作家vs作家。

首領・アリマジュタローネ

作家vs作家。


 ①


「やうやう。お待たせしてすまなかったねえ。ちとバスを一本乗り遅れてしまった! すまないすまない。自宅を出たのが12時半過ぎで、ここまでは約20分で到着するのだが、おやおや約束の時間である13時から15分も経過している。……困ったねえ。しかしだね、駅前はどうしてこうも混雑をしているのかねえ。今って緊急事態宣言が発令中ではなかったのかい? 自粛しろとあれほど言われているのに愚かな民衆は……。ああっと! すまない、申し遅れた。ボクが──“アザミ”だ。キミが、DMをくれた山田くんかな?」


「ええ、お会いできて光栄です。アザミ先生」


「ああ!先生だなんてよしてくれよお山田くん。キミだって作家の端くれなんだろうお? とりあえず座りたまへよ。お待たせして本当にすまなかったねえ」



 会って数秒で『普通の人間ではない』というのは理解できた。アザミが喫茶店の扉から店内に入ってきて周りを見回しているのを気付いたときから、私は一瞬手を上げるのを躊躇してしまった。私からアポを取ったのにだ。


 アザミが特殊な人間だと言うことは普段のSNSのやり取りからも薄々感じ取れてはいた。言葉遣い、物の見方、発想力、それら全てが普通ではないのだ。どこかに引っかかりを覚えてしまう。そこに魅了されてしまった。


 だが、それは間違いであった。


 百聞は一見にしかず。僅か数秒対峙しただけで、関わってはいけないタイプだと身体が警鐘を鳴らしている。危険だ……この人は。何を考えているのかわからなすぎる。正直、かなり怖い。



「なんの液体を摂取するんだい。山田くんは?」



 冬場なのにダルダルの半袖Tシャツを着たアザミは骸骨のような骨格を見せながら、ロン毛の間から目を出した。ギョロリとこちらを覗き込んでいる。

 《深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている》とは、まさしくこのことなのだろう……。

 尊敬が失望に変わりかけている。



「この店ではコーヒーがおかわり自由になっていまして」

「ああ、そうなのかい。でもボクはお水でいいや。カフェインは取りたくない主義でねえ」

「そうなんですね。でも、このお店のコーヒーとても美味しいですよ? 250円と安くて、私とても好きなんです。駅からも近いですし、それに」


「聞いていない。山田くんキミはこのお店の回しモノかい? 要らないと言えば要らない。一度言ったことを何度も繰り返して言わせないでくれたまへよ」



 私の言葉をアザミが遮る。



「いいかい? 山田くんよく覚えておきたまへ。ボクはね、過剰な宣伝ーー所謂キャッチコピーというのが嫌いなんだよ。『全米が泣いた』なんて言葉を掲げられたりなどしたら『全極東が笑う』ね。品質が保証されていようがそんなことはボクにとってはどーでもいい事象さ。『食べ放題』や『飲み放題』……そんなのはね、プロパガンダだよ。アテにしちゃいけない。キミも作家の端くれであるならば“意思”を持ち給え」


「ご鞭撻ありがとうございます。確かにおっしゃる通りですね。そうしましたら、私は“コーヒー頼もう”と思います」


「強気だねえ」



 店員さんがやってくる。私がコーヒーセットを頼むと、アザミは何故か「同じものを」と人差し指を立てた。理解ができない。



「キミの強い意志に降伏してねえ。せっかく喫茶店に来たのだからコーヒーを頂戴しないと損じゃないか」



 へへへ、と笑ってアザミは手元にあった水を飲んだ。私はむっとなる。


 アザミがテーブルを叩く。



「本題に入る前に少し語ってもいいかい? あまり人と交流しないものだからインプットが溜まっていてねえ。喋りたくてしょうがないんだよお」


「全然構いませんよ。貴重なお話をしてくれるのであれば」


「貴重も貴重! 大貴重! お金を取りたいくらいにねえ」


「ファンですから無料でお願いしますね♡」


「仕方ないなあ。でも、山田くんは聞き手としては優秀そうだから話甲斐がありそうだあ」


 

