死にたがりの彼女がコロナにかかった。

首領・アリマジュタローネ

死にたがりの彼女がコロナにかかった。



 死にたい、を口癖にしていた彼女がコロナに感染した。パンデミックとでもいうのか、世界中で大流行している話題の病気であった。


 正直「ざまぁねぇな」と感じた。

 生きたがってる人間に謝れとずっと思っていたからだ。


 マッチングアプリを通じて出会った彼女は、相手に依存しがちで、事あるごとに情緒が不安定になり「死にたい」とSNSに書き込んでしまうような人間だった。

 元々対人関係では苦労していたようで、大学を中退してからはずっと実家に引きこもっていたらしい。

 今は、一人暮らしをしているが。


 彼女はいつも死にたがっていた。

 いつだって「死」を欲していた。死に対して憧れを抱いていた。死が好物で、死にまみれていた。


 いや、そんなハイカラなものでは決してない。

 単なるメンヘラな死にたがりである。


 死にたがりの女を俺は嫌いだった。

 死んで欲しいと思うくらいに嫌いだった。


 彼女が死にたがる理由は知っていた。誰よりも生きたがっていたからである。

 生きたいと願うからこそ、死を望んでいるのだ。


 残念ながら俺にはその感情が理解できない。

 俺はただ、生を受けたからこそ、その毎日の平凡さに感謝をしながら歩んでいるのである。

 自分から人に嫌われるような行動をして、死にたがる理由は訳がわからない。


 大概は拗ねなのだろう。拗ねているからこそ、そうやってパフォーマンスをしているのだ。誰かに励まして欲しいから。相手にして欲しいから。


 恋愛が上手くいかなくなると「死にたい」

 学校や職場や部活で嫌なことがあると「死にたい」

 人間関係がうまくいかないから「死にたい」お金がないから「死にたい」寒いから「死にたい」頭が痛いから「死にたい」生理だから「死にたい」好きな人に振られたから「死にたい」給料が安いから「死にたい」嫌いな上司に怒られるから「死にたい」お酒を辞めれないから「死にたい」ギャンブルを辞めれないから「死にたい」寂しいから「死にたい」悲しいから「死にたい」何もうまくいかないから「死にたい」


 死にたい、死にたい、死にたい。


 兎に角そんなことばかりを言っていた。


 コロナがどういう病気なのかに興味はないし、正直どうでもよかった。

 大袈裟すぎだろうと思うこともあれば、感染したらどうしようと考えることもあった。

 だからマスクはせずに外出していた。

 彼女もまた同じくマスクをしていなかった。


 俺は病気なんか怖くないからマスクをしていなかった。

 ただ彼女は病気になりたくて、わざとマスクをせずに外出をしていた。


 人混みの多いところに俺を連れ出して「あはは、これで私の人生も終わりだー!」と両手を広げて高笑いをしていた。

 わざと電車で大きな咳払いを何度も何度もしつこいくらいにして、遂には過呼吸になったフリまでして、周囲の目を向けていた。

 心配して欲しかったのかもしれない。

 周りに。そして俺に。



 だから俺も彼女の望む言葉をかけていた。



「死にたいだなんて言わないで」

「君が死んだら悲しむ人がいるから」

「苦しいのは君だけじゃないよ。みんな苦しんでる」

「辛いよね、わかるよ。うんわかるわかる」

「どうやったら強く生きていけるか一緒に考えていこうね」

「支えてあげるから、死なないで」

「助けてあげるから、死なないで」

「死なないでったら死なないで」

「前向きに生きていこうね」

「嫌なことばかりじゃないよ人生は」

「俺は君に生きててほしいよ」



 だなんて思ってもいない言葉を何度かけたところで、この子は後々になってから「やっぱり死にたぁ〜い……」と声をあげて泣き出すもんだから、そろそろ俺はこいつ死なねーかなと思い始めていた。

