したい夢があります」

「夢か」


 このスキルを得てから皆に哀れみの視線を向けられたり馬鹿にされたりしてきた。だが、このスキルのおかげで俺は自分に新しい可能性を見い出せたし、何より俺の作った道を通って歩きやすくなったと言っていた薬屋の婆様の言葉が心底嬉しかった。

 だから俺は、前世でも碌に持つことが出来なかった『夢』を抱くことが出来たのだと思う。


「俺の夢は、この世界に存在するありとあらゆる道を『俺のロード』に作り替えていくことです。こんな夢、誰に言っても馬鹿にされるかもしれませんが、夢を見ることに他人の意思は関係ない。俺が見たいからこの夢を見るんです。そのための枷となるなら、どんな事であろうとも受け入れるわけにはいかない」

「……」


 しまった! 興奮して途中から敬語が抜けてた。だがこれが偽りない俺の本心、何を言われようと今更取下げるつもりは無い。


「あい分かった、アレン君の要求を全て呑もう! だがこちらの依頼はちゃんとこなしてもらうぞ」

「はい、もちろんです! ありがとうございます!」


 良かった。これなら雇われても夢に向かって進めそうだ。


「すべての道を己の『ロード』に、素晴らしい夢ですわアレン様! ではアレン様の夢がかなった際には、アレン様はすべての道を統べる道の王、『ロードキング』ですね!」


 『道の王ロードキング』か。

 

 ……ちょっといいかも。

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