 アザミが一息をつく。



「えほえほ、ごほん。いくよー」





「まずはじめに聞きたいんだけども、山田くんはどういう作品を好むんだい?」


「私ですか? 私はエンタメ系ですかね」


「ほう興味深い。好きな作家さんとかいるのかな?」


「勿論、アザミさんの作品はとても好きですが……でもどちらかと言えば作者で選ぶというよりかは作品で選ぶって感じですね。ジャンルとしてはエンタメに偏りがちです。アザミ先生は?」


「好みというと難しいねえ。でも幼い頃から活字の海で泳いできたから基本的には愛読しているよ。時間が足りないくらいだ」


「おすすめとかあれば教えて頂きたいです」


「自作品」


「以外で」


「ははは。キミはなかなかにおもしろい」



 そうやって喋っているとコーヒーが運ばれてきた。

 私はコーヒーにシロップを三つ、ミルクを一つ入れた。アザミはその様子をまじまじと眺めていた。



「甘党なんだねえ」


「最初だけですよ。徐々にブラックに近づけていきます。シロップ三つ入れたら次は二つ。次は一つというように数を減らしていきます。ミルクは固定で」


「ほう興味深い」



 アザミの口癖がなんとなくわかった気がする。



「てか、私の話ではなく先生の話を聞かせてくださいよ! 今日は先生の全てを盗みにきたんですから!」


「盗む!?」



 アザミが驚いたように目を見開いた。

 口もぽっかり開けている。



「まさか、キミは盗みにきたのかい? ボクの知識を泥棒しにきたのかい?」


「ええ、そうですよ。気付きませんでしたか?」


「かぁーっ。そうだったのかい。金庫にはちゃんと鍵をかけておくべきだった。ふーむ、泥棒さんか」


「コンコンコン、泥棒でーす」



 コーヒーを飲む。甘くて美味しい。



「泥棒しに来たと言い張る人にわざわざ金庫の暗証番号を教えたくはないけれど、キミがボクのファンだって言うのであれば目を瞑ろうじゃないか」


「ありがとうございます」


「すまないねえ。先程までキミを資本主義の奴隷だと誤解していたがそれは間違いだったと訂正しよう。ミーハー人間は嫌いでねえ。やはり高尚でなくては」



 アザミはなかなかコーヒーに手を付けようとしなかった。まあ、最初から頼む気もなかったのでこの結果は想定の内ではあった。



「無駄なものを省くってのは創作も同じさ。作品内に余計な文章が多くあっては読者は混乱してしまう。状況説明は端的に。直接的表現は控えて。そして何より想像の余白を与えなくてはならない。作品というのは鑑賞者のもの。表現者は鑑賞者がいてようやく成り立つ」


「なるほど」


「今流行っている漫画があるよねえ。鬼を狩る少年の物語……名前はえぇーっと、忘れたが、この作品の作者もあくまで裏方に徹しているよねえ? あのスタンスを全表現者は見習うべきだ。創作者が前に出過ぎてはいけない。独りよがりは絶対あってはならない」


「そうですよね」


「あと、最近の“らいとのべる”というのかい? ああ、いうのもあんまり好きじゃないねえ。リアルさが足りていない。思わないかい? 今どき女子高生が『かしら』なんて語尾を使って会話をしないよねえ? みんながみんなネットで見かけるような常套句を並べ立てて、大喜利で考えたような夢みがちな設定を使って、二番煎じの駄作を生み出し続けている。……全く恥ずかしくはないのかい。作家としてのプライドがないのか?とつくづく思うよ。ちゃんと読者に寄り添ったモノを描かないと!」


「私もそう思います」


「必要なのは『斬新さ!』じゃない。時代とか空間とか世界とか言葉なんかを超越するパワーだよ! 狂気とも言えるエネルギーさ! 稚拙なお話なんて読まれたとしても何百年後の世界では淘汰されている! そんなのは必要ない! せっかく表現するのであれば、後世に残るものでないと! 作家の魂をぶつけて、鑑賞者に命を吹き込むことこそが創作の醍醐味だ! 夜風を浴びながら、公園のべンチで読む作品は最高だろう!? 街頭の光に包み込まれながら、学生時代の思い出に浸りたくなるだろう! 小説とは、作品とは、そう在るべきだ!!」