 めんどくさかった。



 そして遂に彼女がコロナにかかった。

 嘘か本当かは知らない。ネットニュースは見てないし、本人の申告だから知らない。


 熱が出て咳が出て、しんどいと語っている。

 正直「ざまぁねぇな」と感じた。


 ※ ※ ※ ※ ※


『助けて』


 とメッセージが送られてきた。


 俺は既読無視した。どーでもよかった。


 さっさと死ね、と思っていた。


 マッチングアプリで知り合って、一度だけ身体の関係を持って、付き合っているのか付き合っていないのかよくわからない状態になってきたもんだから、いい加減自然消滅を狙おうかなと思っていたところでこれだった。

 知ったことではなかった。

 俺は俺のことで手一杯だった。


 死にたがりの世の中に俺は飽き飽きしていた。

 そんなに死ぬのが怖いのかと正直感じていた。

 病気になればその時だし、死ぬのならそこまでである。


 俺の好きな某少年海賊漫画に緑の剣士が出てくるのだけど、彼が言ったセリフがとても印象的であった。



『災難ってモンは畳みかけるのが世の常だ。言い訳したらどなたか助けてくれんのか?』


『死んだらおれは……ただそこまでの男』


『おれは一生神には祈らねェ』



 大学を留年したと同時に母が倒れて中退を余儀なくされて、必死に働いたのにブラック企業でモラハラ上司にいじめられて、こんてんぱんにやられて、転職をして、そこで出会った女の子と付き合うけど浮気をされて、失恋をして、心が折れそうになるのをなんとか抑えながら、今は会社員としてそれなりに生きてきた。マッチングアプリで現実逃避をしたけれど、それでも自分の足で一応は立ってきた。


 それなのにこの女は俺にすがるばかりで、現状を嘆くばかりで、辛い辛いと喚き散らしていたら、何か好転するんじゃないかと思い上がっている。正義の味方なんて現れやしないのに、奇跡なんて起きやしないのに、何もしてないのに漫画みたいに人生が、急に世界が、突然変わってしまうなんてあり得ないのに、膝をついて口を開けて甘い蜜だけを味わおうとしている。


 死んで欲しいと心の底から思ってる。

 お前なんて一生そのままだと言いたくなった。


 人に何かを求めるだけで、自分は何も与えもしないのに、貰おうとしてばかりで、見返りばかりを求める関係に一体なにがあるのだろうか。

 だからお前は独りぼっちなのである。

 だからお前は孤独に死んでいくのである。

 だからお前は世界から忘れ去られて、捨てられていくのである。


 あー、ホントざまぁねえな。


 ※ ※ ※ ※ ※



『これがね、すごく楽しいんだ。ぷークスクス』



 女の趣味はSNSで批判的なツイートをする人間をただ攻撃的に煽ることであった。

 お前馬鹿じゃねーの?と言ってる奴に「お前の方がバカだよ死ね」と言う遊びなのだと言う。


 なんでそんなことをやってるの、と聞くと、彼女はこう語っていた。



『だって、人を傷つけてる人間って最低じゃん? 拳銃を撃っていいのなら撃たれる覚悟をしないと』



 真顔で答えているこの子の言葉は完全に嘘だと直感的に感じていた。

 これは単なる嫉妬で単なるストレス発散でしかなかった。

 自分の行為を正当化しているだけで、ただ自分の存在を主張を世界に知らしめることにより、己が価値のある存在だと思いたくなっているだけだった。

 ただただ哀れだと感じた。

 


『有名人の不倫なんてどうでもいいのにさ、ギャーギャー喧しいじゃん。世論って。不成功者の妬みっていうの? 愚かだよねー』


『つまんない映画にだってそれなりに価値があるのに、作っている人間の苦労なんて知らずにさ、ただただ一方的に[こんなつまんねぇモン作って金儲けしている製作者は死ね]って、それはクリエイターに対する冒涜だと思うんだよね。お前が作ってみろよ、と。匿名でイキリやがって』


『だから私が正義の鉄槌を喰らわしているんだよ。人を傷つけるツイートをしてバズっている人間を、人を傷つけて遊んで炎上芸で金を稼いでいる人間を、そのコメント欄で煽っている人間を、その全てを攻撃することによって、世界に“正義”とは何かを思い知らせるんだ』


