ふとした疑問、投げかけられて

 …………………………。

 ……うん、一旦落ち着こう。


 要するに、だ。

 白黒の闇狼装備で疑惑にリーチがかかっている所に、アクセサリもペアルックにすることで答えを確定させようってことか。


 闇狼装備は炎狼装備の亜種だから見た目に関してはどうにか誤魔化せるけど、アクセサリもとなると言い逃れ出来ねえもんな。


 ………………。

 …………………………ふう。


 天井を仰いで、深く息を吸って、ゆっくりと吐き出す。

 それから視線をライトに戻し、俺は声を大にして言う。


「おい、ライト……てめえは鬼か!?」


 偽装カップルプレイしろとか鬼畜にも程があんだろうが!


「うわー、ジンムがこんなに取り乱すなんて珍しい。でもどっちかっていうと、鬼なのはジンムの方じゃない? ほら、チョコちゃん、時々ジンムの事を鬼みたいだって言ってるし」

「あー……確かに。チョコには悪鬼の類の呼ばれ方したことはあるけど……って、そうじゃねえよ! そんなんしたら完全に恋人同士に見られんだろうが!」

「「………………???」」


 ……おい、兄妹。

 何揃いも揃って、お前は何を言ってるんだ、みたいな顔してんだ。


「それで何か困ることがあるのか?」

「大アリに決まってるんだろ。そんなんなったらシラユキが迷惑だろうが」

「……だそうだが、シラユキさんはどう思っている?」

「へっ?」


 突然の問いかけにシラユキの動きがピタリと固まる。


「俺個人としては、ゲーム内の世界観に沿った扱い方をして欲しい所だが、シラユキさんが本当に嫌だったり、迷惑だと思っているのであれば、ジンムのと交換してくれて構わない。無理強いしたいわけでもないし、ジンムも拒否していることだしな」

「いや、俺は別に嫌とは一言も……!!」

「えっと、その……私は——」


 ほんのりと顔を赤らめながらシラユキは、


「ジンくんが良いのであれば、私は、このままでも大丈夫……です」


 弱々しい声ながらも言い切ってみせた。


「——とのことだ。それでも取り替えるか?」

「………………」


 答えを返す前に、一度シラユキの方を見遣る。

 すると、視線に気づいたシラユキが、俺に向かって柔らかく微笑んでみせた。


 ——クソッ、そんな顔されたらこれ以上はもう強く言えねえじゃねえか。


 もし、本当に嫌そうにしていたり、助けを求めるような表情をしていたら、いくら製作者の意向とはいえど拒むつもりだった。

 だが、シラユキが受け入れた以上、俺が余計な口を挟むのは野暮というものだ。


(本当……シラユキの度量の広さというか、優しさには感服するしかねえな)


「はあ……分かったよ。ライトの言う通りにする。これで良いんだろ?」

「ああ、存分に扱ってくれ」


 どことなくしたり顔でライトは小さく笑ってみせた。






「しかし……ジンムもよく分からないな」


 ふとライトに言われたのは、あれから暫く経ってからの事。

 新武器も受け取り、シラユキがログアウトしにマイルームに戻った後だった。


 本当はもう少しログインするつもりだったが、なんだか精神的に疲れたので俺もこのまま落ちようとしたところ、急にライトに呼び止められ、こうして部屋に残されていた。

 ひだりは研究開発室に移動しているから、この場にいるのは俺とライトだけだ。


「何のことだ?」

「お前のその自信の無さだ」


 はっきりとライトは指摘する。


「ジンムとシラユキさんと知り合ってからまだそんなに日数が立っているわけではないが、二人の関係性はなんとなく把握出来ているつもりだ。だからこそ、ジンムのその自己評価の低さの理由が分からない」

「……自己評価低いか、俺?」

「ああ。少なくとも自分が他者から好かれるような人間だと思っていないように見える」


 思っているっていうか……事実なんだよな。

 リアルじゃ友人って呼べる間柄の人間はほぼ皆無だし。


「表現として正しいか分からないが、コミュニケーションに難があるわけでもなければ、性格に大きな問題があるわけでもない。なのに何でそんなに自分が好意を向けられないと思っているような振る舞いをするんだ?」

「いや、何でって言われてもな……。実際、嫌われてるってまではいかなくとも、周りからは避けられてばかりだったからな。目つきが怖え、雰囲気が近寄り難い、何考えてるか分からねえ……って感じに」


 とはいえ、それを改善しようとしなかった俺にも問題があるんだろう。

 けど、別に他人からどう思われようとあんま気にならなかったし、ずっと一人でいても平気だったから、特に気にしてはこなかった。


 だからこそシラユキは——白城は、完全な例外だった。


「……なるほど、そういう事だったか」

「そういう事だ。じゃあ、話が済んだならこれで俺は落ちるぞ」

「待て。それならそれで一つ言っておきたい事がある」

「なんだよ」


 聞き返せば、ライトは数瞬の沈黙を挟んでから、


「余計な世話だから多くは語らんが、さっきの俺の要求をシラユキさんが飲んでくれた意味をよく考えてみてくれ」

「……あ、ああ?」


 要求って、アクセサリの事だよな。

 なんでいきなりその話になるんだ?


(——そんなの、シラユキが寛容だったってだけの話だろ)


 疑問に思うも、「以上だ」とライトは自身の作業に戻った為、俺は最後にお疲れ、と一言伝えてからそのままログアウトする事にした。




————————————

受け取ったアクセサリは正確には怨讐狼装備なので、パッと見で気付かれる可能性は少なかったり。とは言え、きっちり炎狼の魔核も素材に使っている為、どのみち言い逃れは出来ないのですが。

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