「素晴らしいお考えですね」


「小説というのはね、凡人には書けないんだよお! 冷蔵庫に具材が無ければ買ってこないと料理はできない! 普通の人間の冷蔵庫には何も詰まっていない! だからこそつまらない凡庸なモノしか生み出されないんだ! 芸術とは爆発だと、偉人は告げていた! ぶっ飛ばなきゃいけない! 面白みのない、量産型の人間なんてねえ、小惑星の衝突と共に消えてしまえ!!」


「それはちょっとよくわからないです」



 アザミが興奮してソファーから立ち上がっていたので、私はゆっくり座ったままコーヒーを飲んだ。

 この異常っぷりにも少しずつ慣れてきだした。



「アザミ先生、コーヒー飲まれないんですか?」


「ああ、忘れていた。喉が渇いてきたねえ」


「ミルクを入れて差し上げます」



 コーヒーカップを引き寄せて、ミルクと砂糖を入れてアザミに渡す。

 満足そうに飲んでいる。



「さぁーてと、本題に入ろうじゃあないか。タイム・イズ・マネー。時は金なり。せっかくの貴重な時間だよ。ボクのファンでもある山田大先生の作品を拝見できるだなんて、250円じゃ買えないものだからねえ」


「そう言って頂けるなんて光栄です」


「ありがたいねえ。嬉しいねえ。楽しみだあ」



 私は鞄から原稿を取り出してアザミの前に出した。手帳を開く。

 アザミは原稿を一瞥して、コーヒーを口に含んだ。「少し苦いが最高だねえ」と呟く。どうやら気に入ってくれたようだ。よかったよかった。



「素直な感想を言っても良いんだよね?」



 はい。



「ボクの場合ーー感想というよりかは殆ど批評という形になってしまうけど、それでもいいかい?」



 覚悟はできております。



「よろしい。では読ませてもらおうかな」



 静かに頷くと、アザミは原稿を手に取った。

 顔つきが変わる。



 私は胸に空気を流し込む。



 アザミは天才作家だ。はじめて作品を読んだとき、あまりの衝撃に涙が止まらなかった。圧倒的な才能を目の当たりにすると、どうしようもなく虜になってしまう。この人にはそれだけの力があった。


 知っている。


 アザミが注意欠陥多動性障害を患っているということも、人の気持ちを考えられない自分に正直すぎる異常者だということも理解している。たぶん人間としてはあまりにも未熟な異物であることも、全部全部理解している。だからこその挑戦なのだ。


 私の作家生命を賭けたこれはーー戦争だ。

 単なる殺し合いだ。

 だからこそ、絶対に負けたくない。

 認めさせてやる。

 勝って、私も同じ土俵に上がってやる。


 この変人に、この天才に、憧れてしまった私の、最初で最後の大勝負だ。


 負けない。意地でも。死んでたまるものか。



 私は拳を握りしめる。

 緊張のあまり口内が乾燥してる。

 足の震えが止まらない。


 アザミが、靴を脱いでソファーの上であぐらを掻き始めた。靴下には穴が空いている。臭いはしないのに「ウッ」と鼻を摘みたくなる。見ないフリをする。



「……」



 アザミが原稿の一枚目を開いた。

 ゆっくりと指で文字をなぞっている。

 店内はやけに静かだ。

 換気扇の音が響いている。


 アザミが顔を上げる。目と目が合う。

 ふぅと息を吐いて、呆れたように言葉を告げる。




「吐き気を催す程、つまらない。駄作中の駄作だ。早く筆を折りたまへ。キミは──作家からは程遠い」





 