『この世はみーんなクズばかり。だから、私が何をしたっていいじゃない。私よりも最低なクズはいるんだしさ。死んだほうがマシなクズが』



『──君だって、そう思うでしょう?』



 一応は首を縦に振っておいたが、内心では『どーでもいい』としか思っていなかった。

 これは即ち相手の意見に興味があるとかないとかそういう話ではなくて、ただ単にそこまで考える気がなかっただけである。

 主義主張なんてどうでもよくて、感情でただ単にコイツの言ってることなんて嘘まみれだ嫌いだと判断しているからこそであった。正義なんて言葉で取り繕ってる彼女を卑怯だと感じていた。


 平凡に温厚にみんな仲良く平和的に生きればいいのに、彼女はいつだって協調性を乱してきた。

 こんな人間は排除されて当たり前だと感じていた。



 そして先日彼女は話題の病気に関してこんなことをやり始めた。



『絶対さ、コロナに対してみーんなよくわかっていないよね。ただネットニュースやマスコミの報道するよくわかんない曖昧な情報に踊らされてさ、大袈裟に心配しているだけだよねー。情報弱者ばっかり』


『政府が休学とかしちゃってるけど、そんなに死ぬのが怖いの? 私にはよくわかんないけどさー、病気なんて歳を重ねればなるものなんだから、なったらそのときだと思わない? 私、生には無頓着だから、いつだって死んでもいいと思ってるよ。えへへへへ、コロナなんか怖くないし』



