第6話 天才の苦悩

 知ってた。

 凛花の気持ちは俺に向いてない。

 いや、''もう''向いていない。

 小学校の頃、初めてできた友達の凛花と拓磨。

 最初拓磨は友達のいない俺に気を遣って溶け込めるように勝負だのなんだの難癖つけて構ってきてくれてるものだと思ってたけど、1ヶ月も一緒に過ごせば拓磨が凛花の気を引きたいだけの馬鹿だったとわかった。

 そして、そのあと3人で過ごすようになってから凛花も俺に対して好意を持っているのだとわかった。

「颯斗はさぁ、天才だなぁってずっと思ってたけど天才でもあるし物凄い努力家でもあるよねぇ。この前も練習終わってから1人残ってずっとピッチングの練習したり素振りしたりしてるのを見てさ、もっと颯斗のこと好きになっちゃった!…あっ!好きってあれだよ!?あの…す、好きって言うのは…そう!友達!友達としてね!尊敬できるなってこと!変な意味じゃないからね!」

 この時初めて自分のことを見てくれる人ができたと思った。

 褒められたいから努力してるわけじゃない。そう言い聞かせて頑張ってもいつも『天才だから』で片されていることは悲しかった、誰も俺自身のことを認めていない気がしていた。だから、初めて努力を褒められたことが嬉しかった。初めて天才の如月颯斗じゃなくて『如月颯斗』1個人として見られたことが嬉しくて凛花に俺も惹かれていった。

 俺は拓磨が凛花のことを好きなのも知っていた。でも、凛花が俺のことを好きだったことも知っていた。

 だから、甘えた。

 好きな人と親友と3人で過ごせる時間が大好きだったから甘えた。いつか、凛花が告白してくるかきっかけがくれば付き合えばいい。そう考えるようになっていった。

 中3になるともう、凛花の気は俺にはないことがわかった。いや、本人も、恐らく拓磨もまだ凛花は俺のことを好きなんだと思ってただろう。

 でも違った。2人でいる時に拓磨のことを話す目。拓磨と話す時の表情。拓磨を見つけた時の反応。全てが物語っていた。

 同時に怖くなっていった。2人が両想いになってしまった。自分の居場所がなくなってしまう。甘えていた結果、親友も好きな人も両方失うことになって孤立してしまうかもしれない。

 だから、凛花が自分の気持ちに気づいてないうちに告白することにした。

 でも、その結果大好きな2人を苦しめることになるなんて思ってなかった。

 拓磨が自分の気持ちを押し殺して祝福してくれてる姿を見るのは罪悪感で押しつぶされそうになったし、自分の気持ちが余計わからなくなってため息や暗い表情ばかり浮かべる凛花を見るのは胸が締め付けられる想いになっていった。

 どうするのが正解だったのか…今でも俺はわからない。






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