「感想は以上。それじゃ」


「ちょ、ちょっと待ってください!?」



 靴を吐いて立ち去ろうとするアザミ。

 状況が全く理解できない。



「さ、最初の一行しか読んでないじゃないですか……。そんなので、一体なにが」


「なにが、とは? 言葉は最後まで言い切りたまえへよ」


「なにが……わかるというんですか」


「んんっ? 全部だねえ」



 アザミがソファーに乱暴に座る。

 柔らかなソファーが衝撃で小刻みに揺れる。



「最初の一行目に全てが現れている。魂を込められているか、否かも。キミにはそれを感じられなかった。単にそれだけのこと」



 諭すようにアザミは言う。



「理解が出来ないというのであればそれまで。残念だよお山田くん。ボクのファンで、ボクに作品を読んで欲しいと頼むくらいだから相当な覚悟の持ち主だと期待していたのにねえ。……こんなのを持ってくるとは心外だよ。あまりボクを舐めないでくれるかな? キミはボクの作品を本当に触れたのかい? そこから何を感じ取ったんだ? どうして、ボクの作品と対話しておきながら、こんなことになるんだ……。キミはボクを冒涜するためにここへ来たのかい?」


「そ、そんなことはありません。ただ私は山田さんの作品を尊敬していて、どうにか山田さんに認めてもらいたくて……!」


「その結果がこのザマなのかい? あまりにも……醜い。擁護するわけではないけどねえ、ボクだってキミを否定したくてココに来たわけじゃあない! 勿論、期待だってしていたさ! だってボクの作品を好きだって言ってくれたんだからねえ! なのに、なのに……どうしてこんな……汚らわしい」



 アザミが震えている。どうしてか震えている。悍ましいモノでも見たかのように爪を噛んでいる。「ボクの作品は……こんな程度の低い人間が好むものだったのか?」とボソボソと独り言を呟いている。コーヒーには口も付けない。



「と、とりあえず落ち着いてください! まだ一行目ですよね? 続きを読んでみたら何かわかるかもしれませんよ!」



 そう、まだ一行目なのである。そんなので一体なにがわかるというのか。わかるはずがない!



「……ああ、ダメだ。読めない、読めないよ。ママ。こんなのを読んでしまったら、ボクの頭がおかしくなる。気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い」



 ボソボソと呟きながら、眼球を左右に振っている。

 気持ちが悪いのはどっちなのだろうか。

  

 コーヒーを飲む。

 不思議と気持ちが落ち着いてきた。



「どうしたんですか。読めないんですか? 私の作品が」

  


 私は脚を組む。アザミがソファーから落下する。


 

「アザミ先生、早く読んでくださいよ。確かに目の肥えた先生からすれば私の作品は駄作中の駄作かもしれません。でもそれはある意味、先生の知らないだけの世界かもしれませんよ? とりあえずしっかりと読んでほしいです。私の作品を、しっかりと」



 アザミが震えて、顔を覆っている。

 


「……どうしてキミはそんなに落ち着いていられるんだ……? これを自信満々に持ち込めるだなんて、正気の沙汰ではない。これを、こんなのを、なんで、そんな根拠のない、自信を持っていられる……? 」


「そりゃ持つでしょうよ。自分の我が子なんだから」


「我が子……」


「アザミ先生は自分の作品が好きじゃないですか? 私が私の作品を愛していないと、誰が私の作品を愛してくれるというんですか。当たり前のことでしょうよ」


「さ、作品? これが……作品?」


「ええ、あなたにとっては駄作かもしれませんけどね」



 コーヒーを一気に胃の中に流し込む。

 甘ったるい。やはりブラックにするべきだった。



「創作というのは“自由なる表現”だと思うんですよね。先程はあれこれ創作理論を並び立てておりましたが、結局はエンタメとして面白ければ正義なんですよ。いいですか、アザミ先生。あなたのお考えは古臭い。まるで老害だ。ずっと尊敬してきましたが、ここまで落ちぶれていたとは。がっかりです」


「な、なにを……」



 立ち上がってアザミを眺める。

 どうしてこんなやつにビビってしまったのだろうか。

 自分が恥ずかしくなる。



「読んでくれませんかね? 私の作品を。声に出して、しっかりと最初の一行目から。それができないんですか? それほどまでにあなたを落ちぶれてしまったんですか? 何が狂気の天才だ。周囲から持ち上げられていつまでも調子に乗りやがって。さっさと王座を譲れ」