 自慢げにマスクのない顔で笑みを浮かべる彼女を見て、強がりだなと思ったけど、もう口に出すのも億劫だったから笑って誤魔化しておいた。


 隣を歩く彼女に合わせてマスクをせずに、人混みの中を歩き回った。

 人の群ればかりを追っていた。

 感染者が現れた都心部を狙って、一緒にデートをした。


 病んでる彼女は自ら病気になりたがっていた。

 そんな彼女を見ながら、俺はこんな人間にはならないでおこうと、マスクのない顔で隠れて口角を上げて、首を掻いていた。


 ドアノブを触りまくって、手洗いもうがいもせずにアルコール除菌なんてせずに、人混みの中を歩き回った。


 マスクを付けた人々を見つめながら、彼女は「みーんな必死すぎwww」と腹を抱えて笑っているのを、俺は隣で声を潜めて「哀れだなぁ」と内心ほくそ笑んでいた。


 哀れでしかなかった。



 そして、彼女はコロナにかかった。

 本当に、滑稽だった。



 ※ ※ ※ ※ ※



「本当に、辛いの。ゴホゴホ……! 咳が止まらなくて、熱が出て、クラクラするの。助けて……。死にたくないの」



 リビングの襖は締め切られていた。

 マッチングアプリで出会った彼女は名前すらも教えてくれなかったけど、住所だけは教えてくれていた。

 一人暮らしを始めた理由を、彼女は「甘えを捨てるため」と語っていた。

 親の援助を捨てて、一人で生きてみたかったらしい。


 いや、それは違うなと感じていた。

 それは単なるポーズで、単なる自暴自棄の一つでしかなかった。



「親からもね……勝手をしすぎて助けてくれなくて、もう君しか頼れる人はいないんだよ……。お願い! どうにかしてよ! 怖いの……エホッ」



 襖を開けようとは思わなかった。病人と同じスペースに入ると、自分も感染してしまう危険があるからである。

 だから俺は襖に手を当てて、ゆっくりと語り始めた。



「知ったこっちゃねえな」


「え?」


「お前が死のうが、俺の人生には全く持って無関係だ。無価値だ。どーだっていいし、興味もない。むしろせいせいしているくらいだね」



 いつもなら『そんなこと言わないで』と優しく声をかけていたが、不思議とその時は本心を告げてしまっていた。

 ああやっとこの子に本音をぶつけられると思ったら、心がスッキリした。



「ははは。良かったじゃん? 死にたかったんだろ? 君がそうやって望んでいたじゃないか」



 片手を腰に添える。



「誰かが自殺したときに『写真を撮る奴は最低だ』って、わざわざ自殺現場に出向いて、写真を撮ったやつを晒し上げにして遊んだりしてただろ? あれは最高に不愉快だったね。今から、俺もお前の顔をネットに晒して『メンヘラ構ってちゃんがコロナになりました。ざまぁねえ!』と記事の見出しにしてやろうか? 自殺現場に出向いて、彼女たちがどういう苦しみを抱えていたんだろう、と首を捻って、命の尊さを考えるフリをするのはそんなに楽しかったか? どーせ、君のことだからあいみょーんの曲にでも影響されたんだろう?」



 襖の奥から鼻をすする声が聞こえて来る。

 これもまた嘘だ。

 彼女は偽コロナに発症しているだけ。


 虚言癖のある炎上マニアだ。信じちゃいけない。



「親からの援助が尽きたって、当たり前だろ。奨学金で好き勝手に遊んでいたんだろ? 人生から逃げて、甘い汁ばかりをすすってきて、こっちが必死に汗水流して働いてる最中、お前はマッチングアプリで依存先を探していたんだろう? ざまぁねえな! 男からのいいね!を待っている日々は楽しかったか? んん? 女は無料で遊べるからなぁ。男は有料なのにさぁ、ずりぃーよなぁ。デート代だって、全部こっちが負担してさぁ。アホらし」



 口角を思い切り、釣り上げる。



「お前なんてさぁ! さっさと死ねよ。気持ち悪いんだよ、メンヘラ女が。産んでくれたことに感謝することもせずにさぁ、今更生に執着するだなんてみっともねぇーんだよ。それを望んでいたんだろ? みんなが大騒ぎして、コロナに対する脅威を恐れていたのに、お前だけは呑気に『いいネタができた!』と流行に便乗する女子高生のように、バカッターのノリを永遠に俺と楽しんでいたじゃないか? そのツケが回ってきたんだよ。わかるか?」



 言ってるうちに、どうしてか俺も死にたくなってきた。



「ははは! ざまぁねぇな! 本当にお前って惨めだよなあ。どーせ『肝心なときには何もしてくれないのね……』と被害者ヅラをして、悲劇のヒロインぶるんだろ? 今はその気分か? わかるんだよなー、お前の考えていることくらい。だから、俺はお前を見捨てるんだよ。お前のことなんて大嫌いだから、死んでもいいと本気で思っているから、こんな酷い行為ができるんだよ。よく考えてみろよ、俺がお前に何をしてくれた? 最初に会ったときにセックスしたくらいじゃないか。そこからはずっーと俺はお前のおもちゃ。都合のいいおもちゃ。あーー、腹立つなー、マジで」



 あまりの苦しさに吐きそうになった。



「俺は女が嫌いでさぁ、本当に大嫌いなんだよなぁ。いいよなぁ、女ってさぁ。選ばれる立場でさぁ。浮気されてさぁ、どーでもよくなったわマジで。ホント腹立つなぁー。好きだった女だったのにさぁ、俺のネガティブさや卑屈さが原因でさぁ『君と付き合っていてもメリットがない』だのと浮気の言い訳をされて捨てられて、ホントムカつくわマジでさぁー。不倫した芸能人は叩かれて当然だろ。それだけの行為をしてるんだからよお。なぁ、聞くんだけど何がいけないの? 有名人を攻撃して何がいけねーの? 別によくねー??」



 俺も充分、歪んでいた。



「必死に生きてきてさぁ、我慢してきてさぁ、この仕打ちはないだろマジで。なぁ、一番辛いのってなにか知ってる? 『なにも与えられない』ことよりも【与えられたモノを取り上げられる】ことなんだぜ? こっちは幸せになろうってしてるのに、全然幸せになんかならねぇんだよなぁ。産んでくれた親に感謝しようって、んなこと確かに難しいよなぁ。俺もさ、親のせいで大学を中退せざるを得なかったから。悔しかったよ。苦しかったよ。ちゃんと卒業してたら、もっと良いところに就職できていたのかなぁって……」



