第3話「犬と猿と記事。」
部室に入ってきたのは二組の
鳩山は「ん?」と首を傾げる。
「なんだ。ウチに用か」と問うと、猿中はキィーキィーと笑った。
猿中は甲高い声で笑うことでクラスメイトの女子からは嫌われていた。
「なんだかんだじゃありませんよぉ、ダンナ。エゲツない事態になってますよ。アンタのばら撒いた記事のせいで」
「俺の記事?どういうことだ」
「ダンナが噂の“タカ”じゃないんですぅ? クラスでは話題になってますよ。獅子田会長を鳩山さんが裏切ったって」
手もみしながら猿中は言う。
鳩山はあまりのことに目を見開いた。
「は? 俺が? なぜ、俺が会長を裏切る必要がある?」
「そりゃ……ねぇ」
猿中が指で円を作る。
「バカ言え」
否定すると、同時に犬飼がムッとした。
犬飼と猿中は非常に仲が悪い。
まさしく犬猿の仲であった。
「冗談ですよぉ〜、ダンナ。そんなことよりも早く“タカ”のヤツを捕まえてくださいよぉ。でなきゃ、オイラの仕事がなくなる」
「……今は残念ながら仕事がない。どこもかしこもヤツの話題でつきっきりだ」
「いいんですかぁ? オイラがアンタらに様々な情報をリークしてるってことを“タカ”のヤツに伝えてしまって。寝返っちまいますよぉ?」
「バカはよせ。お前が“タカ”に関する有益な情報を握っているとでも? 誰も正体を掴めていないんだぞ」
「ふんっ、オイラを舐めないでくだせぇよ」
手もみしながら猿中は言う。
鳩山は相手にしようともしなかった。
「やめろ。お前はそういった嘘の情報を売りつけて、一度問題になったことがある。お前との契約は終わったんだ。とっとと消えろ」
「ひでぇなぁ……。ひでぇひでぇ」
猿中がポケットからボイスレコーダーを出してくる。
今までの会話を録音していたらしい。
「あんまり調子に乗らないほうがいいと思いやすよ? 一応、オイラも“タカ派”なんで、生徒会長が姿を見せないのなら、新聞部をターゲットにしてもいいんですから。それが嫌なら連絡をくださいね。久々に食堂の菓子パンが食べたくて仕方ねぇんで」
猿中はそういって、ルーズリーフの切れ端を鳩山の机に置き、さっさと出て行った。
脅しということらしい。
「……自分勝手なヤツだ」
「だから、アイツと関わるなと言ったじゃないっすか」
犬飼がイヤホンを外す。
会話に入ってこなかったのは音楽を聴いていたからであった。
「で、調査はどうします? 怪しいと思うのなら、自分の足で行くのがジャーナリストじゃないっすか」
「茶化すな」
鳩山が学生鞄を手に持つ。
ブレザーを羽織って、胸ポケットにメモ帳とペンを入れる。
「何人かアポを取ってみよう。お前もある程度終わらせたら終業チャイムで帰宅しろよ」
「あいよ」
部室を出て行く。
メモ帳にはある人物の名前が書いてある。
二年前、生徒会長選挙で獅子田と争って、惨敗した男。
「……
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