 よくも俺を貶してくれたな。

 絶対に許さない。

 これは戦争だ。生きるか死ぬかの戦いだ。

 お前が朽ちるまで、俺は生き続けてやる。




「どうしたクソババア。できねぇのか?」




  


 最初から簡単なことではあった。

 むしろ簡単すぎる事象でしかなかった。


 奴は人間的には問題はあったが天才であることは間違いない。そんなやつにここまでボロカスに貶されておきながら正気を保てている俺もやはり“普通”ではないのだろう。なーんだ、非凡だったか。さっすが。



「あ、あたまがおかしい……」


「それはお互い様ですよね、先生」


 

 アザミが困惑している。いま自分が置かれている状況をきちんと理解できているのかも定かではない。元々精神病を患っていた異常者だ。創作以外のことは何もできない単なる嫌われ者である。こいつから創作の才能を奪ってしまえばもう何も残るまい。



「言いましたよね、全てを盗むって。さあ、読みましょう先生。読んでください。俺の作品を」



 座り込んで原稿をアザミの前に持ってゆく。

 目の前に掲げる。突きつける。



「よ、よめない。よめないよめないよめないよめない。よめないよママ。これはなんなの? なんなのこれは? なにこれ! わかんない!わかんない!わからん!わからない! わかんなああああああぁぁい!!」


「先生は作品を読むことすら出来なくなったんですか? 才能尽きたんですか? じゃあ、もう小説書けないですね。作家としてクビですね。引退ですね。そうですよね、先生は頭がおかしいですもんね。あ、そっかー。だから家族に見捨てられたのか」


「捨てられてない捨てられてないよ、助けてママ助けてママ助けてママ。助けて助けてたすけてたすけて」


「いつまで幼児化してるつもりですかー? もう立派な成人ですよね、アザミ先生。『ボク』なんて第一人称を使っているけれど、性別女ですよね。偽らないでください。安定しないですよね、色々と。そのダサい服装も自分を覆い隠すためですか? 本当の貴女はどこにいるんです? 先生は病気なんですよ、早く病院に行ってください」


「いきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないよぉっーーーーー!」


「なら死ねばいい」



 私はアザミの耳元でそう告げる。

 何が天才だ。この程度の脆い精神力でよくも私を散々愚弄できたな。コイツだけは目障りだった。



「アザミの花言葉を知ってますかね? 【独立】【触れないで】。これは誰に向けた言葉ですか? ああ、あと【報復】って意味もありましたね。これはどちらかといえば私に近い。ならば、私が盗みましょう」



 アザミの名前は私がもらう。

 私は山田。どこにでもいるあり触れた人間。

 どこにでもいて、どこにもいない、一人の人間。



「お前はもう終わりだ。アザミ。安心して作家を引退しろ。お前の後は俺が継ぐ。他人の作品をまともに読めなくなった挙句に愚弄する最低な人間に、上質で高尚なモノなど産み出せるはずがない。お前がクビになるのを全極東が笑っているよ。わかったなら、とっとと消え失せろ──時代遅れの産物」


 

「ああああああああああああああああ!!!!!!」



 発狂したアザミがそのままの勢いで喫茶店を出てゆく。

 薬の効果は絶大だ。

 精神異常者にはあそこまで効き目があるとは。


 俺はアザミの飲みさしのカップに手を伸ばす。残っていたコーヒーを飲み干すと、確かに狂いたくなるくらい頭がぐわんぐわんと揺れた。


 これで少しはアザミに近づけるのだろうか。



「ふぅ……」



 胸ポケットからタバコを取り出して一服する。

 天才作家はこの世に二人もいらない。


 テーブルの上には原稿が置いてある。


 一行目には「うんこぶりぶりぶーりぶり」と書いている。ふはは、ざまぁねぇなアイツ。


 午後16時。夕日の見える駅前の喫茶店。

 やはりここのコーヒーは最高だ。

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