 涙が出てきた。



「ははは……!! 生きるのは辛いよなぁ! 日本は幸福度指数が低いんだろ? そりゃそうだぜ。こんなクソみてえな世の中、誰だって嫌になるわ。みーんな異世界に逃げたがってる。どこかに避難したがってる。政治が悪い、芸能人が悪い、となにかのせいにでもしないと、病気や災害が怖くてしょうがねぇんだよなぁ!? ははは、コロナにコロッとやられるのか? それもいいかもしれねぇーな! 生きたがってる人が世の中にはいるのに、お前はそれを台無しにして、死にたがっていたもんなー! 自業自得だっつーの!!」



 これも八つ当たりでしかなかった。



「ははは……。ははは、死ねよ、お前なんかよぉ。死んでしまえよ。全部滅びて、消えてなくなっちまえよ。俺にすがるんじゃねーよ、俺に頼るんじゃねーよ。俺なんかにお前は救えねーよ。コロナは病院行っても治療法が見つからないから、お前はその誰もいない部屋の中で泣きながら恐怖と苦痛に耐えながら、自らの行いを恥じて、死んでいくしか道はねーんだよ。そこは刑務所だ。この国では一度の失敗を犯せば、もうやり直すことなんてできない。おさらばだ。病は気からだって言うけれど、その気力も残ってねーんだろ?」



 コンコンと襖を叩いて、俺は部屋から立ち去ろうとする。

 そこにはドラマチックな展開なんてない。

 感動的な演出もなければ「だったら生きて見せろよ!!」だなんて、物語の主人公ぶったセリフを言うつもりもない。

 終わるだけ。このまま関係は終わるだけ。

 名も知らぬ死にたがりの女とのーー自暴自棄の関係がーーここで終わるだけ。



「──勝手に生きて、勝手に死ねよ。じゃあな」



 最後に少しだけカッコつけた言葉を吐き捨てて、俺は玄関のドアノブに触れて、部屋から立ち去った。

 今日だけはマスクをしていた。


 己が、誰よりも強く生きたがっていることをようやくそこで改めて知ることができた。




 ※ ※ ※ ※ ※






 数日が経って、マッチングアプリを開いたが、女は【退会中です】と表示されていた。

 LINEも本名も教えてはくれなかったので、本当にここでお別れなのだと知った。



 いつもの駅から電車に乗って、スーツに身を纏いながら、いつもの道を歩いてるとき、ふと頭がぼーっとするのがわかった。

 クラクラして、乾いた咳が出てくる。

 鼻水が出てくる。

 花粉症か風邪だろうか。



「あー……やべえかも。ゴホッ」



 立っていられなくなって、俺はその場に座り込んだ。

 思い当たるフシはたくさんあった。

 流石に笑えなかった。


 緑の剣士が語るような『死んだらそこまでの男』とは思っていた。

 だが、そんなことを考える余裕なんてなかった。

 本当になかった。

 ただ、ただ、苦しくて、その瞬間、自らの行いを恥じた。


 死にたがりの女に助けを求めたくなった。でも、あいつの連絡先すらも知らない。

 俺の苦しみがわかるのはアイツだけだし、アイツの苦しみをわかるのも俺だけだった。


 共依存の関係でも良かった。アイツしか俺には友達がいなかった。頼れるのはアイツだけだった。


 ……でも、その関係すらもくだらないプライドから捨て去ってしまった。そのことを後悔することもなく、記憶から消してしまっていた。

 アイツが一番苦しんでいるときにその状況を嘲り笑って、見捨てた。

 俺の行動も、自業自得でしかなかった。


 ごめんなぁと告げたくなったが、そんなのは都合のいい言葉に過ぎなかった。

 これが俺の人生でアイツの人生だった。


 罰を受けるべきであった。




「ははは、笑えねーな……ゴホッゴホッ! エホッゴホホッ!!」




 視界が霞み、なにも見えなくなった。


 遠くの方で神様が「ざまぁねぇな」と笑っているような気がした。


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